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静かなる歓喜

2020年11月25日@等々力陸上競技場
川崎フロンターレ対ガンバ大阪

フロンターレ、2020年J1リーグ優勝。
その瞬間、あの場にいれたことは、10年以上フロンターレを応援してきた中で、間違いなく最も素晴らしく、感慨深い瞬間だった。
色んな意味で。

このコロナ禍の中、2020年はなかなかスタジアムに足を運べずにいた。
政府の方針で、スポーツイベントなどは、観客を定員の50%に減らして実施しないといけない中、フロンターレの試合はなかなかチケットが取れなかった。
それでも、「スタジアムに行かないと!」と思ったのは、やはり中村憲剛が引退する前に、この目に彼のプレーを焼き付けたいと思ったからだ。

今年、新型コロナウイルスが静かに、確実に、市中で広がる中、私達は日常を失うことになった。
いつでも行けたスタジアムは、その門を閉ざし、目の前で試合を見ることが、どれだけ刺激的な事だったのか、改めて思い知らされた。
そんな「待ちに待った」久しぶりの観戦。
それが、優勝に王手をかけた大一番なのだから、興奮は収まらない。
もしかしたら、今年一番のワクワクだったかもしれない。

でも、観客はマスクを付け、声援は出せず、手拍子のみでの応援。
これまでのスタジアムとは明らかに違う空気。
静寂に包まれたスタジアムでは、選手の掛け声が響き、サポーターの手拍子がリズムを刻む。
でも、何かが物足りない。
それは、空気を支配しそこにいる人を巻き込むような…熱狂やうねりのようなもの…。
きっと、それらを生み出していたのは声だ。
声は空気を震わせ、人の肌に伝わり、熱狂やうねりを生み出すものなのだ。
でも、声が出せない今、うねりになりきれないさざ波が、押し寄せては名残惜しそうに消えていく…少なくとも私にはそんなふうに感じられた。

そんなスタジアムの中でも、フロンターレは5-0で大勝し、優勝をその手にした。
これだけ大勝した試合で、目の前でシャーレが掲げられる、しかも、チームを長年支えてきた中村憲剛は今シーズンで引退する…こんな盛り上がらずにはいられないシチュエーションでも、私達はただ拍手することしか出来ない。
本当なら、ハットトリックを決めた家長のチャントを歌い、前後左右の人達とハイタッチし、大声で叫ぶはずだったのに。
それが出来ないのが、何とも歯がゆい。
私がサッカーに求めているのはきっと、試合の行方やチームの結果だけではないのだ。
多くの人と同じ感情を分かち合うこと、熱狂とうねりに身を委ねること…そういうものなのだ。

1万人以上の人が集まっているのに、声がない、その光景の異様さにはとうとう最後まで慣れる事が出来なかった。
でも、そんな「異様な風景」の中で、確実に結果を残したチームと選手たちは本当に素晴らしかった。
ピッチの真ん中で嬉しそうにシャーレを掲げる選手たちに、止まない拍手を送り続けることしか出来なかったけれど、あの時スタジアムにいた私たちは、静かな歓喜という空気を明らかに共有していた。
今年はそれを体験出来ただけで、十分なのかもしれない。

願わくば…
今後は「静かな歓喜」ではなくて、「大きな熱狂とうねり」の中で喜び会える日が戻りますように。

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