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神奈川県立光陵高等学校での講演

【読んでくださった皆さんの現場で活用できるアイデアや試みがあったら、どんどん使ってくださいという気持ちで書いております】


2024年7月16日に神奈川県立光陵高等学校の視聴覚室で講演を行いました。
内容的には5月におこなった埼玉県立飯能高等学校での講演とあまり変化はありません。
このまとめでは、前半部分のウィキペディアではない部分について、説明を書きます。
ウィキペディアというテーマよりも、最近はとくに小学生~大学生、あるいは教員、父兄に対しての需要がおおいのがこの「ウィキペディア以外」の話です。
これらはすべてウィキペディアの話につながっていくマクラでもあるのですが、話をしている者としてここで共有することにより、役に立ちそうなところは使っていただきたいという意図によるものです。


前提

編集ワークショップを全員に対して行わないイベントでは、90分間話を聞いてもらうのはとても難しい。
例えば落語の大ネタでも1時間を超えるものはあるが、プロの話芸であっても1時間話を聞くには、聞く側の集中力は大きな要素となる。

パパパコメント

パパパコメントは、「みんながスマホやPCから投稿したコメントを、リアルタイムにPC画面上に流せるサービス」である。
これだけだとわかりにくいが、例えばプロジェクターに演者の画面が映し出されているとき、任意の「部屋」に入っている聞き手側がコメントを入れると、プロジェクターに映し出された画面上にコメントが表示されるものである。
ニコニコ動画の視聴者によるコメントのような感じで画面に表示され、すぐに消える。


生徒さんたちはタブレットやスマホを持っているので、講演内容に対して突っ込む、クイズやアンケートをおこなうなど、参加ができることで飽きさせないイベントにするには有効なツールである。
(無料版でも十分使えますが、このツールを使うことで得られる効果はとても大きいので、購入をお勧めします)


ウォーミングアップを兼ねて、まず3問用意した。
1.有名になるよりも目立たずに生きていきたい(Y/N)
2.自分の長所をわかっている(Y/N)
3.ポケモンが好き(Y/N)

ツールの物珍しさと、自分が入力した文字列が画面に表示されるので、ワイワイガヤガヤとYとNの文字が表示される。絵文字を使う子もいれば、Yesと書く子もいる。
コメントは表示されてすぐ消えて、誰が何をコメントしたかはわからないようになっているけれども、ネットを介しているので何かしらのログが残っていると思うから、あまり変なことを書かないように」とやんわり釘をさす。

3問をこなすうち、空気が少し柔らいできたように思う。退屈な講義とは少し違うかもしれないと思ってくれたらありがたい。

ポケモン

私自身はポケモンをやったことがない。
情報や趣味が多様化してきた昨今の世の中では、視聴率が高いテレビ番組の話題でクラスほぼ全体が盛り上がることもなく、共通項を見つけるのは難しい。
そんな中でポケモンは、私のようにまったくやったことがなくても「そういうものがあることを知っている」「モンスターをゲットして操り、育て、戦わせる」くらいのことは、多くの人は知っているのではないかという期待が持てるコンテンツだろう。

「鯉のぼりはなぜ(魚なのに空に浮かんでいるのか)鯉なのか」という三歳児による素朴な疑問が「コイキングがギャラドスに進化する」という知識に広がる。
「知識と情報をつなげていくことで世界が広がり 楽しく学び また楽しみが増える」のだと強調する。

アイスブレイクを兼ねて、ポケモンから入り、その前段として、パパパコメントを使用しての質問を行った。

生成AI

生成AIの話は、ウィキペディアの話とつながるところは実はあまりないが、どの様なことができるものなのだろうという共通認識は知っておいたほうがいいと思うので、講演内容に加えることがある。

「生成AIは材料を入れるとネットを漁って何かやってくれる」という雑な説明の後、実際に生成AIを使うことで理解を深める。
この段階でもまだ空気は半信半疑で固い。なので、ビジュアル的に面白いものがいい。「好きな動物+好きな食べ物」として、生徒のひとりに好きな動物、もう一人に好きな食べ物を聞いた。「犬」「ラーメン」という回答を得た。
「犬がラーメンを食べている絵を描いてください」
とWindows11の画面の右下にあるCopilotを開いてお願いをする。

Copilotによる絵1
Copilotによる絵2

これら絵を含め4枚の絵が1分後にはプロジェクタのスクリーンに表示された。会場からどよめきと歓声と笑いが起きる。

「従来であれば、意図通りであるかどうかはともかくとして、このクオリティの絵を誰かに描いてもらうとしたら、あるいは自分で描くとしたら時間も労力もかかるはず。それがすぐに実現できてしまう」という解説を加える。
箸がうまく使えていない絵も表示されたので、「生成AIに自分が望むような結果を出力してもらうには、トライ&エラーと適切な指示文(プロンプト)が重要になってくる。これをプロンプト・エンジニアリングと呼ぶことがある」と説明。

次に文章。例題を3つ用意し、パパパコメントで選んでもらった。
A.『走れメロス』の読書感想文を「だ・である調」で200字で書いて
B.悪徳商法の「だましのテクニック」を200字でまとめて
C. テストの点が悪かった。なぐさめて

Aは学校の課題に使える使い方、Bは物事の要約、Cは質問でも何かを知りたいというわけでもない投げかけ。

夏休み前ということもあり、Cが選ばれた。
こちらもCopilotに入力すると
「それは残念でしたね。テストの点が悪いと気持ちが落ち込むこともありますが、失敗は成功のもととも言います。次回のテストに向けて、今回の経験を活かして頑張りましょう!何か具体的にサポートできることがあれば教えてくださいね。😊」
という回答が出力された。

「このように話し相手にもなってくれたり、学校の課題を代わりにやってくれるなってこともできる」としたうえで、これまで新しい技術によって人が失ってきた能力の例を挙げる。
紙や文字 → 記憶する能力
電卓・エクセル → 計算力
カーナビ → 地図を読む能力
ワープロ →文字を書く能力
自動車 → 移動する能力

「ヒトは便利さと自己の能力を取引してきた」
「ヒトにとって自ら直接手掛けなくてもよい作業をAIは担っていく」
と展開し、
「得られるのは学力ではない」
「便利に使うこともできるが自分の能力は上がらない」
「得られるのは生成AIの使い方だけ」
ということを説明。

ディープフェイク

動画による実例で、技術的には動画であっても別人の顔に挿げ替えられること、実在しない人物を生成することもでき動画にできることを説明

これら、「参加型コメントツール」、「ポケモンを例にした知識のつながりと広がり」、「AIによるリアルタイム生成例」、「有名人が別の有名人になる動画」、「おじさんが美少女になる動画」を講演の導入部とした。

情報リテラシー

情報リテラシーは「情報を受け取る時と、発信する時」と、明確に分けて話をするようにしている。

受け取る時

このフレーズは「わかりやすい」と評価をいただくことが多く、食べ物に例えることで理解が促せるのではないかと思っている。

情報を受けるときの注意というのはいかにも漠然としているが、学術的なことを勉強のように話をしてもおそらく伝わらないと思うので、
「主観と客観」
「真実(truth)と事実(fact)」→コナン君と整くん
「物理的な視点」→〇や△や▢に見える物体
「対象者による視点」→点字ブロックをさまさまな立場から見る
「誘導表現」→レモン〇〇個分のビタミンC
「曖昧表現」→全米ナンバー1
「思い込み」→「ファクトフルネス」を引用したクイズ
「見せかけの権威・数字」→いいねや再生数は買える
「アテンション・エコノミー」→Yahooニュースの見出し
「真偽」→産地偽装の例
「善意による誤情報拡散」→誰かのために広める行為
それぞれのテーマに対して、ひとつひとつ例を示し、わかりやすく解説した。

その情報が正しいかどうか・・・を追い求めるのは時間もコストもかかる。わからないという結論に至ることもある。
自分が情報を採用した理由・事前に検討する/言語化できるようにする
情報を鵜呑みにする癖がついてると→詐欺にあう/人に利用されやすくなる/いい加減な情報を広める人になる/人を傷つける
と展開し、2024年7月のACジャパンのキャンペーン動画を流した。

情報を発信する時

ネットで発信する時、法を犯してしまう行為として、大別すると誹謗中傷・犯罪予告・著作権侵害の3つがある。
誹謗中傷に懲役刑が導入されたこと、書き込んだ先が「問題ない」と判断しても被害者側による訴えで罪になることもある。

これまで発信してきたことを組み合わせて「モザイクアプローチ」をすることで、他人により自身が特定されてしまう可能性がある

特定の範囲しか公開していない発信情報でも、人との仲たがいや金儲けに利用されることで、トラブルに巻き込まれる可能性がある。

ネットでリアルの自分自身の姿をさらして耳目を集めるのは、もしかするともう古いアプローチかもしれないという例として、2023年の紅白歌合戦では素顔をさらしていない出演者が3組いたことを示す(すとぷり、マンウィズ、Ado)。

あるいは性的画像の素材になってしまったり、いたずらの素材になったり、自分になんの瑕疵や責がなくても悪い意味で有名になってしまうケースがある。


情報発信・シェアする時の注意
自分の家の玄関ドアに貼れるものだけをネットに発信する

匿名性はいくら金を積んでも買えない 」by  ジェーン・スーさん

多様性


このほか「多様性」の話をしたが、もう少しブラッシュアップしてから共有したいと思う。メッセージとしてデリケートな話題であると思うので。
ただ、多様性の重要さを示すフレーズとして
敵対している人からはパスは来ない
と伝えている。
若年層に対しての講義なので、未来を見据えて「自分にいいニュースをもたらすのは、自分に敵意を持っていない他人である」という意味合いで伝えている。

今回は最後にジャニス・ジョプリンの言葉を〆に選んだ。
「ジャニス・ジョプリンを知っていますか?」と尋ねると、先生の一人から手が挙がった。
そこでYouTubeから「Cry Baby」を20秒だけ流した

生徒の中からも「あ、知ってる」というような反応が多く見られた。

さて、ジャニスの言葉である。

Janis Joplin

重要なのは前半で、後半はヨシタケシンスケ先生の言葉に変えてもいい。
訳し方によってニュアンスが変わるが、
あなたはあなたが妥協したものになる」という訳が一番インパクトがあると思う。2分過ぎあたりにこのフレーズが出てくる。

終わりに


2024年7月16日にこの話をして、7月18日には久留米工業大学の学生さんに40人と100人以上、7月19日には筑陽学園高等学校で50人くらいに同様の話をしているのですが、そのシチュエーションに合わせて変えているところもあるので、また追ってnoteを更新したい。

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