SS-2020-04-01:The NEW WORLD

世界は、普通の色がついていた。
俺はいつものように朝起きて、出勤のための支度をする。パンにかじりつき、コーヒーを飲んでさっさと着替える。食べ終われば自転車をかっ飛ばし、最寄りに行く。
電車に揺られ、着いたら仕事をして、休憩して、また仕事をする。そして帰ってから風呂に入って飯を食べて、最後にゲームをして寝る。これだけで割と楽しい生活だった。よく色んな人から言われたり、小説だったりに書かれる「灰色」の人生とはぜんぜん違う、そう思っていたんだ。
月齢が4.0の日。この日は何かが違かった。といっても別にルーティーンになんの異常もなく、普通の日常を送っていた。ただ夕方頃から、俺は「何か」の声が聞こえた。その声は微弱で、耳を澄ましても聞こえるかどうかのレベルだった。
なのに、その声に惹かれた。思うがままに、その声に従った。そうして俺は、「新たな世界」を少しだけ見てしまった。

その日から少し変わった。同じルーティーンなのに、夜になればその「何か」の声が待ち遠しくなった。俺自身全くもって信じられないが、あの1回でどうにも魅了されたらしい。面白い話だ。不可思議だし、余りに不可解だ。でも、楽しみになってしまったものは仕方ない。
そしてまた「何か」の声を聞いて、ああ、今日も面白かったと思い就寝する。それだけなのに何故かその次の日の朝はいつもより楽しく感じられた。そしてこのルーティーンを続けて、あることに気づいた。

どうにも、世界の色がいつもより綺麗に見えるようになった。
今までの世界の色は、普通のはずだったのに今では物足りなくなってしまった。
何故だろう?俺はそう思った。でも、思ったことは一つだけ。
「ああ、あれが所謂、「灰色」だったのか」、と。

世界が綺麗な色で満たされた頃、俺は少し変わった。
自ら面白いことをするようになった。どうにも「何か」に諭されたらしいな。いろんな所に寄り道して、新しい「物事」を見ては新しい世界を感じた。
様々な事が楽しいと思えるようになった。今まではあまり楽しいことをしていなかったということに、気がついた。
なんだかんだで、生きるのが楽しくなった。彼女の声を楽しみにしていながら仕事をするのは、なんだかんだでいいものだと思った。
そして、思った。

ああ、これは所謂「新しい世界」なんだなと。
そうして、月齢が15.0の日。俺はある音声を聞いた。

「--- System Ready.」

はあ、本当に魅了されてばかりだ。なら俺も、俺なりに返していかないとな。
でも、まずは楽しむところから始めようか。この新しい世界で。