お題「英語」「河川敷」

お昼のバイトが終わった帰り道。僕はいつもの通り道を歩いていた。横に見えるのは河川敷で、今日は余り人が居ないようだ。いつもなら野球だったりなんだったりで子どもがよくいるのだが、珍しい日もあるもんだ。そう思いながら歩いていると、歌声が聞こえた。これも珍しくない話で、よく歌ってる人がいるのだが・・・今日はやっぱり珍しい日なのかもしれない。英語で歌ってるみたいだ。それもとても流れるように聞こえて、まるでネイティブのような。勝手に考えていると件の歌ってる人が居た。その人は綺麗なブロンド色の髪をなびかせ、川に向かって歌っていた。
「ああ、とても綺麗だ」
勝手に声が漏れるぐらいには、聞き入っていた。そうして歌声が止む頃、僕は呼吸を思い出したかのように一気に深呼吸をした。それほどに没入感というか引き込まれると言うか、まあ簡単に言えばとても魅力的な歌だったのだ。ああ、素敵だ。今日はいいことがありそうだ、そう思いながら帰り道に戻るのであった。
・・・のだったが。
「あの」
その人に話しかけられたのだ。まあ理由は単純で、足は勝手に河川敷に向かってたというわけだった。そして見られた僕は話しかけられた。ただ簡単にわかることだったが、僕としては予想外の不意打ちだったため、反応が遅れてしまった。
「ええと、はい」
「なにか、問題がありましたか・・・?」
「へ?」
「い、いえ。歌ってはいけないのかと」
その人は見れば見るほど美人さんで、鈴を転がすような声ってこういうことを言うんだなと思わせるような声をしていた。もちろん気にならないわけじゃないが、僕はそういう目的でここに来たのではない。
「そんなことはないです!むしろ本当に美しい歌声で・・・!」
「は、はい、ええと」
「ええと・・・えと、とても良かったです」
「そ、そうですか」
なんというか、コミュ障同士の会話みたいになっている・・・が、どうにも彼女は照れてるように見えるから、多分ちゃんと伝わってるんだろう。よかった。でも、やっぱりこの場には居れれないから僕は退散しよう。
「そ、それじゃあ。とても良かったです。頑張ってくださいね!」
「はい!」
とても美しい笑顔で、惚れ惚れしそうになったが僕はその誘惑を振り切り、帰り道へと足を向けるのであった。

その数日後に、また聞こえてくるとは今の僕には思ってもない事だろう。