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夏の光

梅雨も明けた7月、いよいよ夏は本番を迎える。薄っぺらく空に広がっていた雲も、いつの間にか分厚く大きな入道雲に変わっていて。あぁ、夏だ。夏がきたんだ。と感じさせられる。少女の夏服のセーラは長袖から半袖にかわり、おろしていた長い髪も後ろでひとつにくくり上げる。授業中はエアコンの冷たい風が教室に広がって、閉め切った窓の向こうから聴こえてくるであろう微かな蝉の鳴き声に、涼しい室内でよかったと優越感に浸る。
行間休みは、教室がざわついている。まるで、授業中とは全くの別世界にいるみたいだ。
とても長かった退屈な6時間の授業も終わり、10分間の掃除が始まる。異なる学年の人たちがせっせかと廊下を行き来して、スピーカーからはお馴染みの音楽が流れる。
放課後、まだ陽が高い内に、学校を出て、自転車をこぐ。狭い住宅地を抜け、やがて広い海が見えてくる。お日様に反射して、海の水面がキラキラと美しく輝く。ふと、思い付いたように自転車をキキッと止める。暑苦しいローファーと靴下を脱いで自転車のカゴに入れ、砂浜に足をつける。日にあたって砂が熱くなっていて、少女は岸辺まで駆け足でいって、恐る恐る波打つ海へと入る。足首まで浸かった足がどんどんと海に馴染んで心地よい。気持ち良い、そう思って膝下ぎりぎりの所まで奥に行き、少しのあいだ涼しむ。目を閉じて、波の音を感じる。ザー ザー と緩やかに聴こえる音と共に、向こうでキャッキャと小学生らしき子たちがはしゃいでいる声も聴こえてくる。
ふと、空を見上げる。眩しい太陽を、手で塞ぐようにして、見上げる。指の隙間から射し込む陽の光が目に突き刺さるようだ。だけど、手の向こうには、陽の光だけじゃなくて…もっと他に見えるものが、ある気が…した。
きっと気の所為。

#イラスト #夏 #超短編小説

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