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君の隣⑥忍び寄る影

事件から数日休んでいたが、お店を閉めたままにはできない為久しぶりに店を開ける事にした。
僕達は社長の好意で社長の持ちビルに店舗をそれぞれ入れさせてもらっている。

5F弁護士事務所
『courage』クラージュ
千陽さんの弁護士事務所。

4Fアパレルショップ
『color』事務所
彰人くんの経営するブランドの事務所。

3F美容室
『cinq 』サンク
永太さんの経営する美容室。

2Fスポーツジム
『beauté』ボーテ
流風の経営するスポーツジム

1Fフラワーショップ
『MONO』
僕の経営するショップ。

彰人くんは自分のノートパソコンを僕の店の奥の事務所に持ってきて仕事をするらしい。
そこまではいいよと言ったが、リモートに慣れているからどこでも仕事はできるとドヤ顔をされた。

午前10時、早朝から仕入れに付き合ってもらった為彰人くんは眠くなったのか奥の事務所でうたた寝をし始めた。
僕はそっとブランケットをかけてから、店を開ける事にした。

「いらっしゃいませ。」
「おはよう、水樹くん。」
「あ、霧島くん、来てくれたんだね。ありがとう。」
「今日は母に花を贈ろうと思ってね、お願いできるかな。」
「もちろん喜んで。」
「ピンクイメージの花束をお願いするよ。」
「わかった、希望の花とかある?予算は?」
「君に全てお任せするよ。予算は5000円くらい。」
「20分くらいかかるけど、どこかに行ってくる?」
「いや、ここで待ってるよ。」
「じゃあ、椅子持ってくるね。」
僕は霧島くんを椅子に座らせ、ピンクと白の花を選び花束を作り始めた。

「水樹くん、君の選ぶ花はとても綺麗だね。それに手際がいい。」
「褒めても何も出ないよ。でもありがとう。」
「後、もう一つ僕の気になる人に送りたい花があるんだ。」
「あ、そうなんだ。メインは何の花にする?」
「そうだなぁ…黄色い薔薇。」
「えっ」
「今無いなら後日でもいいよ。」
「そ、そうなんだ…」
手が勝手に震え出した。気づかれたらまずい。
早く彰人に知らせないと。
「もしかしたら事務所の奥にあったかも。見てくるね。」
とその場を離れようとした。
「待って。」
いきなりすごい力で腕を掴まれ、体が硬直してしまった。
「そんなに急がなくていいよ。」
まずい、声が出ない。
考えれば考えるほど恐怖で動けなくなってしまった。
彰人くん助けて…。

「その人の手を離してあげてくれませんか。」
「えっ」
入り口から聞き慣れた声がして、次の瞬間僕はその人の後ろにいた。
「あ、いや、僕は別に…」
慌てて霧島くんは店を出て行った。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか。」
「大丈夫です。ありがとうございます。海都さん。」
「今日も花束をお願いしようと来たら、水樹さんが恐怖で動けなくなっているように見えて、声をかけてしまいました。」
「本当に助かりました。ありがとうございます。花はいつものですか?」
「そう、母の月命日なんで。」
「かしこまりました。月の花を1種類プラスでしたね。」
「そうそう、母にも季節を感じてほしいですからね。」
にこっと上品に笑うこの人は越田海都さん。
確か30歳でIT企業の社長さんだったと思う。
うちの常連で月に一度お母様の月命日に花束を注文しに来店される。
僕が海都さんの花束を作っている時彰人くんが奥から出てきた。
「あ、いらっしゃいませ。」
寝起き悪っ。
不貞腐れた表情で海都さんを睨む彰人くん。
「海都さん、僕の高校時代からの先輩です。寝起きで機嫌が悪いみたいで。失礼な態度ですみません。」
「あ、先輩さんね。大丈夫ですよ。」
とにっこり微笑んでくれた。
「あの、海都さん、先程助けていただいたお礼がしたいんですが、お時間ある日とかありますか?」
「お礼なんていらないですよ。当たり前の事をしたまでです。でも、お食事とかなら一緒に行きましょう。水樹さんの都合のいい日でいいですよ。僕が空けます。」
「え、2人で食事?俺も行ってもいいですか?」
「だめ、助けてもらったお礼だから。」
「もちろんいいですよ。彰人さんも是非。」
と海都さんはにっこり微笑んだ。

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