君の隣④撮影1日目
朝、控室に行くと彰人くんがもう来ていた。
僕達2人は同じ控室らしい。
「水樹、おはよう。」
「あ、おはよう。彰人くん。」
ぎ、ぎこちない…
台本は読んできた。
今日の予定は知っている。
顔を近づけられたり、抱き寄せられたり、頭を撫でられたりと…僕の心臓耐えられるかな…。女の子ともこんな事した事ないのに。
「どうした?」
不意に肩に触れられ、びっくりする。
「あっ、うん、大丈夫。」
「リハーサル前に練習するか?」
「え。い、いいよ。」
緊張でドキドキが彰人くんに伝わりそうだ。
ぼーっとしていたら、ゆっくり彰人くんの顔が近づいてきた。
あれ?今日は顔を近づけるだけだよね。
こんなに近くに来たら…
柔らかいものが唇に触れた。
「ちょ、ちょっと。今日はギリギリで止めるんじゃなかった?」
「あれ、おかしいな、俺、距離感わからなくて…」
本当か?いたずらっ子の様に笑う彰人くんを思わず睨んだ。
「それと…」
いつもの彰人くんより今日はテンションが高い気がする。
と考えている時にいきなり抱き寄せられた。
「こんなのあった?」
ハグされたまま離してくれない。
「いや、水樹、今日いい匂い。」
「は、離して。台本のハグこんなに長くないよね。」
やっと離れたと思ったら、見つめながら頭を撫でられた。
「今日はいつもより水樹が可愛い過ぎる〜。」
「彰人くん、そ、そんなセリフあった?」
「え、俺が思ったことだけど。」
「またからかって。今日は緊張していっぱいいっぱいなんだから。」
「だってこれから恋愛する役だし、お芝居以外でもそうしておくと演じやすいだろ。」
「え、そうなの?それが普通?」
「そうそう、俳優の友達が言ってた。プライベートでも触れ合うぞ、俺今日から水樹の家に泊まるから。」
「え?あ、そうしたほうがいいなら、べ、別に僕は構わないよ。」
控室での練習のおかげかなんとか本番は緊張せずに終わる事ができた。
彰人くんのおかげだな。
「彰人くん、助かったよ、緊張ほぐしてくれてありがとう。」
「どういたしまして。いつでもしてあげるよ。」
「うん。」
「さあ、行こう、水樹」
「え?どこに?」
「水樹の家だろ。」
「え、あ、そうだったね…」
「嫌なのか?」
「いや、そう言うわけでは…」
「じゃ、俺の家にしようか。」
そっちか…
「僕枕変わると眠れないから…」
いつも間にか彰人くんの車に乗せられ僕の家に行くことになった。
「僕も車あるけど。」
「春翔さんに頼んだ。」
「別に僕が運転すれば春翔さんに迷惑かけなくて済んだのに。」
「だって水樹といたかったんだもん。」
「今度はやめてよ。」
「わかったよ。ごめん。」
「ところで、荷物彰人くん家に取りに行く?」
「俺持ってきたから大丈夫。」
許可取る前から来る気だったのか。
「あ、うん、わかった。夕飯の買い出しはして行こう。何が食べたい?」
僕も結構彰人くんに甘い。
「俺は水樹の料理なら何でも好き。」
「もう、わかったよ。」
夕飯の買い物をして家に着く。
玄関の扉に鍵をさした時、異変に気づいた。
あれ、開いてる?
僕の変化にすぐに気づいた彰人くんは僕の前に出て扉を開いた。
一瞬彰人くんの肩が硬直したように感じた。
「どうしたの?」
彰人くんからの返事はない。
恐る恐る彰人くんの横から覗くと、廊下には一面ピンクの花が散らされていた。
一見素敵に見えるが、僕にはすぐこれがどれだけ狂気じみているのかがわかった。
「い、イカリソウ…」
次の瞬間目の前が真っ暗になった…
目が覚めると、僕は自分のベッドにいた。
あ、悪い夢だったんだ…なんてわけない。
だって目の前には心配そうなメンバーと社長とマネージャーがいたから。
現実なのか…
「はぁ…」
ため息だけでみんなが一斉に僕に注目する。
「あ、あの…なんでみんないるの?」
「空き巣が入ったらしい。警察の方達はもう帰ったよ。ものが取られたり壊されたりはないみたいだ。」
「あ、水樹、喉乾乾いてない?」
「あ、うん。」
「水取ってくるよ、あ、社長、春翔さんちょっといいですか。」
「あ、ああ。」
「水樹、大丈夫か?」
「千陽さん、すみません。」
「みんな心配で来ただけだ。誰一人強制されていない。」
「怖かったわね、水樹。」
「永太さん…」
思わず抱きついた。
永太さんに頭を撫でてもらうと落ち着く。
「水樹、俺たちがいるからな。」
振り向くと眉を8の字に曲げた流風がいた。
「ありがとう。」
ニコッと笑うと何かが頬に落ちた。
「泣かないの。可哀想に。」
永太さんに涙を拭われて初めて自分が泣いている事に気づいた。
その後、僕はみんなに会ってホッとしたのか、永太さんに撫でられて安心したのか眠ってしまった。
「社長、春翔さん、みんな、俺水樹を怖がらせたくないんです。盗聴器や、カメラが仕掛けられていた事は内緒にしておいてもらえませんか。」
「わかった、そうだな、犯人が捕まるまで黙っておこう。」
「でも、何であんなに怯えているのかしら。水樹は玄関先の花しか見てないはず。家の中の手紙や盗聴器の事は知らないはずなのに。」
「俺から聞いてみます。他の異変に気づいたかもしれませんから。」
「わかった。任せたよ。ドラマは一時中断になったと伝えてくれ。」
「わかりました。水樹が起きたら俺の家に連れて帰ります。」
…………………………………………
水樹くん
君は僕のものだ。
誰にも渡さない。
いつも見ているよ。
…………………………………………
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?