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君の隣⑨撮影再開

あれから1週間あっという間だった。

あの夜、実は僕は目覚めていた。
ぼんやりとしている時、看護師さんが2人入ってきたのでびっくりして目を閉じたんだ。
顔をのぞかれ、綺麗だとか言われて恥ずかしくて更に目が開けられなかった。
その後、入ってきたのは彰人くんだった。
やっと目が開けられると思ったのに僕の顔の近くで綺麗だとか言い出すから、どうしていいかわからなかった。その直後唇に温かいものが触れ、キスされたと気づき、慌てて目を開いてしまった。
何でこんな状況になるんだよ。
まるで王子様のキスで目が覚めたみたいじゃないか。
動揺したが、ここは気づかぬふりを通そうと何も無かったように振る舞って彰人くんを帰した。
何で彰人くんはあの夜僕にキスをしたんだろう。
ぐるぐると考えがまとまらず、モヤモヤした気持ちのまま2日目の撮影日を迎えてしまった。

「おはよう、水樹。」
「お、おはよう彰人くん。」
あの日から気になって仕方がないが今日も何も無かった事にして1日を過ごそうと決めていた。
なのに…
「今日はキスシーン撮りから始めます。」
何で…いきなり…思い出しちゃうじゃないか…
「水樹大丈夫か?」
何事も無かった様に余裕な彰人くん。
なんか僕だけドキドキさせられてムカついてきた。
「何でもないよ。ちょっと緊張してるだけ。」
「なんか怒ってないか?」
「怒ってません。」
「怒ってるだろ。ま、とにかく今は仲直りしよう。そうじゃないと演技に支障が出る。」
「ま、そうだね。」
「おいで。」
何故かハグする事に。
何でハグ?って思っていたら、おでこに温かいものが触れた。
おでこにキス…
僕は顔が熱くなった。絶対真っ赤だ。
「何するんだよ。」
「え、仲直りのキス。」
「撮影前から揶揄わないでよ。」
「撮影になったらもっとするんだぞ。こんなんで緊張してたらダメだろ。」
「それはそうだけど…」
余裕な彰人くんにイラッとする。

今日の撮影一つ目のキスは彰人くん演じる春があまりに揶揄うから、怒った僕演じる紅がムカついてしてしまうキスのシーン。それまでは紅の片思いで春がそのキスの後意識し始める大切なシーンだ。
僕からか…
揶揄う彰人くんは春とよく似ている。
だからこそ僕はやりにくかった。
まるで彰人くんにキスしている様に感じるからだ。

3回やったものの、どうしても出来ず、監督から休憩とまで言われてしまった。
凹んでいる僕に彰人は一度控室に戻ろうと声をかけてくれた。
「な、水樹、俺の事一度好きになってくれないか。」
「え。」
「好きだと思えば気持ちで体が勝手に動くと思うんだ。」
「そう言われても…」
「俺の好きなところ言える?」
「あ、それなら言えるよ。僕の事をいつも見ていて頑張っているところを褒めてくれる所、いつもふざけているけど、周りの人をよく見てみんなに気を遣っている所、嘘は絶対つかないから信用できるし…」
「あ、もういい。聞いてて恥ずかしくなってきた。どう?俺の事しばらく好きになれそう?」
そう言われてみれば、今まで助けてもらった事がいっぱいあったな。
いつも僕を優先してくれて…
「うん、大丈夫そう。」
「じゃ、戻ろうか。」

その後、そのシーンは1発でOKが出た。
控室に戻り、次のシーンの確認をする。
二つ目のキスシーンは付き合い始めた後の部屋でのシーン。ふざけていた途中突然真剣な表情になった春からゆっくり近づき紅に優しく口付けるシーン。
「付きあい初めてすぐの設定だな。撮影が始まるまで手を繋いでいようか。」
彰人くんの提案で手を繋いだまましばらく過ごした。
「水樹の手ってちっちゃいな。」
「はぁ?喧嘩売ってる?」
「いや、可愛いなって。」
そうか、恋してたらなんでも可愛く見えるもんだよな。
じっと彰人くんを見つめてみる。
「彰人くんのまつ毛って長いね。」
僕がニコッと笑うと急に彰人くんの笑顔が無くなり、真剣な表情で近づいてきた。
ゆっくり顔が近づき、鼻同士が触れた時、控室の扉が開き、撮影スタッフが入ってきた。
「撮影が始まります。よろしくお願いします。」
「今の感じだよね、僕大丈夫そう。ね、彰人くん。」
「お、おう。」
いつもより言葉が少ない気がしたけど、多分緊張してるんだよね。
その後の撮影はなんと1発OKで監督に褒められた。

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