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「オルタナティブ」♡1

20歳。
先の生き方を決める頃。

※※※
「ヒナさん。デートしましょう」
とんでもない剣幕で、ミツキから通話がかかってきた。
「デートというか、作戦会議」
「あ、はい…」
荒れに荒れている。用件は、大体分かる。
しょうがない、付き合ってあげよう。

「シン兄に、彼女ができました」
まあ、それだよね。

普通に、良いことだと思う。
彼は色々と女難にあいすぎて、仙人にでもなってしまうのではないかと心配していた。
どんな娘と付き合ってるのかは、ちょっと興味がある。

「私は認めてませんからね。ヒナさんですらギリだってのに」
…本気で嫌なら、この小姑は相談などせず一人で暴れまわるだろう。
むしろ、私が懐かれすぎなくらいで、ミツキがそこそこ許すくらいはいい人なんだと思う。

「なんか大学の学部の子で、進路とか興味が近くて仲良くしてるみたいですけどー。教師になるんだから、ちゃんと勉強に集中してほしいもんですけどね」
初めて会ったときみたいに、ストローをグニグニいじる。
19歳って、こんなに幼かったっけ…。
最高学府の法学部にいる俊英がこれだと、国の将来が心配になる。

「…でも、ミツキも、ソータくんと」
「あいつは奴隷です」
にべもない。

「つーかあいつ、同じ大学入ってから腑抜けてるんですよ。エリート学校出てニートになった奴なんて、ネットを見れば溢れかえってるんだから、しっかりしろっての」

どうもそれは、司法試験に向けて頑張る誰かさんの健康を気遣って不器用なりに料理やらなにやらを勉強してるからみたいだけど。
可愛いから、ほっとこ。

「私の話は良いんですよ、シン兄のことです。どうせまた女がヘラってるとこに付け込んでタラシこんだんでしょ」
怒りの矛先、間違えてない?

吉井くんの家から大学は通えない程じゃないけど、せっかくだからと一人暮らしを始めている。
あまりにもミツキが突撃していくものだから、一回本気で叱られたらしい。
その件もあり、ブーたれている。

「ていうか、いい加減兄離れしなよ。もう成人だよ?」
「ううー、ヒナさんまでそんなこと言うんですかあ…。良いですよね、ヒナさんは優しそうな彼氏さんがいて」

「私の話はそれこそ良いでしょ。最近浮気ぎみだし、マンネリで扱いが雑になってきてちょっと冷めてんの」
「えー、恋人って基本的にずっといちゃついてるもんじゃないんですか?同棲とかならあれですけど」
「少女漫画じゃあるまいし…」

ずるずる続いちゃったし、別れるなら早い方がいいかもな、と思うけど。
互いのどーしようもない部分を諦められるような相手を、ここから捕まえられる気もしない。

ミツキの方こそ、自然体で話せる相方がいて羨ましい。
下僕扱いしてるけど、くっつくかはともかく大事な存在だろうと思う。

ただ、医学部に行くような成績で、『あんな激務についたらヤツの面倒見れなくなる』とか進路を変更するのは、彼もちょっと重くない?と思った。

まあ、ミツキは口の悪さとブラコンがなければ絶対モテるくらい可愛い子だし、しっかりしてる。ソータくんは見る目がある。
シン兄命のミツキ相手に、それが叶うかは保証できないけど。

理想の先に、幸せはない。
メーテルリンク、青い鳥。
…これ、もっとシリアスな場面で使う言葉では?

「とにかく、その件で私が出来るのはミツキの愚痴を聞くくらいです。ちゃんとお話は聞いたげるから、お返しにこの後買い物と夕飯に付き合いなさい。私の愚痴も言ってやるから」
「はーい…自分だけお酒飲むのはナシですからね…」

やれやれ。
ところであのお姫様は、どんなキャンパスライフを過ごしているのやら。

※※※

「『自殺相談所』?」
大学構内を彷徨って、知らない場所に来た。
メンタルヘルス系か、オカルト研究会的なやつだろうか。

なんとも、縁起でもない響きだ。
私はこういう病み系・オカルト系が、好きでも嫌いでもない。
ただ、昔「座敷わらし」と言われていた思い出と、病んだ後輩の苦い記憶が蘇るため、どちらかというと避けたいと思っている。

周りに「絶対好きそうだと思ったのに」と驚かれるのけど、心外だ。
私は病みたくて病んだ訳じゃないし、人よりも少し物事を深く考えがちなだけなのに。

まあ、道を聞くくらい良いだろう。
扉を開ける。

「…誰だよ。今良いところだったのに」
子どもみたいにガチャガチャと、ゲーム機のコントローラーをいじっている。
「え…」
「なんすか。相談?今ラストマッチだから、ちょっと待って。…っし!逆転!」

ぶっきらぼうで、ゲームオタク。
背格好や顔の作りは中学の知り合いのシンくんに似てるけど、表情や雰囲気は全然違う。

「あの…あなた、名前は」
「だからなんなんすか、いきなり。…まあ、ランクマ勝てたし、美人さんだから、許すわ」

冗談みたいな態度。
それはまるで。

狭霧敦(さぎり あつし)。ここの部長っす」

キリが、私の前にいる。

次→https://note.com/ra_wa/n/n05e7169ed07a


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