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「神もどきへのアンチテーゼ」1

24歳。
現実ぶって生きる頃。

※※※

中学生のころ、私は神様が嫌いだった。
大切な存在であるキリを、私に与えて奪った。

神様は辛いときに、何もしてくれなくて。
私のことを、ひたすら見つめて。
ただその出来事を、物語につづるだけだ。

今は、どうだろうか。
ヒナノや、シンくんや、みんなに会わせてくれた神様を。ちゃんと嫌いで、いられるだろうか。

大人になって、仕事に就いて。しばらく、そんなことは考えなくなっていたけれど。
「世界に神様はいません」と、同僚に言われたら。
もうそんなの、思い出すしかないじゃないか。

※※※

「同じ痛みをみんなが抱えていると思うと、安心しますよね。悠里さんを一目見て、ピンときました。あなたは、私たちとともにあるべき人です」

私の何を、そんなに気に入ったのか。
爛々とした目で、金口眩(かなくち まぶし)さんはそう言っていた。

金口というのは、うちのお母さんの旧姓でもある。もしかしたら遠い親戚だったのかもしれない、なんて話で盛り上がったのが縁の始まり。

お仕事とか、いろいろ助けられていたんだけど。この手のカミングアウトは、ちょっとびっくり。

曰く、この世に神様はいないけど。
人は、傷を受け入れて成長する。

昔の偉人が、我々の罪を贖うために傷ついたごとく。同じ傷をつけ合うことで、我々は一つの群体として成長しよう。

…突っ込みどころは多いけど。私、そんなに傷を抱えてそうに見えたのだろうか。

「三つの理由で、お断りします」
私は、目を合わせずに答えた。
「その理由を、教えてください。最初に否定されるのは慣れていますので」
金口さんは気を悪くした様子もなく、微笑んだ。どうしてこういう宗教とかって、きれいな女性が必ずいるのだろうか。

「ひとつ。仕事に差し支えます」
「そんなことはないです。私を見てください。自分で言うのもなんですが、仕事の成績はそれなりだと自負しています。大事なのは、付き合い方です。何も、お布施や集会への参加をお願いしているわけではありません」

うーん、口がうまいな。この口実は、さばき慣れているのだろう。

「それじゃ、ふたつめ。私が抱えているのは、痛みではありません。寂しさです」
「寂しさ…」

「はい。私はこういう人間なので、よく電波だとか、辛そうとか、傷ついてそうだとか言われますけれど。
痛みなんて、本当に痛いだけです。そんなの、求めていないし、抱えていない。
そして、私の抱える寂しさは、他の誰とも共有できない。これは私だけの、大切な思い出とともにあるものです。一つの群体なんて、おぞましい」

「…素晴らしい」
金口さんは、感心したように頷いた。
あれ?
かえって、興味を持たせてしまったようだ。

「自分の痛みを乗り越える。それこそが、我々の求める姿です。悠里さんは、それを自らの定義で再解釈している。教えというのは、既成概念の押し付けみたいに思われがちですが、本質をとらえて再構成することこそが大切です。悠里さんはやはり、得難い逸材です」

興奮して食いついてくる。
営業トーク感が薄れた。
酔ったようなまなざし。
やばいな、話題を変えよう。

「あの…みっつめ、ですが」
これが一番、よくなかった。

「私は、神様を知っています。いつもそばで、見つめています」


次→https://note.com/ra_wa/n/nf2fc3547c416


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