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散文集「コード・コネクト」

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短編のうち、完結した話と世界が繋がっているものを集めています。 繋がっている必要があるものもないものもあるけど、名前や人間関係について唐突感があったらご容赦ください。
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記事一覧

「3000回の古傷へ」(単話)

「3000回の古傷へ」(単話)

千晴さん。
天野千晴(あまのちはる)さん。

僕です、チビタです。お元気ですか。
友達から、千晴さんは遠い国で素敵な方と幸せな家庭を築いたと聞いています。
色々とご不便もあるでしょうが、千晴さんならきっと楽しく乗り越えているのだろうと思います。

今日で、千晴さんが僕を刺してから3000日が過ぎましたね。何となく懐かしくなって、またあなたに手紙を書いてしまいました。

僕が千晴さんと初めて会った時

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「いとむすび」

「いとむすび」

《1》聖 結衣(ひじり ゆい) : 雑踏

私は昔から、行く宛もなく駅に立つ。
誰に呼び掛けることもなく、通りすぎる人を眺める。誰も彼も、私とは違って行きたいところがあるのだろう。

最近は、繁華街の待ち合わせ広場だったり。
観光地の入り口だったり。
色々なところで、すれ違う人を眺める。

たくさんの顔。たくさんの人生。
そこで私と繋がるものは、一つもない。

私は昔、恋人を亡くした。
恋人という

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「空砲とサンドバッグ」

「空砲とサンドバッグ」

✕✕✕

誰もお前を見ていない。

✕✕✕

私に津留崎 惠(つるさき けい)という名前をくれたのが誰なのか、私は知らない。
昔、育ててくれる人に聞いたとき、「答えられなくてごめんね」と悲しそうな顔をされたからそれ以来聞かないようにしている。

私には、顔も知らない弟がいるらしい。
一生出会うことはないと、育ててくれる人に言われた。
自分がひとりじゃないと知っている私は幸せだと思うけど、何も知らな

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「引かれ者の小唄」

明日の居場所を見つけられなかった僕だけが、昨日と同じ場所で減点を免れている。

※※※

無遅刻無欠席。
学生時代の自慢は、それだけだ。

どうしようもなく熱が出た日も、みんなで気に入らない先生の授業をボイコットしようとした日も、クラスメイトに無視された日も、僕はただそれだけを守った。

親戚のレイは手のつけられない遊び人で、それに比べて僕は良い子だった。良い子であることだけが、僕の誇りだった。

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「99/100」(単話)

※※※

マラソン大会の、8割くらい進んだ場所の苦しさって分かるだろうか。

運動が苦手な人は、最初の方から辛いらしい。
だけど、人よりも足が速かった私にとっては、最初のごみごみしてる場所は楽しかった。

皆を抜き去ってだれもいなくなったあとに、いつまで1位で居続けないといけないのか、そんな良く分からない世界で戦う方が苦しいのだ。

本気の世界なら違うのかもしれないけど、お遊びの行事ならそんなに戦

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「過保護な雨に花束を」

「過保護な雨に花束を」

※※※

団子サッカーって、 意味不明に楽しいよな。
兄さんはいつか、男の子みたく笑っていた。

※※※

雨はいつも、僕をサッカークラブの試合から守ってくれた。

最初は、仲の良い友達と遊んでいたかっただけだった。
でも皆みたく、僕は体を動かせなかった。
だんだん、お前と試合にでたくない、なんて言われるようになった。

仲が良かったはずの友達が、僕のことを見下しているような気がしている。僕がミス

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「ヴィア・ドロローサ」おまけ

「ヴィア・ドロローサ」おまけ

最初→https://note.com/ra_wa/n/naea6197d776f 
前→https://note.com/ra_wa/n/ndadcf65f3a9b 

※※※

「シー・ウァレース・ウァレオー」

※※※

僕は、痛みを愛している。罰されることを、愛している。
僕は、子どもを愛している。美しさを、愛している。

人より少しだけ、手が届く範囲が大きいと知っている。
人より少しだけ

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「ヴィア・ドロローサ」8+

「ヴィア・ドロローサ」8+

前→https://note.com/ra_wa/n/n2f602e633667 

※※※

錠剤が私を支配する。
私が《私》でいられる時間は、まだ短い。

先生は私といるとき、無理に笑うことをやめた。外に出て、なにも言わずに空を見たり、部屋で少し濃いコーヒーを2人で飲んだりする。

可愛い生徒の話やひどい知り合いの話、馬鹿な信者の話なんかを、時々する。
なんのオチもなく、会話が終わる。

いつ

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「ヴィア・ドロローサ」7

「ヴィア・ドロローサ」7

前→https://note.com/ra_wa/n/ncd8828d39497 

※※※

変人と名高いキリの奥さんからの謎電話を受け、俺はキリの評価が身内びいきでないことを実感していた。
ウチの問題社員は、家族まで問題児なのか。

キリいわく、自覚なく敵も味方も増やすタイプのようだが、どうやら俺は敵の方らしい。

いくらマモルさんが目下に甘いといっても、あそこまで馬鹿にした扱いを受けるいわれ

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「ヴィア・ドロローサ」6

「ヴィア・ドロローサ」6

前→https://note.com/ra_wa/n/nd97f3da0f5bd 

※※※

「座敷わらしのイカれた感性も、たまには役に立つもんだな。年貢の納め時だよ、衛くん」

美月ちゃんの背が伸びたように見えるのは、あまり見ないスーツ姿のせいだろうか。
幼く、可愛く、賢くて何より強い後輩。

そして、僕の尊敬する先生。赤ん坊がいるってのに、また無茶なことばかりして。
…もしかしたら、あの奥さ

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「ヴィア・ドロローサ」5

「ヴィア・ドロローサ」5

前→https://note.com/ra_wa/n/ne19eb271a19a 

※※※

「アン」
アンに会いたい。
《俺》をリンと、呼んで欲しい。

この世界は、物語だ。 
俺の魂が不十分なのは、書き割りのせいだ。
そう教えてくれたのは、アン。

俺と違って、アンは✕✕に愛されることが出来る。
✕✕と子どもだって作れるのだろう。

あのとき俺が✕✕から逃げたのは、対等でいられなかったからだ

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「ヴィア・ドロローサ」4

「ヴィア・ドロローサ」4

前→https://note.com/ra_wa/n/n38dbced095f4 

※※※

僕が子どもを作れない、そもそもそういうことをする準備が出来ない体なのを、自覚するのは割と早かったように思う。

そんなことはあまり問題に思っていなかったし、そもそも自分の遺伝子なんてものは残さない方がよいと思っていた。

「私に、魅力がないんだよね」
凜にとっては、それは結構大きなショックだったみたいだ

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「ヴィア・ドロローサ」3

「ヴィア・ドロローサ」3

前→https://note.com/ra_wa/n/n3fa2ce02e75b 

※※※

「…ねえ、《サギくん》」
私は旦那を、前のあだ名で読んでみた。
「おう、どうした、《おねーさん》」
ノリがいい人だ。

「今回の話さ、私どこまで首突っ込んで良いのかな」
「そういうこと気にすんの、珍しいな」
「うん。なんていうかさ、これがお仕事ならリンちゃんとお話をしていければいいかなーって思ってたんだ

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「ヴィア・ドロローサ」2

「ヴィア・ドロローサ」2

前→https://note.com/ra_wa/n/naea6197d776f

※※※

最初はたぶん、八つ当たりのようなものだったんだと思う。

衣笠小夜子(きぬがさ さよこ)はいつもウジウジしながら、どこかで私たちを見下しているように見えた。
自分の世界には関係のないモノのように、私たちを見ていた。

私は自分を可愛くすごい人に見せて強い奴に気に入られるゲームが得意だったし、それは学校の外

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