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暗い所で待ち合わせ

友人から、たくさん挽いたから、とコーヒーの粉をもらった。目分でだいたい5杯分だろうか。

夕飯後、洗い物を片してから淹れてみる。フィルターの中で熱湯を吸って膨らんだ粉から、砂糖を焦がしたような良い香りがゆっくり広がる。

ブラックで飲んだ。普段飲むインスタントよりずっと美味い。これが普段から飲めるなら友人のように手間をかけるのも良いのかもしれない。

まもなく眠くなってきた。夕飯も食べていたし、多少疲れてもいたのかもしれない。ソファにもたれて目を閉じた。


「おっ、来た来た。起きろ起きろ」

肘を軽く叩かれて起きるとテーブルの向かいに友人がいた。あれ?なんで居るんだ?あとうちのテーブルこんなに黒かったっけ……
……
うちじゃない。うちはこんなアンティークな喫茶店みたいな内装じゃない。
「何これ、俺、寝ぼけて来た?それともさらわれたの?」
「いや、じわーっとそこに現れてきた。」
???
「あと2人来たら麻雀しようぜ。」

疑問はたくさんあったが、友人の普段通りの軽い話ぶりを聞いているうちになぜかそれは薄らいで、どうでも良くなっていった。
「…そうだな、最近やってなかったし」
「それまで何か好きなもの飲んでさ」
そういえばさっきまでカップで何か飲んでいたような。しかし今、手元にはビールの入ったグラスが。
「…いろいろ気になるところはあるだろうけど、力を抜いてゆっくり過ごしてみてくれ。」
友人が少し申し訳なさそうに言った。
そうしてしばらく2人で飲みながら他のメンバーを待ったが、そろう様子はなかった。
「そろそろお開きにするか。麻雀はまた今度。」
「そんなに時間経ってた?」
この部屋に時計を探したが無いようだ。…俺は携帯電話を持っていなかったか?
「そろそろ意識がはっきりしてきただろ?」
何のことだ。
「またここに来たくなったら渡したコーヒーを淹れてくれ。覚えてたら」
あれのせいなのか?
「あと風味が落ちるから早めに飲んでほしい」
好きにさせろ。
……

「はっ」

自分の声で覚めた。ソファに涎がついてる。
テーブルの携帯を見ると、15分ほど眠っていたようだ。カップの底でコーヒーが乾かずにほんの少し残っている。何か夢をみた気がするけれどさっぱり覚えていない。

コーヒーはまた明日も飲もう。
美味かったし、早めに飲み切った方がいい気がする。カップを洗いながら思った。

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