【断髪小説】カットモデルの憂鬱

私は一応モデルをしている。が、全く売れていない。先日珍しくマネージャーに呼び出されて事務所に向かうと、仕事をもらってきたのでぜひ私にやってほしいとのことだった。それは後で知ったのだが、断髪ビデオへの出演であった。髪を切らないとクビにするとのことだ。どのくらい切るのかと聞くと、髪型はすでに美容室に伝えてあって当日まで内緒と言われてしまった。

撮影当日。マネージャーはおらず、担当する美容師も撮影スタッフも全員男性で肩が強張る。緊張してる?と聞かれたので、はいと答えると、そうだよね、とだけ言われた。やっぱりショートカットにされてしまうのではと思ったが、せいぜいお洒落なボブとかだろうと思っていたのは大間違いだった。首にタオルをきつめに巻かれ、手の出ないケープを着せられる。ネックシャッターもつけられた。これって短く刈り上げる時に使うものなんじゃないの?と不安で心臓がパクパクするが、これでもう逃げられない。

3.2.1カット!さて、撮影が始まった。鋏が当てがわれたのはなんと耳の下辺りだ。声には出さないが、えっ!?信じられないという表情で鏡を見ると、男性美容師は楽しそうにニヤニヤと笑っている。耳元でシャキシャキと殊更に大きく響く鋏の音。やだ、嘘でしょ、そんな短くするの?と困惑しているうちに、後ろ髪もその長さでバサバサと切られてしまい、後に引けなくなった。

ブロッキングしてチョキチョキと地肌に沿うように鋏で執拗に刈り上げられていく。もちろん刈り上げなんて初めてで、心臓の音が高鳴る。なるべく切らないでと願う気持ちとは裏腹に、かなり上の方まで刈り上げられてしまっているようだ。やっと鋏を置いたのでほっとしたのも束の間、今度は重厚な機械を手にして戻ってくる美容師。そう、バリカンだ。

カチャカチャと音を立てて準備すると同時に、不安げな表情が私の顔に浮かぶ。しかしそれも撮影されてしまっているので悔しくて仕方ない。じゃあ、バリカン入れちゃいますね、と高らかに宣言し、ちょっと下向いてください、と頭をぐいっと固定される。カチッ、ヴィーーーン!!けたたましい音をあげてバリカンが後頭部を進んでいく。やだ、ダメ、恥ずかしいよ…と思いながらも美容師はお構いなく刈り続ける。

やっとバリカンが終わると、刈り上げが見えるように、耳の半分くらいの高さで更に髪を短く切られてしまった。前髪も眉毛よりずっと上で一直線に。そう、私は刈り上げおかっぱにされてしまったのだ。

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