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元彼Y⑱愛してる

帰国したその日
彼の自宅に行く約束をしていた。
“久しぶりだね、あぁちゃん”
“逢いたかった”
抱きしめられて思った。
間違いじゃないって。
『私も、、、逢いたかった』
“え?今なんて?”
『逢いたかったって言った』
“はじめて言ってくれたね、そんなこと”
『はじめて思ったんだもん』
“はじめてなのかよ笑”

彼がお土産を袋いっぱい渡して来た。
『今日は仕込み無いんだね笑』
“そう、今日はダイレクト笑”
お菓子や雑貨やら色々入っていた中に
ラッピングされた四角い箱があった。
“それ開けてみて”
包装紙を剥がして中の物を取り出すと
クリスタルケースに入ったプリザーブドフラワーだった。
『きれい!!』
“ジュエリーだと思ったでしょ笑”
“ほんとはサプライズで買っちゃおうかなって思ったけど、さすがに引かれると思って花にしたよ笑”
『引くっていうか脅迫だよね、それは笑』
“それさ、色褪せないみたいだよ”
“うまく行けば長持ちするんだって”
“花のことよく知らないけど、それ聞いてあぁちゃんみたいだなと思って買った”
『枯れない女ってこと?』
“俺の前ではね笑”
『仕込んで来てるじゃん笑』


彼は365日休まず働いている人だったけど
翌日は珍しく夕方までオフだった。
“あぁちゃん、今日泊まっていってね”
“俺、飛行機で爆睡したし、
今日いっぱい一緒に居れるから”
いつもと変わらないテンションで
あれこれ話していたから
今日は話すタイミングじゃないな。
また次回にしよう、なんて思ってた。

彼がPCで書類を作ってる時に
私がティッシュの箱に落書きをしていたら
“そんな所に書かないで”って怒られた。
『ごめん』って言ったら
“ここに書いてよ”って言う。
木製のテーブルに、直に、マジックで笑
『こんなとこ書いたら消せないじゃん』
“だから、ここに書いてって言ってるんだよ”
“箱は捨てるじゃん、残せないでしょ”
“だからここに書いて”
そっち?
剛速球の変化球笑

私もちょっとやり返しちゃおうと思って
『じゃ、ちょっとあっち向いてて』
彼の望み通り、木製テーブルに油性マジックで、小さな文字を、迷わず書いた。
«I like you too.»
いいよ、こっち向いて
一瞬、え?って顔したあと、真剣な顔になって
“ちゃんと言葉で聞きたい”って言って来た。
『私もYが好き』
『Yのこと想ってる』
『たぶん前から』
『でも、言えなかった、どうしても』
笑い取るつもりだったのに、
彼の顔を見てたら涙が溢れて来た。
“迷ってたから言えなかったってこと?”
『かもしれないし怖かったのもある』
“俺のこと好きになるのが怖かったってこと?”
一言で返せない想いが湧いてくる。
彼は私を抱きしめて何も言わなかった。
背中をさすって私が落ち着くのを待っててくれた。
私も自分がまさか泣くとは思わなかったから、自分の感情を鎮めるのに時間が掛かった。

『ごめん』
『泣いたらずるいよね』
『なんか苦しくなっちゃった』
“俺のせいで?”
『それは違う』
『自分に対して』
“俺さ、あぁちゃん泣かすような事しないよ?”
“あぁちゃんの過去になんかあるとしても
俺は変わらないから”
“不安にさせたりしないから”
“それは信じてよ”
『信じられないから怖かったんじゃないよ』
『Yが怖かったんじゃない』
『自分が怖かっただけ』
“なんで?”
“話したら消える?その気持ち”
“俺にぶつけたら無くなりそう?”
『わからない。自信ない』
“なら、そのままでいいじゃん”
“あぁちゃんの心にあるやつ、無理にどうにかしようとしなくていいんじゃない?”
“それ俺が変えて行けばいいでしょ?”
“変えてく自信、俺あるから”
“守る自信、俺はあるからさ、俺に預けてよ”
“これ脅迫かなぁ?笑”

いつもそうだった
どんな時もこうして救ってくれた
私の心の隙間に入り込んで来て
平気で埋めて行く
大丈夫
臆病にならなくていい
間違いなんかじゃない
彼の温もりに溺れても
後悔しない

“あぁちゃん、俺の彼女になってくれる?”
“大丈夫だから、絶対に”

その後わたし何て答えたっけ?
彼が言った言葉は覚えてるけど
自分が答えた言葉が思い出せない
彼はそれ以上私に何も聞かなかった
確かめることもしなかった
もう途中で止まることも
やめることもしなかったし
迷うことなく私を奪ってくれた
確かな想いが生まれたから
私のこと信じてくれたから
あの日最後までしたんだよね

出逢ってから8ヶ月
何もしないと誓われてから半年後の大雨の日
私達はセックスをした

この時はじめて
“愛してる”
って言ってくれたこと覚えていますか
泣いていた私に
“俺だけを見て”
と、言っていたね

そんなこと言わせてごめん
厄介な女でごめんね









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