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アイするヒトと出会う前(生い立ち)前編

私が二十歳の時、年を跨いで就活をしていた。
普通にO Lになると思っていた。その頃の私は全く夢など持てない環境にいた。大人になって改めて自分の生い立ちを振り返ってみると、子供の頃は何不自由なくそこそこいい暮らしをしていた家庭で育ったのだと思う。物心付いた頃から毎週のように美味しいものに目が無い祖父母達と家族旅行をするのが日常だった。美味しいもの好きな祖父は母と孫の私達を連れ、車を何処までも走らせ、いつも美味しいものと旅行を楽しんだ。子供の頃の私は週末や連休などの休みはどこの家庭も家族旅行を楽しんで過ごすものなんだと思っていた。それが普通だと思っていた。
私の祖母はバブル時代、ある有名な会社のバリバリのキャリアウーマンだった。数年続けて県の長者番付に名前が載っていたくらいの人だった。学生時代の私はそんな祖母の姿に憧れる事もあったけれど、祖母は自分のような仕事を娘や孫達にはさせたくなかったようだ。女性は事務、経理ができればそれでいいと、母や叔母をその道へ進ませた。そして結婚適齢期にちゃんとした相手と結婚出来ればそれが女の幸せだと思っていたようだ。
私から言わせれば、そんな夢も希望もないただの偏見だけの将来像で、自分の将来は自分で切り開いていきたいと思っていた。
そんな祖母に育てられた私の母は結婚適齢期にお見合いをして父と結婚をした。母自身の意志ではない祖母が決めた結婚だった。
聞いた話では母はどこかの令嬢の如く今の言葉でいえば、セレブのようでとても美しかったという。母とお見合いをさせて欲しいと言う話がよく来ていたそうだ。父は知人の紹介で母とお見合いをし、母に一目惚れ。そして父は母に求婚し結婚が叶った。でも、母は当時付き合っていた男性がいたそうで、相手が商売人の息子だという理由で祖母はその相手との結婚を断固として許さなかったという。母は親の為に自分の好きだった相手ではなく、親が決めた結婚相手を選んだのだ。
余談だが、祖母も若い頃は町のミス○○だったそうで、祖母本人いわく、母よりも美しかったという。私のアイするヒトも2017年に初めて祖母に会い、その年85歳になる祖母の顔立ちを見て、「若い頃はとても美しかったに違いない。気品があり知的な人だったのではないか?」と私に言った。アイするヒトにそう言わせてしまう祖母はやはり只者ではないのかな…と私は思った。
一方、父の生い立ちは男ばかりの7人兄弟の5男坊。みかん農家の出で母の育った環境とは真逆の貧しい生活をしていたそうだ。お見合いをした頃の父は隣の県でバスの運転手をしていた。母とは半年間の遠距離恋愛の末の結婚らしいが、聞いた話ではその半年のうち二人が会ったのはたった2、3度だったという。実は父にも当時、他に彼女がいたらしいのだが、父は母との逆玉婚を選んだのだ。
両親の結婚の馴れ初めを知り、私はとてもショックを受けた。私は耐え難く悲しく複雑な心境になった。でも、この両親でないと私たち双子は存在しないのだ。それを知り私たちがなぜ双子で生まれたのか少し分かった気がした。
私の知る父は家庭を顧みるような人ではなかった。きっと父の育った環境のせいもあるのだろう。父は子供に対する愛情の掛け方など全く知らない人だった。私たちは父の愛情を微塵も感じた記憶がなく育った。まるで母子家庭か?と思われるほど父の存在はなかった。父はバスの運転手という職業柄、毎日不規則な生活で殆ど家に居なかった。家に帰るとしてもいつも帰りは遅くお酒が入っていない日はなかった。私は子供の頃から父とまともに会話をした記憶がない。家族旅行の時はいつも父は仕事でおらず、旅行や食事に一緒に出掛けた記憶が殆どなかった。そんな父も今では本当の姿になっている。父は本当はとても優しい心の持ち主だと私は思っている。私がまだ小学低学年の頃までは父のような人と結婚したいと思っていた事を思い出したのだ。私たちが成長していく中、母からの父への愚痴や悪口で、段々と違う父の人間像が刷り込まれ、気が付けば大人になった私たちには子供の頃に抱いていた優しい父の印象とは全く別人の父親像が刻まれていた。年老いた現在の父を見て、父方の親戚と会う機会があり、昔の優しい父を思い出す事ができた。父の兄弟みんな見た目とは裏腹に素面は優しい雰囲気の持ち主で物腰が柔らかいのだ。それを私たち双子は受け継いでいることがわかる。
今では父がこの母との結婚を選びどんな気持ちでこれまで生きてきたのか聞いても答えが返ってくる事は難しいけれど、父の部屋にはいつも若い頃の仲良く寄り添い合っている二人のツーショット写真が飾ってあった。今の私には父の想いが痛いほどわかる気がするのだ。母は今でもこの結婚を時代のせいにするが、まだ世間知らずの二十歳そこそこの母に祖母に逆らう事が出来ずに結婚した母の気持ちを考えれば、私も同様だと気がついた。
現在私と双子の妹も普通とは言えない特殊な環境の中で生きている。母に逆らえず生きてきた私。母は気付いてないが、娘たちに同じことをしていたのだ。両親のこの結婚が大いに私たちに影響を及ぼしていたのだと思う。気がつくと私は結婚願望が昔から不思議なくらいなかったのだ。周りの友達にも家族にも不思議と思われるほど、一度も結婚したいと思った事がなかったし、私は周りからも男性恐怖症だと思われていた。人を愛するなんてできないだろうと自分でも思っていた。

そう、アイするヒトと出会うまでは…

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