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さくら

 ふりつもる

 み雪にたへて

 色かへぬ

 松ぞををしき

 人もかくあれ

(ふりつもる深雪(みゆき)に耐えて色を変えない松はなんと雄々しいことだろうか。人もこのようにありたいものだ)

――昭和天皇『松上雪』


ジョニーボーイは笑ってたよ

ガムを噛みながら 煙草を吸って

季節外れの桜吹雪が

真夏の東京に降り注ぐ

おれは

あいつをぶん殴った

煙草が落ちる ガムが飛ぶ

それでもジョニーボーイは笑ってたよ

鉄パイプを握りしめて

そのとき

うしろから

誰かに殴られた

金属音が響く 後頭部から

生温い感触がする

ジョニーボーイは笑いながら

おれの顔面を

鉄パイプで殴った

二人に襲われていると

ショスタコーヴィチの交響曲

が頭の中で流れた

おれは

立ち尽くしたまま

殴られ続けた

これでいい これでいいんだ

ジョニーボーイはもう笑っていなかった


平和を知らない、平和な日本での物語。

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