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パートナービジネスにおいて既得権は設定すべきか

こんばんは。
パートナーセールスの葛西です。

先週は「パートナー契約書(代理店契約書)に記載すべき内容」についてごく一般的な内容は除き、あまり情報が出ていないようなこれは入れておいた方が良いという項目にフォーカスを当てて書かせていただきました。

今週は、先週のnoteでも触れた既得権について、これを設定すべきかどうかというお話を書かせていただきます。


パートナービジネスにおける既得権とは?


パートナービジネスでは「既得権」が重要な役割を果たします。

既得権とは、辞書的には回答としては、特定の代理店に対して特定の地域や顧客に対する販売権を独占的に与える権利のことを指します。

しかし、パートナービジネスに携わっている方々の中で一般的に話される既得権というのは、最初に顧客を紹介または顧客に提案したパートナーにその商材の提案権利が渡るといった、いわゆる案件のロック期間のようなことを指します。

既得権を確保したパートナーは、他のパートナーからの干渉を受けずに自社がその商材を優先して販売できるというメリットがあります。

一方で、既得権の設定にはリスクも伴い、適切に設定されなければパートナー間の競争力を低下させ、活力を奪う可能性があります。

そのため既得権を設定する際には、自社の商材の特性や受注までのリードタイム等を十分に考慮することが重要です。

既得権の申請方法

パートナーの既得権確保のやり方については、各社さまざまなオペレーションがあるかと思いますが、概ね下記の3パターンのいずれかが多いです。

  • フォームに提案する(または提案中)企業を申請する

  • メールで提案する(または提案中)企業情報を申請する

  • チャットのチャンネル内で、提案する(または提案中)企業情報を申請する

どの申請方法が良いかは、基本的には自社のパートナーさんが最もやりやすいやり方で申請方法を設計してあげたほうが良いでしょう。

自社のオペレーションコストの削減を意識し過ぎてしまうと(自社が楽をしようと考えすぎると)、パートナー側からするとめんどくさい申請方法になってしまいがちであるため、注意が必要です。

既得権を設定するメリット・デメリット

続いて、既得権を設定するメリット・デメリットについて解説します。

メリット

  1. 競合からの干渉が入らない安心感
    パートナー側からすると、競合からの干渉を受けずにその商材を優先して顧客へ提案できることは安心材料になります。

    これにより、パートナーは自社商材の販売に対して強いコミットメントを持ち、積極的に販売活動に取り組むようになります。

  2. パートナーの営業マンの販売モチベーション向上
    積極的に提案をした方が得をする=既得権を獲得できるという構図となるため、既得権を獲得するために他の競合パートナー企業の営業マンよりも早く自社商材を提案しようというモチベーションが働くきっかけになる可能性もあります。

  3. 中期的に営業活動ができる
    SaaS商材の場合、受注までのリードタイムが長いこともあるかと思います。

    その場合パートナー側に一定期間安定して顧客にアプローチできる期間が確保されるため、パートナーの営業マンは中期的に営業活動を仕掛けることができるので、リードタイムが長い商材であっても安心して深耕営業を仕掛けていくことができます。

デメリット

  1. 競争力の低下
    既得権を確保したパートナーが独占的に顧客にアプローチできるため、どのパートナーでも平等に提案できる環境が損なわれます。

    そのため、他のパートナーから新しい提案を行う機会が減少し、自社商材の提案機会が失われる恐れがあります。

    また、最悪のケースは既得権を申請して既得権を確保だけしておいて、その後全く商談が前に進まない、パートナー側が全く提案をしていない、なんて状況にもつながるリスクもはらみます。

  2. 新規パートナーの参入が難しくなる
    既存のパートナーが多数の案件で既得権を確保してロックしている場合、新しいパートナーが市場に参入する際に提案できる企業・提案できる機会が限られてしまいます。

    そのため、新規でパートナー契約したパートナー企業が未稼動となってしまうきっかけになってしまったりするリスクがあります。

  3. リードタイムの管理が複雑になる
    商材の受注までにリードタイムがかかる場合、既得権の期間設定が適切でないとパートナー側が十分に成果を出せないまま既得権が切れてしまうという結果になってしまうことがあります。

    あるいは逆に、既得権の期間が長すぎると、他のパートナー企業からの不満にも繋がりやすいです。


既得権設定の判断基準

既得権を設定するかどうかの判断は、パートナー契約モデルや商材の特性に大きく依存します。

紹介代理店契約の場合、パートナー側の役務としては「顧客を紹介する(トスアップする)」ところまでなので、既得権を設定されているSaaSベンダーさんが多いです。

理由としては、商談のボールはSaaSベンダー側が持つため、既得権を設けておかないとパートナー側から同じ会社の紹介が来た場合にどちらのパートナーに手数料を支払うべきかがルールメイクできないのと、

商談のメインはSaaSベンダー側が行うため、同じ顧客に対して同じ説明を何度もすることになってしまうためです。

一方、販売代理店契約や卸契約(再販)の場合は、パートナー同士の自由競争を重視して既得権を設定しないケースが多いです。

理由としては、パートナーに販売を「代理」する契約、パートナーに商品を「卸す」契約であるため、商談のボールは基本的にはパートナー側が持つためです。

そのため、パートナー各社がそれぞれ工夫してその商材を提案し、どのパートナーから購入するかを選ぶのはお客様という自由競争にしておいた方が平等性が担保されます。

ただし、販売代理店契約や卸契約(再販)をしていたとしても、商材の販売難易度が高かったりすると、実態としては紹介代理店契約と変わらないというケースがSaaS商材の販売代理店契約や卸契約(再販)では多かったりします。
※SaaS界隈でよく言われる、いわゆる「なんちゃって再販」というやつです

契約形態自体は販売代理店契約や卸契約(再販)であったとしても、実態としては紹介代理店契約と同じである場合には、商談のメインはSaaSベンダー側が持っていることがほとんどですので、その場合は既得権を設定しても良いでしょう。

既得権はどう設定して運用すべきか?

以上のことから、紹介代理店契約であれば既得権を設定する、販売代理店契約や卸契約(再販)であれば既得権を設定せずに自由競争とするというのをベースにおいて、既得権を設定するかどうかを考えるのが良いのではないかと思います。

もう少し厳密にいうと、商談のボール(商談での提案〜受注までの追いかけなど含む)をどっちが持つのかというポイントで、既得権の設定をするか・しないかを判断されるのが良いのではないかと私は考えています。

また、既得権を適切に設定する場合、商材の受注までのリードタイムに応じた期間設定が非常に重要です。

例えば、商材の受注までに時間がかかる場合、短すぎる既得権期間はパートナーにとって不利になりかねません。

一方で、リードタイムが短い商材の場合は、過度に長い既得権期間を設定すると、市場の活性化が妨げられることになります。

直販での平均的な受注リードタイムを鑑みて、既得権期間は設定するようにしましょう。

ちなみに、私が聞いた中では、既得権を設定されている場合は「6ヶ月」で設定されているSaaS企業が多かったです。
※商材特性によって変わりますので、あくまで参考として捉えてください

また、既得権を設定する場合、期間以外の要素でいうと、下記の要素も検討すべきポイントであると考えています。

  1. 既得権の発生日
    →フォームでの申請やメールでの申請を発生日とするのか、それとも商談実施日を発生日とするのか、などのいつを既得権の発生日とするのかを定めておくことは重要です。

    本来は申請日を起点にした方がわかりやすいですが、一方で既得権確保のために先に提案申請だけを入力しまくるというパートナー企業が出てくる可能性もあるため、SaaSベンダー側の同席を必須としている場合(紹介代理店契約などの場合)は「商談実施日」を既得権の効力発生日とするのが良いかと思います。

  2. 商談実施後、失注した場合の既得権の効力
    →商談実施したものの失注した場合、既得権の効力が定められた期間は効力が発生し続けるするのかを定めておくことは重要です。

    例えばですが、下記のケースが起こった場合、どう対応するかというイメージです。

    ①仮に既得権が商談実施日から6ヶ月と設定されていたとして、例えば商談してその時は失注してしまったが、その商談日の5ヶ月後に再度問い合わせが入って6ヶ月目に受注したというケース
    →このケースの場合は支払い対象とするのか?それとも失注しているので支払い対象外とするのか?

    ②仮に既得権が商談実施日から6ヶ月と設定されていたとして、例えば最初はパートナーのA社から紹介してもらって商談したが失注してしまったが、その3ヶ月後に今度は別のパートナーのB社から同じ顧客を紹介していただいたというケース
    →このケースの場合はB社からの新たな紹介として、B社のカウントで商談を進めるか?それとも、A社の既得権期間内であるためB社に提案NGとお断りを入れるのか?

  3. 既得権は切れたが、パートナー側の貢献度が高かった場合の手数料支払いの有無
    →既得権の効力は切れてしまったが、顧客都合で受注までのリードタイムが長くなっていて、パートナー側も受注に向けて協力いただけていたというケース。こういったケースもよく起こるかと思います。

    このケースの場合は、パートナー側の力も借りているので、パートナー側に恩を売る形で手数料支払い対象としてあげることをお勧めします。

まとめ

既得権の設定についてはメリットもあればデメリットも伴いまます。

基本的には

  • 紹介代理店契約であれば既得権を設定し、販売代理店契約や卸契約(再販)であれば既得権を設定せずに自由競争とする

    または

  • 商談のボール(商談での提案〜受注までの追いかけなど含む)をどっちが持つのか

というポイントをベースに、既得権を設定するかしないかを考えられると良いのではないかと思います。

また、自社がパートナー間の平等性(競争)を担保する方を優先したいのか、それとも積極的に提案を仕掛けているパートナーを優遇したいのか、という会社方針や考え方にもよっても変わってくるかと思いますので、何を優先したいのかを考えた上で、既得権の設定有無を決められると良いのではないでしょうか。

そして既得権を設定する場合は、商材のリードタイムやビジネスモデルに応じて、慎重かつ柔軟に既得権を運用することが成功の鍵となります。

既得権のルールをどこまで契約書内に入れ込むかは最終的には各社ごとの判断となりますが、1つ言えることはパートナービジネスはさまざまなイレギュラー事項が発生しやすいため、都度パートナーさんに嫌われないような柔軟に対応ができる土壌を作っておくということが何より大切であると私は考えています。


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