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腰椎椎間板ヘルニアの病態理解~運動療法

【腰椎椎間板ヘルニアの病態理解~運動療法】

腰椎椎間板ヘルニアは日常生活やスポーツ活動時に腰下肢痛やしびれを生じさせることが多いと思います。日常生活では前屈みになる時や物を持ち上げる時、スポーツ活動は全般的に制限を受けると思います。

ただ、画像上の所見と症状が必ずしも一致するとは限りません。MRI上で腰痛のない健常者の3割に腰椎椎間板ヘルニアが確認されたという報告もあります。その為、画像と臨床所見を合わせて治療やリハビリを進めていく必要があります。

そんな腰椎椎間板ヘルニアについて病態~運動療法まで見ていきます。

・病態


腰椎椎間板ヘルニア(Lumbar Disc Herniation:以下LDH)は椎間板を構成している髄核が線維輪を突破して脊柱管内や椎間孔外へ脱出し、馬尾や神経根を圧迫し腰痛や下肢のしびれを引き起こす疾患です。
発症は女性より男性に多く、好発年齢は20~40歳代。障害部位としてはL4/5、L5/S1が多くを占めています。

また、LDHには診断基準に統一されたものはありませんが、腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドラインでは診断基準を下記のように記しています。

① 腰・下肢痛を要する(主に片側、ないしは片側優位)
② 安静時にも症状を呈する
③ SLR test70度以下陽性(ただし高齢者では絶対条件でない)
④ MRIなど画像所見で椎間板の突出が見られ、脊柱管狭窄症所見を合併していない
⑤ 症状と画像所見が一致する

ただ、先ほどもお伝えしたように画像上の所見と臨床所見が必ずしも一致しない場合やヘルニアであっても腰に痛みを感じない場合もあるのでここは注意が必要です。

さらに、LDHは分類が分けられて以下のようになっています。

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簡単に言えば、髄核や線維輪がどのように突出していくのかを段階的に表したものです。
これも知識として覚えておきましょう。

突出した髄核が脊柱管内かそれとも外側に突出するのかでも障害部位は変わってきます。
例えば、脊柱管内にヘルニアが突出しL4/5が障害された場合は、下の椎体の椎間孔から出ている神経を圧迫しL5が障害されます。外側型の場合はその逆でL4が障害されます。


・症状


長時間の座位や前屈み姿勢、しゃがみ込みなど疼痛の増強因子は様々です。

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上記はNachemsonによる椎間板内圧に関しての報告です。
立位姿勢の椎間板内圧を100%としたとき、座位姿勢では140%、前屈み姿勢では150%にもなります。つまり、立位→座位→前屈みの順で椎間板内圧が高くなることが報告されています。

その為、学生は授業中に腰が痛くなる、一般の方は重いものを持った時に腰が痛くなるという方が多いです。これを改善するには座り方を変える、重いものを持たないor持つときのフォームを変えなくてはいけません。

また、痛み以外にも

・しびれ
・筋力低下
・知覚鈍麻

などの症状を呈することがあります。


・診断


診断はMRIが用いられる。ただ、MRIでLDHが認められても臨床症状と神経学的所見がヘルニア高位とあっているのか確認する必要があります。

身体所見では、下肢伸展挙上テスト(以下SLR)、大腿神経伸展テスト(以下FNS)などが行われる。SLRは下肢を挙上させていくことで坐骨神経領域に痛みを感じます。70度未満で陽性とされます。主にL4/5ヘルニアが疑われます。ただし、高齢者は陰性になることもあるので注意が必要です。FNSではL3/4のヘルニアの可能性が示唆されます。

障害部位によって知覚や筋力低下、深部腱反射が起こるのでこちらも確認する必要があります。

神経根 L4
筋力 前脛骨筋
腱反射 膝蓋腱
知覚 下腿内側

神経根 L5
筋力 長母趾伸筋
腱反射 なし
知覚 足背

神経根 S1
筋力 長、短腓骨筋
腱反射 アキレス腱
知覚 足部外側


・運動療法


LDHはほとんどの場合保存療法で症状が寛解します。急性期では安静を推奨するエビデンスも少なくありませんが、14日間の安静臥位と管理下での生活では成績に差がないとする報告もあります。その為痛みのない範囲で動いていく必要があります。

LDHの運動療法で考えなくてはいけないことはアライメントです。ヘルニアの症状が出ている多くの方は骨盤後傾、腰椎後弯、胸郭後方偏移、頭部前方変位といわゆるsway backを呈していることが多く見られます。

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この時の椎間板はどうなっているのか見ていきましょう。

先ほども示したように椎間板は姿勢によって内圧が変わっていました。臥位では低いですが体幹を収縮した前屈動作ではかなり高くなります。

この前屈動作は通常であれば、股関節と腰椎が連動して前に屈むことができます。しかし、sway backの方が行うと骨盤後傾、股関節伸展位(大腿骨に対して骨盤が後傾する為)、腰椎後弯を呈しているので、前屈を行う際股関節屈曲が制限されることが多くあります。その為、股関節の屈曲で前屈しようとするのではなく、腰椎の屈曲で前屈をしようとします。

この時の椎間板の動きは髄核が後方へ偏移します。Sway backのような姿勢がずっと続いていればそれは椎間板にずっと負荷をかけているのと同じです。そして、その負荷に耐えられなくなった椎間板は髄核が線維輪を突き破って脱出して脊柱管内や外側へ移動し神経根や脊髄を圧迫します。

さらに、この場合は腹腔内圧も低下していてインナーユニット(腹横筋・横隔膜・骨盤底筋・多裂筋など)も筋力が低下していることが多いです。その為、椎間板の衝撃吸収機能低下、腹腔内圧低下の安定性低下でもう安定させられる場所がどこにもありません。

なので、これを改善してあげる必要があります。

まとめると、LDHの運動で必要なことは

① 体幹機能の強化
② 脊柱の可動域改善
③ アライメント改善

この3つが必要なのではないかと思います。
それぞれ代表的なエクササイズを紹介していきます。

① 体幹機能の強化
ドローイン

ドローインは腹部引き込み運動ともいわれます。主に腹横筋を活性化させる運動になります。仰臥位でお腹をへこませます。そのまま呼吸に関係なく腹圧を高めたまま10秒ほど呼吸を繰り返します。ここで骨盤(ASIS)の内側を触れると腹横筋の収縮が確認できます。

② 脊柱の可動域改善
Cat&dog

四つ這いになり、肩の真下に手を置き、お尻の真下に膝を位置させます。そのまま肘や膝を動かさずに脊柱の伸展、屈曲を繰り返します。特に、腰椎の伸展可動域が低下していることが多いので、腰椎を伸展させる際に指で触れてあげると感覚情報が入ってきてスムーズに行えることがあります。多裂筋や腸腰筋の協調性運動にもなり筋収縮も入ってくるので骨盤が前傾に行きやすくなります。

③ アライメント改善
スクワット

最後はスクワットです。
スクワットを行うときの注意点としては骨盤前傾・腰椎前弯で股関節から屈曲していくことです。骨盤後傾のままのスクワットは椎間板に負荷をかけてしまうので前傾にもっていったままスクワットをやっていきます。①、②のようなエクササイズを行った後にスクワットをすると可動域が向上しているはずなのでスムーズに行えると思います。

これらの運動を行うことでアライメントが改善していき腰椎への負担が減っていくはずです。もちろん、アライメントを変えればすべての痛みが改善するかと言われればそうではありませんが選択肢の一つとして持っておく必要があると思います。

<まとめ>

・椎間板は前屈み姿勢に内圧が高くなり、臥位では低くなる
・LDHを変えるには姿勢を変える必要がある


参考文献

・NACHEMSON A :THE LUMBAR SPAIN.AN ORTHOPAEDIC CHALLENGE.SPAIN

・菅 俊光:腰椎疾患に対するリハビリテーションー運動療法とセルフトレーニングを中心にー

・大矢 白土:腰椎椎間板ヘルニアの病態と治療

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