まじょ子さん、始まりの話
その森には、まだ何もなかった。
風が吹けば砂埃が舞い、辺り一面の視界が茶色く霞んでしまう。村の小さな喧騒から外れたこの森は昔から魔物が住むと実しやかに囁かれ、小さな子どもや若い女性が近付くことはないという。時折森の中に住む野生の鹿を求めて猟師や屈強な若者が森の中に踏み入ることはあったが、何の成果もなく獣道さえも見つけられないというのが専らの噂だった。
そんな地に一人、黒髪の魔女が銀色の杖を片手に降り立った。
この魔女の名は長い。おそらく全ての名を知る者はこの世界に存在せず、魔