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選挙でインターネット投票の導入が難しい理由

外出自粛を強いられる状況において、選挙を実施するか否かについてが話題に上がります。大規模な選挙は無いにせよ、目黒区長選挙のような規模の選挙は全国で行われています。

この議論にあたって、インターネットによる投票が話題に上がっています。日本維新の会の音喜多駿議員は東京都知事選挙を挙げて1年先送りしたらどうかという持論を述べられていました(YouTube)。その際に併せて1年を掛けてインターネット投票の仕組みを作ったらどうかという提案をされています。

インターネットでの投票の導入は私も賛成です。投票期間中に都合をつけて足を運ばなければならないのを煩わしく感じます。行動が面倒というだけではありません。中には選挙権を気軽に行使できない方も居ます。例えば、出産して里帰り中の方、重病で病院から離れられない方、業務都合等で長期間外出をされている方です。この様な方々の声が現在の選挙制度では反映されにくい状況です。

結論としては、インターネット投票の導入自体には賛成です。しかし1年というのは難しいと感じています。どのように難しいかを書いてみようと思います。

韓国のインターネット投票

参考までに、インターネット投票が実現できている大韓民国について簡単に調べてみました。

韓国が電子投票を導入したのは2002年だそうです。その際はタッチパネル式の電子投票機器でした。投票所に足を運ぶ行為はそのまま、投票行為を電子化したに過ぎません。この際に導入されたシステムは1998年に開発が開始されたそうです。開発が決まってから足掛け4年での導入でした。

インターネット投票になったのは2012年です。インターネット投票のシステム開発が始まったのは2005年です。開発が決まってから8年での導入でした。

まとめると電子化で4年、インターネット化で8年です。この年数は決して大げさではないと感じます。その理由は後述します。韓国のシステム開発の技術は疑う余地が有りません。日本であれば1年で実現できるというのは幻想だと私は思います。

投票内容の匿名性

アンケート機能は様々なサービスで展開されています。投票の仕組み自体はかなり簡単そうに思います。しかし、選挙という国政を左右するシステムだからこその難しさがあります。

選挙システムで私が最も重要だと考えるのが匿名性の担保です。選挙においては誰がどこに投票したかを辿れてはなりません。現行の紙に記入する方法であれば、投票箱に投票用紙を入れてしまえば、誰がなんと書いたか分からなくなります。第3者による不当な圧力によって投票行動が制限されないようにするために必須の要件です。

よくあるアンケート機能であれば、エクセルの表の如くA列にマイナンバー、B列に投票先としておけば済みます。しかし、この匿名性を確保するにはA列にマイナンバー、B列に投票済みか否かを管理した上で、別の表で候補者に何票加算されたかを管理しなければなりません。これを正確かつ不可逆的に実現する設計が必要です。

例えば誰かが何時何分に投票した結果として、誰に1表が入った・・といった現象すら誰にも観測されてはなりません。

改ざんを否定するための透明性

次に重要なのが透明性の確保です。電子投票で懸念されるのが改ざんです。投票結果に改ざんが無いのを証明できなければなりません。

投票結果は誰がどう見ても正しいという結果を示さなければなりません。現行の紙に書く方式であれば、集計こそ大変ですが、数に間違いが無いのを誰でも担保できます。

電子的な情報は目に見えません。「誰がどう見ても」というのは非常に難しい課題です。ある程度譲歩して「どの専門家が見ても」というところまで落とし込めればよさそうです。しかしその実現方法は少なくとも私は思いつきません。

考えられるとしたら、ソースコードをすべて開示することでしょうか。ただし、その開示されたソースコードの通りのシステムで処理されているかも知らせなければならなさそうです。

透明性と書きましたが、検証可能性といったほうが正確かもしれません。専門家がどの様に調べても「間違いない」と証明可能な情報を提示する必要があります。

綿密なテストの実施

これらの重要な課題を解決した上で、間違いなく正確に動くというのを担保しなければなりません。平たく言えばシステム障害をゼロにしなければなりません。

サーバが落ちるなどの顕在化しやすい現象は当然として、例えば誤って投票されてしまったり、投票データの消失や書き換えが起こってしまったりという可能性を完璧に除去しなければなりません。

完璧なシステムを構築するに当たっては、実証実験を含めて年単位での検証が必要になるかと思います。1年での導入が難しいと考える主な原因はこれです。

突貫工事は絶対ダメ

やるなら期限を厳密に決めすぎず、正確性を重視してプロジェクトを組む必要があります。民間への外注などありえません。政府なのか省庁なのかわかりませんが、専門性の高い人材を集めた専門部隊を組む必要があります。

他にもどのサーバを利用するのか、AWSやGCPといった米国製のクラウドコンピューティングを利用できるのかなどの課題があります。投票行動をする際に、行動が誰かに監視されているかもしれない可能性への対処も必要です。もちろん法整備も必要でしょう。マイナンバーの利用は必須となります。

壮大なプロジェクトになりますが、日本の未来を考えると必要な投資です。1年でというのは無茶かと思いますが、やるなら早急に決めて、少しでも早くプロジェクトを始動させなければなりません。

昨今の事情が背景にあれば、このような議論も進めやすいかと思います。具体的な議論が始まるのを期待します。

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