いち視聴者としての、なないさんの思い出

 2023年8月に書いたのだけれど、性急すぎると感じて下書きにしていた記事を公開します。


 eスポーツキャスター「なない」さんの訃報が流れた。
 なないさんのことは、ただネットを通して見ていただけだったので、直接関わりのあった人の悲しみとは比べるべくもないけれど、それでも大いにショックを受けた。
 それ以上に、格闘ゲーム界を中心に広がった大きな衝撃を目の当たりにして、動揺している。自分は15年くらい格闘ゲーム界隈を追い続けてきたけれど、これほど多くのプレイヤーが深い悲しみにうちひしがれているのを見たのは初めてのことだ。

 なないさんはラスベガスで行われた格闘ゲーム大会「EVO2023」に参加し、1日目と2日目には会場の様子をスマホで中継しながら試合に参加していた。自分も彼の配信をEVOのメイン配信の合間に視聴し、ホロライブ大会決勝などを見届けた。
 本当に最後まで、格闘ゲーム大会の熱を視聴者に届けてくれていた。

 様々な形で格闘ゲームを主とするeスポーツを盛り上げ、視聴者を楽しませてくれた事々が思い出される。

 eスポーツ実況者として『ストリートファイター』『グランブルーファンタジー ヴァーサス』『ポケモンユナイト』など様々なタイトルの大会を、落ち着いた、選手を立てる実況で視聴者に届けてくれたこと。

 VTuber好きが高じてバ美肉し、電流企画を敢行したこと。

 「Skypeでいいじゃん」とのたまう格ゲー村の村人にDiscordを布教し、コロナ禍中に盛んになった配信活動における新たなゲームの流行を格ゲーマー界を持ち込んだこと。

 「おじリーグ」では普段の温和で冷静な実況とはうってかわって年長プレイヤーを煽り散らかし、大会を盛り上げたこと。

 CRカップに際し、大ファンであるホロライブのVTuber「戌神ころね」のコーチングを完璧に務め上げたこと。

 そしてEVO2023のホロライブ格闘ゲームトーナメントでは7位に入賞。海外ホロライブファンの熱気を日本の視聴者に伝えてくれたこと。

 その柔和な人柄で誰からも愛され、人と人と繋ぐことができる稀有な才能を持った人物だったと、多くのプレイヤーが語っている。
 間違いなく、今後もeスポーツ界を盛り上げ、ますます活躍していくはずの人だった。

 勝手な想像をさせていただくなら、なないさんは、自分のような視聴者の側から、「ガチゲーマー」たちがひしめく「向こう側」へと、勇気を持って踏み出した者のひとりだったように、今になっては思われる。
 偉大で個性的なゲーマーたちの姿を、そのかたわらに立って、精密なカメラのように、試合会場やインターネットを通じてわれわれ視聴者に伝えようとしてきた。実況以外の活動においても、それを伝えようという意志が常に感じられた。
 それは彼が、かつては偉大な格闘ゲーマーたちを尊敬し仰ぎ見る立場の人間だったからこそ持てた視点であり、活動方針だったのではないか? と、今も格闘ゲーマーたちを仰ぎ見ている自分は想像してしまう。

 そんなかけがえのない「伝達者」を失ってしまったことは、本当に残念だ。
 それでも、なないさんの献身的な姿を見届けてきた人達の中から、きっと新しい伝達者が現れるに違いない。
 あるいは彼のような大きな役割を果たすことができなくても、彼を知るひとりひとりが「小さな伝達者」になることはできるかもしれない。
 身近な人にゲームの面白さを伝えたり、SNSで試合の情報を拡散したり、というように。
 それが、ゲームの面白さ、そしてプロ・アマ問わず「ガチゲーマー」の面白さと偉大さを世に広く知らしめたいという、彼の意志に適うことであればいいなと思う。
 いや、自分のような者が、いなくなった人の意志を勝手に推し量るのは、差し出がましいことかもしれない。
 今はただ、たくさんの楽しい時間をくれてありがとうございました、と言いたい。


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