読書振り返り・11月編(心が死んだ)
さあ、振り返りたくない11月。私は辛い。
振り返るだけで精神的に病みそうなラインナップですが、頑張りましょう。
■智恵子抄/高村光太郎
→きっっっっつい。
高村光太郎の妻、智恵子が、体を病み、心を病み、そして亡くなり、その後、までを詠んだ詩集。
めちゃくちゃ部分部分の抜き出しですが、どれほどに『智恵子』の存在を重く受け止めているか、これだけでもわかるってものです。ああ、愛に燃えているな、と思います。けれど、その愛は時に智恵子を縛り、智恵子の性根には合わない都会での生活は徐々に彼女を蝕んでいきます。
この辺から、どうにも、おそろしい何かが背後からのしかかって来るように息苦しくなります。
この辺で、もはや「あ……」とならざるを得ないでしょう。
そして、
う……っ辛い……。
こんなにも辛いのに、詩である以上文章はテンポよく軽快で、いかにもすっと読んでしまう。読んでから、『……え?』となって戻ってもう一度読み、そうすると情景が浮かんでしまう。
少し感傷に浸りたい時、いっそどん底まで気分を落としてしまいたいとき、智恵子抄をお供にしてはどうでしょうか。
■帰らざる夏/加賀乙彦
→で、これ。こっちがさらに落ち込む。
Xの同性愛文学の有識者である相互さんから『同性愛要素のある小説』とだけ聞いて読み始めて私。確かにある。結構ある。具体的な描写は避けてあってもめちゃくちゃに官能的なシーンもある。
……が。
『第二次世界大戦中、軍人を目指して幼年学校に入学した少年』が主人公なのだから、きつめの描写は多い。しかも訓練とかも本当にリアル。(先に言っておきますが主人公の家族達はちゃんと生き残りますのでそういう意味では安心して読めます。家族達はね)
特に父親からの手紙という体で書かれる「空襲」の描写がすごい。長崎人ですので原爆関連は写真も映像も被爆者の語りももう何十年と見たり聞いたりしてきましたが(小学1年生の平和学習で見た映画があまりにトラウマで(広島で少女が亡くなる話だったと思います)、2年生の時の8月9日の登校日はお腹を壊していけなかったレベル。2年生の時の映画は『かわいそうなぞう』だったようです)、案外「空襲」というのはあまり想像できていなかったようです。
読んでみると……もうとんでもない……とんでもない……。
この主人公の「父」は『そのうち日本は負けるかもしれない』と思っていて、まだ10代の主人公に「負けてもお前には未来があるから、そのあとどう生きるかが大事だよ」と語っていました。正直、今まで見てきた戦争ものの感覚、現代の感覚からすると『負けようが、戦争なんて終わる方がいいに違いない』ですので、父親のこの話は「だよね」なんですが……。
主人公は違いました。だって、軍人になって戦うために幼年学校に入り、見知った先輩達も既に亡くなってるんです。自分はなんのために厳しい訓練を耐えてきたんだ?彼らはなんのために散ったんだ?となるわけです。
だから、『負けました。もう戦わなくていいですよ』と言われて、そうですか、とはならないのです。しかもあくまで『学生』で戦場に出たことは1度もなく、『戦犯』として罰せられるような立場でもありません。いきなり『普通の子供』に戻れと言われても……という感じで、本作、500ページ越えの長編で、上述したとおり戦争描写にもかなりの文字数を使っているのですが、本題はラストの『玉音放送』後なんじゃないかと思います。
「負けたなんて嘘だ。敵や大臣達の策略に違いない」「仮に負けたのなら国民に申し訳が立たないため、陛下は自害するに違いない。ならば自分も後を追って死にたい」
そう考える主人公のもとに、かつて身体を通わせた尊敬する先輩がやってきて……。
戦争は終わったのに、「よかったね」とはならない。そんな作品です。
あ、ちなみに同性愛描写も本当にとても素晴らしいです。ラストに主人公の元へやって来る先輩との、最初のあれこれのところをちょっと抜き出しておきます。
何人かの男性と主人公くんはいい感じになりますが、源さんがね……いつもタイミングよくてね……出てくる度『源さん死亡フラグか!?』ってなるんですねえ……。うん。死亡フラグどころじゃないんですね。ラストまで絶対読んでくださいね。
さて。
12月、今日中に終わるのかが問題。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?