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読書振り返り・4月編(濃すぎる!)

お気づきでしょうか、タイトルのイラストと中身は何一つ関係ありません。はい。というわけで4月いってみましょう。

ネタバレ込みです。未読の方はご注意ください。


■4月の読了本

ひっ……。
ちょっと、ちょっと整理していいですか。

■三体Ⅲ下/劉慈欣
→SF。三体シリーズ最終巻。我らの劉慈欣バンザイ。

■いけない/道尾秀介
→ミステリー。画像や写真を使って推理するのは面白い。この街……いけないですねえ……。

■一人称単数/村上春樹
→短編集。街と~を読む前に村上春樹慣れしようと思って読んだらめちゃくちゃ面白かった。

■秋雨物語/貴志祐介
→ホラー。めちゃくちゃ怖い。じとじとしている。これは後日、梅雨物語と合わせて感想を書こうかな。

■学園の魔王様と村人Aの事件簿/織守きょうや
→ミステリー。タイトル通り、男の子2人のバディもの。10代向けのジュブナイル小説な雰囲気(でも事件自体はそれなりに重い)。YA!にありそう、といえばYA!読者には伝わる。つまり『そういうこと』です。

■街とその不確かな壁/村上春樹
→今年の文句なしの第1位。

■正欲/朝井リョウ
→ここ最近で1番読書家の心を惑わせた作品なのでは?読んだ直後に文庫版が出たのでちょっとびっくりしました。

■時ありて/イアン・マクドナルド
→SF?哲学?ポエム?BL?なんだろう……わからない。

うーむ……頑張って振り返ってみます。

今回は、三体Ⅲ下、街とその不確かな壁、正欲、時ありて、の4冊に絞らせていただきます。すみません。


■三体Ⅲ下/劉慈欣

↓のリンクは三体(第一部)


三体を読んだ我ら→いやーすごい。これⅡは無印超えてこないでしょ、続編って期待すると裏切られるし。(写真に謎の数字が……とかああいうじわじわくる恐怖感凄いですよね)
三体Ⅱを読んだ我ら→ひ、ひええ舞台に宇宙が加わったことで有り得ないほどかっこいい!もうこれ、Ⅲは蛇足でしょう。どうすんのこれ。
三体Ⅲを読んだ我ら→劉慈欣は神。

三体の何がすごいって、一つ一つのエピソードを見ると「思いつきで書いてます?」ってくらい脈絡がないところ。なのにちゃんと芯があって、初期の初期の初期の描写がちゃんとラストに生きてくる。
そもそも三体のストーリーは中国の文化大革命から始まりますが、興味が無い人はこの辺で離脱するそう。私は近代史が大好きなので、ここから既に引き込まれていました。
で、そのあと『VRゲーム』。というすごい繋ぎ方。しかもその後も突然古代の話になったり突然おとぎ話が始まったり、翻弄っぷりがすごい……でもちゃんと繋がっているので安心して読んでください。

ちなみに三体、Ⅱ、Ⅲのどれが好きかと訊かれたら、全部好きですが、強いて言うならⅡが好きです。
当時読みながらツイートしていた(あの頃ぼくらはtwitterを使っていた)んですが、『水滴』の衝撃が凄すぎて。

宇宙空間における無慈悲な殺戮はまだ続いていた。艦同士の間隔が広がるにつれて、水滴も急速に加速し、これまでの倍の秒速六十キロメートルに達した。たえまない攻撃の過程で、水滴は冷酷かつ正確な知性を示した。特定宙域における巡回セールスマン問題(原注 経路が重ならない巡回ルートのうち総移動コストが最小のものを求める数学上の問題)を完璧な正確さで解決し、同じルートを戻ることは一度もなかった。目標がたえず移動する状況下、水滴は多岐にわたる正確な測定と複雑な計算を実行した。

三体Ⅱ 黒暗森林 (下)より

ここまで「人類の文明も進化したんだよ!三体人には負けない!勝てる!」と気分を高めておいて、水滴ひとつに艦隊が惨敗するという展開……劉慈欣、ひどい。でも水滴の攻撃の描写がかっこよすぎて、文章なのに実写以上に実写でした。劉慈欣、もしかして宇宙で戦ったこと、ある。

あと、Ⅱの主人公羅輯が最高の主人公すぎます。面壁者は大変すぎる。可哀想すぎる。でも羅輯はしっかりやってのけるし、Ⅲまでその効果は続く。強すぎる。

三体語り始めると1巻から1行ずつ解説したくなるので無理やりまとめます。

個人的にシリーズを通して意識をして読んだのが、物語の余白です。

緻密に描かれた西洋画よりも、余白のある水墨画の方が、青空に飛行機雲が1本あるだけの写真の方が、情報を多く含んでいる。(意訳)

三体の頭で出てきたこのあたりの話が、三体Ⅲラストまでずっと続いていたように思います。
エンジニアである劉慈欣が書くSFは、三体にしても短編集にしても「そうかも……ありえるかも……」と思えるほど尤もらしい根拠がこれでもか!と書かれるのですが、理系でもなんでもない私ですら、その文章がすっと落ちてくる。(翻訳の力もあると思いますが)
それは読み手が『それぞれの想像で補完』することまで見越して書いているからなのかな、と思ったりしました。そもそも何度も出てくる人類の敵である「三体人」がどんな姿をしているのかすら、我々は知らないんですからね笑
(そのあとに出てくる敵なんてもはや透明だし2次元だしもう意味がわからない)
人の数だけ三体人がいるのかなって思うと、楽しいです。

はい、三体だけで2000字書きましたが!?
次!!!

■街とその不確かな壁/村上春樹


私は、高校生の時に『ノルウェイの森』を読んで村上春樹に挫折しました。「これの何がいいのかわからない」と本気で思いました。
そんな記憶があるものだから、もしかしたら数ページで読むのはやめるかもな、なんて思い、街と~の発売前にまずは『一人称単数』で村上春樹慣れをしようと考えました。

結果。

あれ、めっちゃいいじゃん……。特に『チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ』は良かったです。夢を見ているような心地で、しかもすごく読後感もよくて、いいお話でした。

はー……昔、どうして挫折したんでしょう。不思議に思いながら、本丸の『街とその不確かな壁』に手を出しました。

あーーー気持ちいい。

読んでいて気持ちのいい文章の連続です。
主語の位置、読点の位置、なにもかもが美しい。なんだこれ。神なのか。

夢読みの合間に、君のこしらえてくれた濃い緑色の薬草茶を飲む。君は時間をかけ、化学者が実験に臨むときのような真剣な顔つきで、注意深く薬草茶の支度をする──小さなすりこぎやすり鉢や、鍋や搾り布を使って。

『街とその不確かな壁』より


ここの文章が1番好きで、何十回もここだけを読み返して進めなかったくらいです。暖かくて、優しくて、愛情が溢れていて、薬草の香りの湯気に包まれているようで、勝手に涙が出てきました。(今もまた泣けてきた)
『君が』ではなく、『君の』。『こしらえた』ではなく、『こしらえてくれた』。『君は時間をかけ小さなすりこぎや……』ではなく、『君は時間をかけ……――小さなすりこぎや~』。
ね?すごくないですか。文章そのものが『君を見守る僕』であり、『愛しい君』なんです。素敵だ、素敵だ、素敵だ、という気持ちが溢れてくるのが読み手にも伝わるような完璧な文章で、私はもう……ただ感服し、その後も気に入った文章を見つけては繰り返しそこを読み……今年1番時間をかけて読んだ本と相成りました。はい。

すみません、何を言ってるかわからないと思います。わからなくて大丈夫です……。映像が浮かぶ、とかそんな話ではなく、文章そのものが情景であり、人であるように感じた、とか、そういう話です。すみません、わからなくていいです。ごめんなさい。

ストーリーとしては「初恋の女の子が忘れられず引きずりました」「でもその後素敵な女性に出会ったので新しい恋をしました」ってだけなんですけどね。それで700ページ近いってなんなん……。

はい次!

■正欲/朝井リョウ


こんなにも『感想』が人それぞれな小説って、なくないですか???
「多様性多様性言ってる世の中って、結局息苦しい」という感想もあれば「でもやっぱり『わかろうとする』ことって大切だよね」って感想も見ました。ちなみに私は「理解したいと思う気持ちは持っていたい」派で落ち着きました。

ある特殊な『性的指向』を持った人の話から、『多様性を受け入れるって何?』を鋭く突いてくる作品。

なんですが。正直「それくらいなら言っても引かれることなくない?」と思ってしまったのがよくない。当人達が『受け入れてもらえないだろう』と思えば、それは『そう』なのである。というか、敢えて『理解出来そうな出来なさそうな』絶妙なラインを設定したんだろうなと思います。
(私なんてもっと危なくて理解されないんですが???)

まあ、流石の朝井リョウ作品。最初は「ほーん」という気持ちで読んでいても、徐々に息苦しくなってきて、最後の最後には呆然としてしまいました。

この世界のどこかで、彼らと同じ状況に陥っている人は確実にいる。
そんな中で『多様性』をどこまで認めるのか。例えば『人殺し』でしか快感を得られないような人を排除するのは、はたして差別にあたるのか?
わからない。そもそもこんなこと、ひとりで考えても答えって出ないんですよね。だって、これを考えている時点で私は『コミュニティ』のことを考えているのだから。(究極の話、ルールも何もない世界であれば皆が皆好きにすればいいだけなのだ。悩んでいる時点で「他の誰か」との共存を主軸にして考えているのだ)
そうするとどうしても他人の意見が必要になるし、最終的には色んな人の考えを受け入れる必要が出てくる。
であれば、やっぱり『理解しようとする』こと自体をやめるのは何にもならないんじゃないかなって思います。うん。

難しい……これは読む時期が違えば逆の感想を持つかもしれません。

はい次!

■時ありて/イアン・マクドナルド

あのほんとなんでなんでしょうね。フォロワーさんの「本に挟まっていた手紙をきっかけにして~SFでもあり哲学でもあり~」というロマンチックな感想を見て読み始めただけなのに。

ぼくたちはキスをし、海は燃えあがる。

『時ありて』より

この書き出しを見た瞬間、なぜか頭に浮かんだのは男性同士のカップルで、私は「おや?」と思いました。なぜこの時そう思ったのかはわかりません。

まあ、結論からいうと詩集に手紙を挟んでやりとりをしていた男性同士のカップルと、その幻影を追いかける古書ディーラーの話なんですけど。勘は当たってたんですけど。

フォロワーさんはニヤニヤしてしたとおもいます。ね?ニヤニヤしてたでしょ?

この作品、古い詩集に男性から男性の恋人に宛てた手紙が挟まっていることに気がついた主人公がカップルに興味を持って調べていく現代パートと、カップルの片割れの語りのパートと交互に進んでいきます。
ですので、

やつらは猛禽のようにやって来た。ためらいがちに、ふらふらと、死にかけの本が出すフェロモンに引きつけられて。知っているやつらが大勢いた──古書ディーラーの世界は小さいのだ。

『時ありて』より

ぼくの経験? 愛だよ。そいつは呼吸を求めて喘ぐみたいに突然ぼくから去ってゆき、槍のように鋭くぼくの腹を貫いた。

『時ありて』より


このような、2人の主人公の語り口調の違いが楽しいんです。現代パートの主人公は口調も荒く、洋画っぽい雰囲気。カップルの片割れの方は詩的で美しい雰囲気です。
この詩的な文章がほんっっっとうに好きで。翻訳してくださった方には感謝しかありません。

で、この作品。戦時中に手紙でやりとりをするカップルのロマンチックな話かと思いきや……突然思いもよらぬ方向に舵を切ります。本当に。突然。「え??????」しかないです。びっくりです。

同性愛小説に抵抗がなければ、一度は読んで「え?あれ?なにこれ?」となっていただきたい作品です。


はい、というわけでね、4月の振り返りは終わりです。
そして5月の予告です……(尻叩きのために画像載せておきます)

って、え、うわ、5月は純文学&ネタバレ禁止ミステリー祭りじゃん……うわ……死にそう……。

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