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『自治とバケツと、さいかちの実-エピソードでたぐる追廻住宅-』の備忘録

除け者にされた歴史。
その意味で歴史の無い
小さな自治のまちの歴史が、
美しくノスタルジックに語られる
ひとつの歴史に書きかえられた。

これは第三者の勝手な感想。


仙台駅から約3km離れた川内追廻。
遊歩道があるけど草木が生い茂ってあまり手入れされていない森の中を進むと、洗濯物を干している様子が見えてくる。
近くまで行くと、ブルーシートで屋根を作った生活の場所がある。
そういえば、川内追廻にはホームレスの家があるよと、誰かが言っていたのを思い出した。

2021.7.19 のつぶやき


…「ホームレスの家」ってなんやねん(つぶやきを振り返る人)。


初めて川内追廻のことを知ったのは2年以上前。当時気になって調べてみると、どうやら、かつてここに小さなまちがあったらしい。


せんだいメディアテークでの展覧会『自治とバケツと、さいかちの実-エピソードでたぐる追廻住宅-』を見てきた。
気になってはいたけど見に行けていなかった。たまたま後輩に誘われて、見に行くことになった。


入口にて

2023年、仙台市川内追廻地区が青葉山公園になりました。 この場所にかつてあった追廻住宅。 その77年にわたる歴史や暮らしを振り返る展覧会を開催します。 構成・制作に、地域の人々の営みを調べ表現するアーティスト、佐々瞬、伊達伸明を迎え、 自らの手でつくりだしてきた生活のありようと街の姿について、個々の目線から街の点描を試みます。

せんだいメディアテークHPより
https://www.smt.jp/projects/oimawashi/


感想 -1週目-

構成は、
戦前〜戦時、射撃場として使われつつ
応急住宅が隣接していた時代の年表

戦後、戦災復興の都市計画がつくられて応急住宅が発展してできた自治のまちが、計画による立ち退きを余儀なくされた歴史の年表
と、航空写真の移り変わり

かつての暮らしぶりを、当事者のエピソードや写真、物とともにたどるメインの展示

という感じだった。

最初の年表2つの部分でかなりボリュームがあっていったん先に進んで全体を見渡してみると、まだ3割ぐらいしか進んでいないことに気づいた。いったん年表をすっ飛ばして先に進むことにした。


メインの展示は、かつて住んでいた人の語りが書かれた小さなパネルをいたる所に散りばめながら、川内追廻の自治の様子を描いていた。

例えば、木造密集地域ならではの火災への対策。

歩きやすい舗装路面のための自主的な工事。
(「青葉山公園」の計画に関わる多くの工事業者は、計画に反対した川内追廻の住民に味方できなかった…!)

近所の大人に見守られ、時には怒られながら広瀬川と青葉山の間の豊かな自然でのびのびと育った子どもたちの環境。

そこで生涯の大部分を暮らした詩人や職人たち。


広瀬川の水害や火災、あるいは生活の様々な場面で使われたであろう「バケツ」と、せっけんとして使われた「さいかちの実」は、このまちの暮らしぶりを象徴するたくさんのモノたちのひとつとして描かれていた。

戦後の都市計画の中で「青葉山公園」となることが決まってしまった小さなまち。「公助」のない貧しい暮らしの中で「共助」にあふれた小さなまち。

ここまで約1時間。貧しくも豊かさを感じさせる暮らしに触れて出口に向かう自分は、どこかノスタルジックな気持ちになっていた。


いやまてよ、本当にそれでいいのか…??


感想 -2週目-

そういえば、川内追廻の住民を立ち退きに追いやった青葉山公園の計画は、どうしてこれ程ずっと揺るがなかったのか?

歴史年表をすっ飛ばしてしまったから、2週目でざっと探してみた。時間がなかったし年表の分量が膨大だったから探しきれなかっただけかもしれないけど、その理由は見つからなかった。
計画ができたから、立ち退きをお願いする。
それだけしか書かれていない印象があって、揺るがない強い理由が分からなかった。

出口の外には、展示を見た人たちの感想の中からピックアップされたものが掲示されていた。まだ立ち退きの途中でぽつんと残っていた住宅を見て違和感を抱いていて、展示を見ることで解決できた人がたくさんいた。

幼少期からこの場所に住んでいた人もいた。そのような人たちの感想には、かつての暮らしの苦しさが書かれたものもいくつか見られた。学校ではこの場所に住んでいることを隠し、よそ者には「タダで住んでいる」と思われ、まるで邪魔者扱いのようにされる。

そうした負の側面をあわせ持つ過去が、ノスタルジックに描かれた(自分にはそう感じた)。
ここには少しモヤモヤするものがある。
出口の外の掲示を見なかったら、気づけなかったかもしれない。

HPを見返してみた。

主催はせんだいメディアテーク。協力には、立ち退き先であった新田の「新田住宅親和会」。
これは、移り住んだ人たちのリアルな経験に基づいた情報を得るために必要だったと思われる。

そして、「青葉山公園・仙臺緑彩館(青葉山エリアマネジメント)」と「仙台市民図書館」が書かれていた。

あくまで勝手な想像でしかないから明言することはしないけど、ここにひとつの原因があったかもしれないな、とか考えた(本当に想像でしかない)。

冒頭に、「第三者の勝手な感想」と書いたのはそういう意味で。

でも総じて、展示を見に来て良かった。特に後半のメインの展示は、パッと見で伝わるビジュアルと映像音声、文字量のバランスがちょうど良くて飽きなかった。

たしかに、展示の目的である「77年にわたる歴史や暮らしを振り返」り忘れないということは達成しているように思えた。



ひさしぶりに、備忘録として言語化するために書いてみました。

長かったですが、最後まで読んでくれて感謝です。


撮影可能な仮設セットの上から見る灯篭


展示は12/24まで。
気になったら見に行ってみてね。

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