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バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)にみる境界

知人に勧められたバードマンを見た。 かつてスーパーヒーローを演じて一躍有名になったものの、しばらく日の目を見ないでいた役者が再び役者としての名誉を取り戻すべく、自身が脚本出演する舞台に全てを賭ける模様を描いている作品。 なんだか最初はよくわからない、語りかけてくるのは誰か、どこから演技でどこから演技ではないのか、人々の関係性、今どこにいるのか。 しかし次第にこれらの混乱を招いているのはストーリーそのものではなく、超がつくほどの長回しであることに気づく。 この映画のほとんど

    • PERFECTDAYS雑感

      同居人に誘われてPERFECT DAYSを見てきた。 トイレ清掃員のある男の日常、ヴィム・ヴェンダース、きっと何も起こらない映画だということは見る前に想像がついていた。 風呂なし木賃アパート、故に銭湯、コインランドリー、古本屋やスナック、地下にある居酒屋、主人公の日常行動範囲はこれでもかという程下町文化に根付いていた。そんな中で彼の職場であるトイレだけがモダンで絵としてはその設定のアンバランス感が否めない。 だけど無口な彼の日常は美しかった。ご近所の箒をはく音で目覚める、布

      • いし

        豊田市美術館の「ねこのほそ道」展にて中山英之さんと砂山太一さんによるいしの作品を見た。 竹尾ペーパーを発端とした「かみのいし」は元々知っていたし、中山さんの2019年ギャラリー間での展示「,then」においても展示されていたものの、そこまで意識を注力して見られていなかった。 (ここでは短編映画がメインであったことに加え、その他ドローイングや模型など盛りだくさんだったのでついつい建築作品に目を奪われ…) 今回は中山さんと砂山さんが作家としての参加であったことから、いしは作品とし

        • 言葉の外にある意識

          濱口竜介監督の作品を2つ見た。 先に見たのが「偶然と想像」その後「ドライブマイカー」も濱口さんと知って見てみた。 「偶然と想像」は3作の短編集からなる。1つ1つの物語は独立しているものの、偶然性から想像かつ創造的な会話をきっかけに物語が進んでいく点は共通している。 「ドライブマイカー」は村上春樹が原作である。繊細な村上春樹の文学表現をとてもよく捉えつつ、そこに濱口さんの表現が見事にフィットしており、あっという間の3時間だった。 濱口さんの作品は会話のシーンが多くあり、

        バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)にみる境界

          語りの複数性をみて、

          2021/12/4 渋谷公園通り前ギャラリーにて、語りの複数性という展示を見た。 その中でも一際気になった作品は、百瀬文さんによる「聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと」という映像作品である。この作品は、生まれつき耳が聞こえない木下知威さんと、作家の百瀬さんの対談形式によるものだ。 木下さんは、幼い頃、手話ではなく口話の教育を受けてきた。初めから手話を覚えると、口で対話できなくなるという考えの元であったという。よって、この対談でも木下さんは自分の声が聞こえていなくと

          語りの複数性をみて、

          ボイス+パレルモの二面性から生まれる視座

          2021.11.4 何気ない気持ちで、国立国際美術館で開催されたいたボイス+パレルモ展を観に行った。 ボイス+パレルモは、ドイツの師弟関係にある彫刻家と画家である。この展示では、個人ではなく、2人という作家を並べているところが肝のように思えた。 ヨーゼフ・ボイス(1921-1986)は、戦後に芸術の世界へ入り、後に芸術学校で教育にも携わっている。戦争時には、空軍の通信兵(=加害者)であったが、ソ連の追撃で重症を負い(=被害者)、現地のタタール人に脂肪とフェルトで治療を受

          ボイス+パレルモの二面性から生まれる視座