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グラフでわかるF1 番外編 ―女性ドライバー報道―

皆さんこんにちは、あ~る🍁です。
女性の社会進出や男女平等が求められる今、モータースポーツ界でも女性ドライバーたちの目覚ましい活躍が注目を集めています。
そんな中、いろんな意味で話題を呼んでいるのが日本の女性ドライバーである野田樹潤(Juju)選手です。

彼女の周りで起こる事件やルールについて、疑問や関心を持っている方も多いのではないでしょうか?今回は、彼女の略歴を振り返りながら、これまでの出来事や報道の在り方について考えていこうと思います。

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出典の記載がない画像は、すべて@JujuNoda_Racingより引用しています。


1. 野田樹潤(Juju)略歴

野田樹潤(Juju)は、日本の女性レーシングドライバーで、父は元レーシングドライバーの野田英樹です。
3歳からキッズカートに乗り始めた後、4歳でレースデビュー、9歳でフォーミュラカーをドライブしました。

2017年、野田樹潤は「FORMULA UNDER 17 & SENIOR RACE」に初めて参加しました。
このイベントは、野田家が拠点を構えている岡山国際サーキットが「次世代を担う10代のレーサー等にレースの機会を設けることで、モータースポーツの振興・発展を目指す」という目的で運営していました。主にスーパー耐久シリーズのサポートイベントとして運営され、旧F3やスーパーFJのマシンが混走し、数台が参加する非公式かつ小規模なイベントだった様です。
それでも、過去に前列のなかった女子中学生の参加はたくさんの注目を集め、旧F3クラスに転向した2018年から2019年にかけて、参加した11イベントでトップでゴールするなどの走りも見せました。

F4 Danish Championship

2020年、野田樹潤はヨーロッパに拠点を移し「F4 Danish Championship(現Nordic 4)」に参戦しました。このシリーズは、2014年にFIAが創設したF4規格に基づいていますが、クラスの違うマシンが混走するなど独自性もあり、同年は野田樹潤と同じクラスに3人がフル参戦しました。開幕戦でポール・トゥ・ウィンを飾り話題を呼びましたが、その後は低調なシーズンが続きました。
また、FIA主催のフェラーリ(FDA)若手女性ドライバー育成プログラム「FIA Girls on Track Rising Stars」の選考キャンプにも参加しましたが、最終選考には進むことができませんでした。

2021年、野田樹潤は同じくF4規格に基づいた「Formula 4 United States Championship」に参戦を表明しましたが、開幕戦の予選直前に急遽参戦を取り止めました。理由については「諸事情による多岐にわたる問題が解決されないため」と公式ブログの連載で説明されています。
その後、前年に引き続きデンマークF4参戦を決めましたが、総合7位に終わりました。

W Series

2022年、野田樹潤は女性限定のフォーミュラシリーズ「W Series」へと転向しました。第6戦でポイントを獲得しましたが、Wシリーズ自体が経営破綻・消滅したことで、思わぬ形でシーズンを終えました……

Euroformula Open Championship(EFO)

2023年、野田樹潤は「Euroformula Open Championship(EFO)」に参戦しました。全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権と同じく旧F3規格を基に行われ、第4ラウンドのレース1で見事初優勝を飾りました。
しかし、女性ドライバーに対する優遇措置が撤廃され、また日本製ホイールの使用許可も失効したことでEFO参戦を中断しました。

2023 Zinox Laser F2000 Italian Formula Trophy

前年度から参戦している「2023 Zinox Laser F2000 Italian Formula Trophy」では、女性として史上初めてシリーズ優勝を飾りました。この結果を各メディアが報道した際に多用された表現が「国際F3規格」です。
一見正しいように思えますが、2023年時点でF3を名乗ることができるのは「FIA Formula 3 Championship(FIAフォーミュラ3選手権)」だけで、このシリーズは旧イタリアF3を前身としているので「旧F3規格」と表現するのが正しいという意見が多く見受けられます。

BOSS GP Series

また、同年に欧州の「BOSS GP Series」にも参加しました。こちらは旧F3やGP2、さらに2000年代のF1マシンなど多種多様なマシンが走り、高価なフォーミュラカーを維持できるような富豪やジェントルマンドライバーらが参加しています。元F1ドライバーのロマン・グロージャンも、2012年のF1復帰前にテストの為参加しました。

全日本スーパーフォーミュラ選手権

2024年、国内最高峰のフォーミュラシリーズ「全日本スーパーフォーミュラ選手権」参戦を果たしました。国内外から有力ドライバーが集まり、近年はF1候補生の最終選考の場となることも多くあります。シーズン前テストではクラッシュが続き、首の動きやタイムも心配されましたが、開幕戦の鈴鹿・決勝では無事に完走を決めました。

2. スポンサー・メディア出演

多くのメディアが積極的に報道する野田樹潤とは、様々な企業がスポンサー契約を締結しています。
最近では準大手ゼネコンの「安藤ハザマ」や大手総合商社「豊田通商」のスポンサー就任が話題となりました。

またテレビやラジオ番組、CMにも多数出演し、その知名度はモータースポーツ界の外にまで拡がっています。

3. 報道の裏で起きていたこと

こうして幅広い注目を浴び、またたくさんの熱狂的なファンに取り囲まれている彼女ですが、一方でその才能や活動に疑問を抱く人々も少なくありません。
ここからは、彼女の略歴をもう一度振り返りながら、理由を考察していこうと思います。

「FORMULA UNDER 17 & SENIOR RACE」は所謂エキシビションレースであり、公式記録などには掲載されないイベントです。また、父の野田英樹が経営する「NODAレーシングアカデミー 高等学校」が運営に携わるほか、その生徒が参加するイベントでもあります。さらに、野田樹潤のマシンと比べて他の参加者のマシンが型遅れであるなど、正確で公平な評価が難しいとされています。

2020年、野田樹潤がヨーロッパに拠点を移し「F4 Danish Championship(現 Nordic 4)」に参戦したことが話題となりました。ただ、日本や欧米のレースのほとんどには年齢制限があり、彼女はまだそれを満たしておらず、参戦できるF4規格のシリーズが他になかったという背景があります。
その事実を「驚異的な年齢でレース界の階段を駆け上がった!」と捉えるのか、それとも「年齢的に成熟するまで待つべきだった…」と捉えるかで意見が分かれます。

「Formula 4 United States Championship」の参戦撤回については、公式ブログの連載でも明確にされておらず、撤回理由が不明なままデンマークF4参戦となりました。
また、開幕戦ではトップを走るエマーソン・フィッティパルディ・Jr.にファイナルラップで追突して優勝、彼の父であるエマーソン・フィッティパルディが激怒し野田英樹に詰め寄るといった騒動にまで発展しました。

「W Series」は女性限定のフォーミュラシリーズで、2019年から2022年(2020年除く)にかけて行われました。
ウイリアムズ・レーシングの育成ドライバーであるジェイミー・チャドウィックが全てのシーズンを制覇するなど活躍を見せました。日本からは小山美姫も参戦し、野田樹潤を大きく上回る成績を残しています。

「Euroformula Open Championship(EFO)」では、女性ドライバーに対する最低重量の優遇措置が野田樹潤の参戦発表直後に導入されました。しかし「男性ドライバーに対して不公平ではないか」と物議を醸し、段階的な変更を経た後に撤廃されました。
野田陣営は運営側を強く非難し、レースからの撤退を決めました。
この動きがファンやメディアを煽動し、海外の女性・日本人差別を印象付けたとも言われています。また、優遇措置の廃止を待たずに撤退したことで、男性ドライバーとの対等な走りを見ることは遂に不可能となりました。

「2023 Zinox Laser F2000 Italian Formula Trophy」では、ジェントルマンドライバーやアマチュアドライバーら57人によって争われましたが、その中で野田樹潤と同じクラスにフル参戦したのは、実は3人です。

「BOSS GP Series」も同様、ジェントルマンドライバーやアマチュアドライバーらが参加するレースです。特筆すべき点は、参加する車両が旧F3やGP2、2000年代のF1マシン…といったネオ・クラシックマシンであること、参加者の多くが高価なフォーミュラカーを維持できる富豪や資産家であることです。
もちろんレースなので真剣勝負ですが、FIAが規定するスーパーライセンスポイントの付与対象には該当していません。

「全日本スーパーフォーミュラ選手権」参戦前のテストでは、トップとの大きなタイム差が波紋を呼び、さらに2回のクラッシュを演じました。開幕戦ではスタート直後のコースオフを経て、大きなトラブルのなかった車両の中で最下位でゴールしました。
また、第2戦では最下位走行時の青旗無視が問題となり、複数のドライバーから厳しい意見が寄せられました。

参加継続の「BOSS GP Series」においても、チームメイトとの激しいバトルの末スピン、マーシャルの許可なくコースを横断したことが大きな問題となりました。
さらに、コース横断時にステアリングを地面に勢いよく叩きつける動画がSNSなどで拡散され、そのステアリングとマシンが借り物であったことが判明し事態は悪化しました。

4. 女性ドライバーたちの活躍

世界中で活躍する女性ドライバーは、もちろん野田樹潤だけではありません。
アメリカのインディカー・シリーズで女性として初めての優勝を成し遂げたドライバー、ダニカ・パトリック。Wシリーズで3連覇し、先日開催されたインディ・ネクストで初優勝を達成したジェイミー・チャドウィック。
女性として初めてスーパーフォーミュラ参戦を掴んだタチアナ・カルデロン。
日本に目を向ければ、フォーミュラ・リージョナルの日本選手権でドライバーズタイトルを獲得した小山美姫。
ウイリアムズ・ドライバーズ・アカデミーへの加入が発表された松井沙麗……

ここで書ききれない程多くの女性ドライバーが、世界中のレースで活躍しているのです!

5. 盲目的な報道が抱える問題

野田樹潤がメディアで取り上げられるようになったのは、モータースポーツ界にとっても一見良いことのように感じます。
ただ「海外の女性・日本人差別に立ち向かう女子大生レーサー」という設定を、ファンやメディア、そして運営側までもが生み出してしまったことは、大きな間違いだったと私は思います。

世界各地で開催されるレースには複雑な歴史があり、またそれぞれに独自のルールがあるため、そのすべてを把握するのは困難です。それでも、メディアや運営側が複雑な背景を知ってか知らずか、誤解を招く報道を行ったのは、決して良いことではないと思います。

また、現在のモータースポーツ界で理想的なステップアップは、早い段階から育成契約を結び、F4→F3→F2→F1と流れるように進んでいく形です。
地方のイベントで優勝を重ねるのは、ファンやスポンサーを集めるという観点からすれば決して間違いではありません。しかし、それは理想的なステップアップの道から逸脱することをも意味します。

さらに、スーパーライセンス発給には、指定の選手権でスーパーライセンスポイントを3年間に40点獲得することが求められます。
野田樹潤が過去に出場したレースの多くは、スーパーライセンスポイントの付与対象外となります。

「海外の女性・日本人差別に立ち向かう女子大生レーサー」という売り文句も、ファンが海外への憎悪を募らせる要因になりました。もちろん、海外の差別思想が全くない訳ではないと思いますが「優れた自分を大人たちが陥れようとしている」「優れた自分の走りを見せて差別をなくした」と謳うのは、海外の方々に対して失礼だと思います。

また、これまで地道に努力を重ねてきた女性ドライバーや男性ドライバーたちは、過剰な報道に納得しているでしょうか?
彼女を目的にサーキットへ足を運ぶファンの皆さんは、いざ彼女がそのレースから離れた時、サーキットに残ってくれるでしょうか?私はそう思えません…

6. モタスポファンのこれから

モタスポファンなら、誰しも一つは「推し」があるはず(それがドライバーやスタッフの場合もあれば、チームやサーキット、マシンの場合もあるはず)。

そして、そんな推しの活躍をいつまでも見ていたいし、推しの辛そうな瞬間は見たくないものです。でも、それが誰かを傷つけたり、誰かの活躍を隠したりするようなことがあれば、やっぱりそれを放置してはいけません。自分の推しと同じように、ひたむきに努力を続ける人がいる、そしてそんな人を応援する人もいる、これは誰もが心に留めておくべきことと私は思います。

みんなが純粋に楽しめるモータースポーツをみんなで作っていくことができれば、こんなに楽しいことはありませんよね!
だからこそ必要な力が、メディアリテラシーなんです!どんな報道でも、冷静にその真偽を見極めていくことが大切です。

さいごまでお読みいただき、ありがとうございました。

たくさんのニュースで溢れるなか、私たちもメディアリテラシーを身につけてしっかりと情報の真偽を確かめながらモータースポーツを全力で楽しんでいきましょう!
ではまた👋

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