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お前に中指立ててやるほど暇じゃない

ずっとパソコンの中に書き溜めていた話。
半信半疑で読むこと。


思ってたんと違ったんよ。
そう、ただそれだけなんよ。
でも何より致命的だった。

一緒に住もうと言われて嬉しかったのはほんと。
ついていったら、実家からも地元からも出られる打算があったのも。
そのときのあたしは、どうしても地元から出たくて、親をなんとか納得させられる理由が欲しかった。
まだ学生だからと言って実家を出る気が君に全くなかったこと、できれば最初にはっきり言ってほしかった。

2人の暮らしは2人で一緒に積み上げていくものだと思ってた。
部屋とか家電とかも、一緒に選ぶものだって。
だから「花束みたいな恋をした」を1人で観たとき、欲しかったものが画面いっぱいに広がっていて泣きそうだった。

一緒に住み始めてから、なんか違うな、という些細な違和感のオンパレードだった。
何かが根本的に合わなかったんだと思う。

そもそも、付き合おうと言われたときもあたしの方はそこまで相手のことを好きではなかった、どちらかというと、好きになれたらいいなくらいの温度感だったから、初めから乖離があったといえばあったんだ、ここまでとは思わなかったけど。

一緒に住まないでいるほうが、よほどデートっぽいことしたし、あたしのこと考えてくれてるのかもってわかりやすかった。
夜眠るときほど、好きな人と一緒にいたいでしょう。
なんなら一緒に寝たいよね。
でもそれもほとんどなかったね。
夜中から明け方まで、君は友人たちと山の中を走りに行っていたから。

それを全面的には否定しない。
遊ぶのって楽しいし、学生だからできることもあるし。
でも、じゃあ、あたしはどうなるの
あたしだけが望んだわけじゃない、言い始めたのは君のほうで、全部捨てるようにしてここまで来て、平日も休日も2人で穏やかに過ごす時間が設けられなくて。
行きたくもない、君とその友人との遊びに付き合って、たまに露骨に嫌な顔をされて、君にもう行きたくないって言っても聞き入れてもらえなくて。

こういうことがあったとき、あたしは決まって目を閉じて深呼吸する。
そして、心の中でこの出来事とその瞬間の君に「さよなら」する。
そうやって手に持った風船を一つずつ手放していくみたいに、君との未来も少しずつさよならするんだ。

全ての別れに通じているのはコミュニケーション不足だと、何かで読んだ気がするけど
あたしの話したことが相手に全くといっていいほど理解されないときはどうしたらよかったの。
「ちょっとは考えろ」
「頭使え」
よくそういう台詞が吐けたよね?
あたしなりに理解しようとして、「こういうこと?」って聞いても、ほとんど回答はなかったけど。
言われる度に傷ついてた。

できるだけすれ違いたくなくて、思ったことは深読みしなくても伝わるように、文字通りのままで伝えるようにした。
いやなことも。
でもそれを信用されなかった。
「たいてい女の子の言葉には裏があるから」
とか言って、あたしが日常のやりとりにもそれを適用すると思われていたことはショックだった。

君との会話は基本的に疲れるものだった。
なんでもないときはいいのに、話し合おうとすると途端に適当(あたしにとってはテキトーだったけど)な理由をつけて、絶対に謝ろうとしなかった。
どうしてそんなこと言うの、って聞いたら
「意図的に君を傷つけようと思って言ってるわけじゃない、でもいらっとすると相手が確実に傷つくだろうなって言葉が口をついて出てくるんだ」
って返ってきたときはどうリアクションしていいかわからなかった。
軽率に嘘をつくし、急に言葉に含みをもたせてきたりするから、いつも言葉のどれが本当で嘘なのか、どこまでの言葉をまっすぐ聞いていていいのか、全くわからなかった。
こうした会話を楽しむ余裕なんてなかった。
そうやって混乱するあたしの様子を、君は笑って見ていた。
面白いとも言われた。
全然面白くねぇよ。
あと、冗談と称して発される言葉の数々に耳を覆いたくなることがよくあった。
本当に面白いと思って言っているのか、あたしには信じられなかった。
聞くと「冗談だからね」と返ってきたので深追いするのをやめた。
冗談なら何を言ってもいいと思っている人とは仲よくなれそうにない。
それでいて結婚しようなんて言ってくるから背筋が凍った。

あたしは就職するために半年学校へ通った。
その間、仲間との飲み会も開催された。
君も学校の飲み会に行くし、友人と遊びに行けば日をまたぐまで帰ってこないし、その点においてあたしが何か制約を受けるなんて考えていなかった。
話が盛り上がってなかなかお開きにならず、帰りの道も混んでいて、結局最初に伝えていたよりもかなり遅く帰宅した。
それでも合間に連絡していたし、責められる理由がわからなかった。

彼曰く、学校にバイトに忙しい日々のなか、この日は唯一の休日だったというのに、最初に言っていた時間より大幅に遅く帰宅するとは何事か
ということらしかった。
正直、それなら飲み会に行っていいよと言うなよ、と思った。
そもそも唯一の休日だなんて一切共有されていなかったのに。
理不尽を感じた。

そういう日々が続いて、あたしは正社員として就職して、彼も無事進級した。
平日は仕事と彼のお迎え、休日は彼のバイトや補講の送迎に奔走する日々が始まった。
休みの日にゆっくり過ごせる時間があるということ、これは社会人として生活するうえで必須だと思う。
異論は認めない。
全然なかった。
家からバイト先までがやや遠く、あたしが何か買い物をしたり喫茶店に行ったりしているうちにバイトが終わる。
好きな時間に起きて二度寝してのんびりご飯を食べる、なんて生活とは縁遠かった。
フルストレスだったといっても過言ではない。
この頃には、もう彼からの要求を断るという発想が消えていた。
脳死で頷いて動いておくしかないと思い込んでいた。
そんな自分に気づいていたから、彼が無事に学校を卒業して社会人になったら別れ話をもちかけるんだと、自分自身に約束した。

そうこうしていると身体が壊れた。
ついでに、心も瀕死だった。
手術することが決まったとき、様々な事情で家を分けねばならなくなった。
願ったり叶ったりだった。
一人暮らしをすることが確定してからは心が軽くなった。
正社員の仕事も辞めたし、お金もないけど、この先が楽しみでしかたなかった。
あの家に彼を恋人として入れようとは一切思わなかった。
むしろ立ち入ろうとしてくる姿勢に嫌悪すら感じた。
実際に一人暮らしが始まってから、あたしから彼に連絡をしたことはほとんどない。
声を聞きたいとか話がしたいとか、そういう感情がほんの少しも生まれなかったから。
未読だけが溜まっていった。
毎日なにかしら送られてくるのを見るのも嫌になって通知を切った。

彼はどうも無事に資格を取って卒業して就職もしたらしい。
依然として実家にいる。
「薄給すぎて家を出られない」というのが彼の言い分。
ずっと夢だって言ってた職業に就けてよかったね。

別れようって言ったとき、幸せだから別れたくない、みたいなこと言ってたね。よかったね、幸せで。
相性いいって言ってたけど、今までの生活をしてもなおそれを言えるの、一種の才能だと思う。
休みの日は好きな時間に起きて二度寝して洗濯も回さず遊びに行って、平日は急に友人を3人くらい家に連れてきて飲み会を開催して洗い物などせず放置。
何回も言ったけどさ、自分のことは自分でした方がいいよ。
あたしの気持ちとかを追体験できるVRでもあればぜひ体験してみてほしい。
その台詞であたしのこと全然見ていなかったんだということ、よくわかったから、そう言ってくれたことには感謝してる。
来世では袖触れ合うことがないように祈ってるよ。


こういうこと書くと、なぜか
「こいつはみじめな思いをしてきた人間なんだから大切に扱わなくてもいいや」
と思う人が一定数いるから自分はみんなから大切にされてますって言っておいたほうがいいよって言ってくる人がいる。
真偽はともかく、そういう思考回路の持ち主ならこちらから願い下げだし、自分にとって大切な相手なら尚更、全力で大切に扱ったほうがかっこいいに決まっている。

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