見出し画像

緑黄色社会「pink blue tour 2023」@東京国際フォーラムホールA ライブレポ

はじめに

 2023年6月15日に東京国際フォーラムのホールAで行われた、緑黄色社会の「pink blue tour 2023」のライブレポです。まだ完結していないツアーのため、一部演出・セットリストのネタバレを含みます。

本編

1 ピンクブルー
 SEが鳴り始め、完全生産限定盤のパッケージを彷彿とさせる「pink blue」という文字が書かれた紗幕越しにメンバーがステージへ登場する。曲が始まると同時に紗幕が下り、アルバムの1曲目が披露される。ポップネス全開のまさに今絶好調のバンドなのに、ブルー(憂鬱)を歌った曲から始まるというギャップがいい。サビでは歌詞通りピンクと青のようなネオンでステージが彩られる。曲中の長屋晴子(Vo.&Gt.)のため息はライブでしか味わえない独特の色気があった。

2 さもなくば誰がやる
 peppe(Key.)のピアノサウンドに乗せて長屋が歌い出したのは、同じくアルバム収録曲で劇場版「緊急取調室 THE MOVIE」の主題歌である。フロウな打ち込み音やホーンセクションを大胆に取り入れたロック曲はリョクシャカの十八番。ライブでは独特の緊張感をもって披露される。今ツアー初披露の曲が続いてフロアにはまだ若干の固さが見られたが……

3 Don!!
 それもこの曲で一気にほぐれた。長屋もハンドマイクで自由にステージ上を練り歩きながら歌い上げる。去年の対バンツアー「緑黄色夜祭」でも演奏されていただけに合いの手もバッチリ。マイナーキーのAメロから、転調してサビではメジャーキーで一気に明るくなるのがリョクシャカの持ち合わせるロックとポップの2面性を顕著に表している。「変わる世界が見たいですか?」で起こる歓声と拍手は、まさにライブで声が出せる世界に変わったことを祝福するかのよう。

4 あのころ見た光
 ここで初めてアルバムには入ってない曲が披露された。ピアノのイントロとコーラスが涙を誘うアップテンポな曲だが、この曲がリリースされたのはメンバーが20代前半のころで、メジャーデビューはしたが今のような大型タイアップはなく、売れそうで売れないと揶揄されたりもしていた時期である。そんな20代前半の、進むしかないというある種の焦りも孕んだように聴こえる歌詞が今聴くと別の角度から刺さる。

 時が経ち、バンドは紅白にも出て格段に売れるようになった。憧れていた自分になれたのかな。そんな歌詞はまるで自分たちに歌っているかのようだった。「今見えてるあの光が誰かが放ったものなら」「僕らが飛び込むその時誰かの光になれるかな」後ろから照明に照らされながら演奏するリョクシャカは、絶対に誰かの光になれていたと思う。「ラララ」のコールアンドレスポンスもばっちり決まり、ライブがここでひと段落する。

5 これからのこと、それからのこと
 「3年分我慢した声を、思う存分ぶつけてほしい。」というMCに続いてpeppeのピアノから始まったのは前作「Actor」収録のこの曲。一番ではなく特別になりたいと歌うストレートな曲。こういう曲だとよりリョクシャカのロックバンドらしさが目立つ。間奏のピアノソロもバッチリ決まり、一旦落ち着いた曲ゾーンへと入る。

6 ジブンセイフク
 アルバムのバラード枠。1番が終わると、なんと晴子さんが傍にあるシンセサイザーを弾き始めた。ここで鳴っていたのはブラスサウンドだったが、peppeのピアノサウンドとこういう形でライブで共存できるのかと驚いた。バラード曲だからこそ長屋の声量と歌唱力が際立ち、それを支えるバンドの音の骨太さも再認識させられる。

7 LITMUS
 紫の照明に包まれるバンドが演奏を始めたのは、こちらもドラマ「緊急取調室」の主題歌であったLITMUS。去年の武道館公演では左右のモニターに曲名通り赤と青の照明に照らされたメンバーが映し出されていたが、今回も曲の最後の方で同じ演出がされていた。今思うとあれがピンクブルーの伏線だったのかな。曲が進むにつれバンドの音は激しさを増し、次の曲へと熱量を高めていく。

8 Mela!
 この中盤で言わずと知れたスマッシュヒットソングを入れてくるとは。もちろん客は手拍子やコーラスで答える。カッティングギターとスラップベースが心地よい、解説するまでもないポップソングだが、間奏では長屋が1人ずつメンバーをコールしサポートドラムを含めた楽器隊によるソロ回しが行われる。聴き慣れた曲でもこういったアレンジを入れてくれると新鮮な気持ちで聴けるし、曲終わりに小林壱誓(Gt.)の「ボーカル、長屋晴子!」の声に続けてボーカル・ソロと言わんばかりのロングトーンを響かせた長屋の声はまるで一つの楽器みたいだ。

9 あうん
 小林の合図に従って世代ごとに「pink blue tour 2023」を4単語に分けて言うという、まさに阿吽の呼吸のやりとりがあった後は、長屋・小林によるツインボーカルが特徴的なこの曲が披露される。「始まりの歌」「丘と小さなパラダイム」等これまでも少し小林のボーカルパートがあったことはあったが、ここまでがっつり歌ったのはこの曲が初めてじゃないだろうか。

 同じ高校の軽音部でバンドを結成した際、小林は最初ボーカルを志望したが長屋の歌唱に圧倒されて身を引いたという過去があるらしい。確かに晴子さんの歌を聴いたらそう思ってしまうのも頷けるが、今回こういう曲ができたのは彼の中で歌に関する心境の変化があったのだろうか。せっかくいい声もしてるし、ギターを弾きながらライブで歌える実力もあるので今後もっとこういう曲も増えていってほしいな。

10 うそつき
 同じくアルバムの曲ではあるが、こちらはアルバムの中から先行配信という形で先に聴けていてMVも先立って公開されていた曲。背景の縦長のLEDモニターに歌詞が映し出される中、長屋もギターを弾いて届けられたこの曲は「優しさ」と「嘘」がテーマにされていて、ギターを弾いてない部分でネックを強く握りしめて歌う姿にはとても感情が篭っていた。

11 大人ごっこ
 この曲のイントロのフレーズが少しアレンジされて演奏され「ライブ用の曲前セッションかな?」と思っていたらなんとそのままの曲調で始まり呆気に取られた。ジャズバージョンの大人ごっこだ。穴見真吾(Ba.)はライザーに座りベースをスラップし、長屋はモニター(内音用のスピーカー)に腰掛けたりしながら歌う。メジャーデビューアルバム「緑黄色社会」の頃とは違う、また一つ大人になったリョクシャカによる一味違うジャジーな大人ごっこは間違いなく個人的ハイライトの一つだった。

12 Starry Drama
 どこか宇宙を思わせるサイケデリックな音とスペースシャトルっぽい照明からライブはラストスパートへと走り出す。歌詞の通りAメロでは背景に満天の星空に見える照明が瞬き、サビではそれらがまるで流れ星のように輝く。目を瞑っても分かるほどに。疾走感のあるサウンドがロケットのごとく全員を乗せてライブのクライマックスへと連れていってくれる。

13 Shout Baby
 引き続き長屋がギターを持ちながら、僕のヒーローアカデミアのエンディングテーマとしてバンドの知名度を一躍押し上げたShout Babyへ。この曲で緑黄色社会を知った人も多いのだろう。Aメロではクラップが巻き起こり、サビでは皆んなが手を挙げる。そんな中でも色々なノり方をしている人がおり(そもそもリョクシャカの曲のリズムは結構曲中で変化することも多くあるが)キャパ5000人の全員が思い思いに楽しんでいる様子は冒頭のMCの「自由に楽しんでほしい」という言葉を実践しているように見えた。

14 始まりの歌
 この曲はリョクシャカ初期の代表曲であるが、コロナ禍による声出し禁止期間が長かったこともあってか、サビの「ルラララ」ではファンの一際大きな合唱が響き渡る。メジャーデビュー当初の曲がこの広さのキャパシティのホールで鳴らされることはとても感慨深い。メンバーもそんな嬉しさを滲ませ、特に小林は穴見と向かい合って演奏した後に移動しすぎて2サビのハモりをベース前のマイクで歌ったり、Cメロのボーカルパートにギリギリで間に合ったりと本当に楽しそうだった。

15 キャラクター
 長屋がギターを置いてハンドマイクになり動きで魅せる。MCで語られていた通り同じ国際フォーラムでミュージカルに出演するという経験を経て、前アルバム「Actor」のリード曲「キャラクター」への解像度も上がったのか、いつもよりも自由に動いていた。まさに緑黄色社会のフロントマンという役割を演じ、客を楽しませるエンターテイナーだ。間奏ではクラップのコール&レスポンスもあった。穴見・長屋・小林が軽快なボックスステップを踏むのも見慣れたものだ。

16 Slow Dance
 本編ラストは、アルバムと同じくこの曲で締められた。「ジブンセイフク」ぶりに長屋は傍のシンセサイザーを弾きながら歌う。最後の曲としてグッとくるような、でも幕開けの1曲目としても相応しいような不思議な魅力のある曲で、1曲目の「ピンクブルー」と共にリョクシャカの新たな一面が見られる。ポップ/ロック両方に振り切れるバンドとして世間に十分認識されつつもまだこういった挑戦的な曲調の新曲ができることが、緑黄色社会が世代を代表するバンドたり得る証左なのだと思った。

アンコール


EN.1 時のいたずら
 アンコール恒例の、ツアーに毎回帯同してくれている真吾先生によるグッズ紹介を終え長屋の「ボーナスステージへようこそ!」の言葉に沸くホール。MCでこの曲は去年の初の日本武道館公演に向け、みんなで歌いたいと思って作った曲であることが明かされる。結局去年の武道館で声出しをすることは叶わなかったが、今回ようやく歌えるようになったということで「歌を歌えば〜僕は嬉しくて泣いた」の部分がLEDビジョンに歌詞が映し出されて5000人の大合唱が起こった。

EN.2 sabotage
 「今日は本当に来てくれてありがとう!最後の曲です!」の声と共にpeppeがイントロを弾きはじめたのはライブでも定番で人気の曲「sabotage」。4年前にTVドラマ「G線上のあなたと私」主題歌として最初にお茶の間に緑黄色社会の名前を知らしめた曲である。「これが私だと少しだけなら今は胸を張って言えるの」という歌詞で締めくくられたが、その姿は少しだけどころか堂々と胸を張れるものだった。

まとめ

 途中のMCで緑黄色社会のライブに初めて来たという人に挙手させていたが、キャパ5000人の実に半分くらいで驚いた。「閃光ライオット」で頭角を表してから約10年、初の紅白歌合戦出場や日本武道館公演など盛りだくさんだった昨年を経ていよいよバンドの地位は確固たるものになった。人気急上昇中だとか、若者に人気だとかいうフェーズを超え今や国民的ロックバンドになりつつある。それは世代ごとに「pink blue tour 2023」を4つの単語に世代ごとに分けた際の声の大きさがそこまで遜色なかったことからも伺える。

 数年前に渋谷CLUB QUATTROで観たワンマンではアンコールの時に「恋って」の「ラララ」のフレーズを歌うというくだりがあったのだがこうファン層もガラッと変わった今ではその文化は無くなってしまったみたいだ。しかし、売れに売れてもまだ高みを目指し続けるリョクシャカだからこそここまで動員を拡大できたのだと思うし、最新アルバムのツアーであっても初期の曲を、時にはアレンジを変えて演奏してくれるというサービス精神も持ち合わせているのが嬉しい。このまま最強のポップ・ロックバンドとして進化し続ける緑黄色社会の今後がまだまだ楽しみだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?