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ある日、僕のSNSが乗っ取られていた。

プロフの画像は萌え系のイラストに、さらに秘密の写真が知人のアカウントに勝手に送られていた。それに気づいたのは昨日の夜だった。僕はそのSNSにしばらくログインしていなかった。昨夜久しぶりにログインしようと思ってもログインできない。パスワードが違いますの一点張りである。

その夜はあきらめて次の日出社すると同僚が僕に変なことを言い出した。

「おい、プロフィール可愛くなったんだな。あと秘密の写真ありがとうな。いい思いしてんだな。」

「は?おれ、ログインできないんだけど。。」

「知らないけど、お前のアカウントからこんな写真が送られてきたよ。早く何とかしないとやばいんじゃないか?」

同僚は僕に彼のアカウントに僕から送られていたという写真を見せてくれた。そこには僕と会社の不倫相手の裸の写真が写っていた。SNSの鍵がかかったフォルダに入れていたはずだった。

「誰だ?こんないたずら!!」

「知らないけど、会社の結構な人に送られているらしいぞ」

おいおいおい、冗談じゃねえぞ。誰だこんな真似しやがって。くそくそくそ!!!思い当たりがない。全くわからねえ。僕は怖くなって、仕事をそうそうに早退して自分の部屋で別アカウントで自分のアカウントを調べてみた。

そこには萌え系のイラストのプロフィールやタイムラインには秘密のフォルダから次々と卑猥な写真が投稿されていた。しかもログインできないから削除もどうしようもない。メールアドレスさえ変更されていた。もうどうしょうもない。終った。

その後も僕のアカウントからは僕の卑猥な写真が投稿されたり、会社の上司の誹謗中傷などが投稿され続け、僕は仕事を辞めざるを得なくなった。

無職になってとぼとぼと街を歩いていたら、ふと定食屋があり僕はふとその店に入った。そこでは若い女の子が店を切り盛りしていた。確か以前に入った時はお爺さんとお婆さんがやっていたと思ったが。。。。

「何にします?」

「それじゃあ さんま定食で」

「はい! 了解しました」

「お客さん、元気ないですね?」

「ああ まあ今失業中でねえ」

「そうですか。また仕事見つかりますよお」

「ありがとう」

「はい、さんま定食 お待ち!」

「うん、うまい!」

「良かったです!!」

「前はお爺さんとお婆さんが店をやっていたと思ったが。。」

「爺さんと婆さんは身体壊してしまって、もう店に立てなくなりました。」

「そうでしたか。。。」

 「体を壊したには原因があって、最近飲食店とかってネットに口コミを書く場所があるじゃないですか?あそこにひどいことを書かれてしまって、2人とも落ち込んでついには身体を壊してしまったんですよ」

「ひどいことをする人もいるもんだな」

「ほんとですよね」

確かに、定食自体は普通の定食だけど、まずくはないけどうまくもない。でも誹謗中傷するほどのことだろうか。

「ちなみにどんな口コミを書かれたんだい?」

「たまたまかつ丼にハエが止まっていたんだそうです。そのことにお客さんが怒ってしまって、お爺さんはたくさん謝ったし新しいのをお出ししたんですよ。でもお客さんはこんなもの食えないと出て行ってしまって、口コミにあることないこと書かれてしまって。。。」

「へえ、ひどい奴もいるもんだな」

「そうですねえ」

「うまかった。ご馳走様」

「ありがとうございました!」

その若い子がレジから戻る時にTシャツの裏が見えて、そこには何となく見覚えがあるイラストが描かれてあった。どっかで見たことあるなと思ったが気にも留めなかった。

でも、気になって僕はその店の口コミをネットで調べた。そこには1年前のコメントが残っていた。

「かつ丼にハエが止まっていた。ひどい対応でかつ丼が出てくるのも遅い。食うに値しない」

「ひどい対応ですね。僕も入ったことありますが、出てくるの遅いですよねえ」

「私もこの前ひどく待たされて、帰りましたわ」

口コミには非難のコメントが並び、★は2以下だった。最初の投稿に見覚えがあった、僕だったのだ。僕は1年前かつ丼にハエが止まっていたことに怒ってこんな投稿をしたのだった。それ以来店には行ってなかったし完全に忘れていた。

あ。あのTシャツのイラスト!!

乗っ取られた僕のSNSのプロフィールのイラストだった。SNSを乗っ取ったのは彼女で、僕はそれなりのことをしていたのだった。

僕は夕暮れの街をとぼとぼと歩き、ふと立ち止まり、スマホを開き店の口コミに「さんま定食おいしかったです」とだけ書き込みをした。

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