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メランコリック

「あなた雨の匂いがするわね」

リリーは僕の胸に鼻を近づけ、クンクンと匂いを嗅いだ。

「雨の匂い?」

「そう、梅雨くらいにむせ返るような暑さの時に雨が降ることがあるじゃない?その時アスファルトや土の匂いが混じって雨の匂いがするのよ。その匂い」

「雨の匂いはわかるけど、今日は雨降ってなかったけどな。」

「あなた時々雨の匂いがするわ。きっと嘘をついてる時ね。」

「へえ、そうなんだ。ちなみに今日は嘘はついてないけど(笑)」

「きっと嘘ね。だってそれ嘘だもの(笑)。匂いは正直だし、あたし雨の匂い嫌いじゃないわ。きっと嘘を洗い流したくて雨を降らせたいのね。」

僕は黙ってリリーを抱きしめた。


いつも6月に雨が降るとリリーを思い出す。あの時僕は嘘をついていたのだけど、リリーは僕を問い詰めることはしなかった。ただ僕の匂いを嗅ぐだけだった。

やがてその年の梅雨が終わると「雨の匂いがしなくなったわ。つまらない。」と言ってリリーはどこかに行ってしまった。

今僕は妻と子供と暮らしている。

「ねえ、雨って嫌よね。私雨の匂いって嫌いなの。」と妻が言う。

「へえ。」と言いながら、僕は自分の体から雨の匂いを発していないか嗅いでみて、少しだけリリーを思った。

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