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プロは"気持ち"に頼らない

「みんな俺のことを語るとき "気持ち"という言葉を使うけど、俺だって気持ち以前にいろんなこと考えてやってたんやけどな。
気持ちだけで勝てるほど、甘い世界じゃありません」。

復刻試合を本人が解説する生配信の中で斉藤和巳がぽろっとこぼした言葉が、深く胸に刺さった。

実際に配信を聞いていると、配球や間の取り方について当時から細かく考えていたことも伝わってきた。
斉藤和巳はその投球スタイルから「気迫のピッチング」の枕詞が常について回った投手だったけれど、細かい戦術や駆け引きがあればこそ、彼の力強い投球が生きていたのだ。

絶対に打ち取らなければならないところでアウトにする。
彼の気迫は、自分の技術と戦略への自信に裏打ちされたものだったのだとそのときはじめて気づいた。

メンタルトレーニングにおいて技術を重視する選手といえば、菅野も代表的な存在だ。

「不安は技術でしか解決できない」。

とあるドキュメンタリーで、彼はそう言い切った。
原辰徳の甥として、読売巨人軍のエースとして。
凡人には想像もつかないほどのプレッシャーと戦い続けてきた彼は、気持ちという不確かなものに頼らない。

たしかに、どんなピンチの場面を迎えたとしても「これさえ投げれば絶対に打たれない」と思える決め球があればマウンドの上で不安になることはない。
日々の練習の中で技術を磨き、再現性を高め、どんな場面でも対応できる自信さえつけば、何も不安に思うことはない。

普通の人がわかっていてもできないことを、プロは愚直にやりきる。
だからこそ彼らは大一番で変に力むことなく最高の力を発揮できるのだ。

菅野が技術にこだわっていることは知っていたものの、先日のインスタライブで「試合前のルーティーンで必ずやることはない」と言っていたのには驚いてしまった。

野球に限らず、スポーツは験担ぎが重要視されがちな世界でもある。
どちらの足からシューズを履くとか、前日には必ずこれを食べるといったルーティーンをきっちり決めている人も多い。

しかし菅野は、「ルーティーンよりもその日の体調をみてやるべきことを判断しているので、やることは特に決めていない」と話していた。

私が知っている限りでは、ルーティーンを聞かれて「ない」と答えた人は初めてである。

それだけ菅野が精神安定としてのルーティーンよりも、自分の体をしっかり観察して最もパフォーマンスを出すための調整を重視しているということだろう。
自分の技術に圧倒的な自信がなければできないことだ。

試合を見ていても、彼がマウンドに立つと球場の空気が安定するのがわかる。
もちろん調子が悪い日もあるし、打ち込まれてしまうこともあるけれど、菅野自身は外的要因によって左右されていない雰囲気があるのだ。
淡々と投げ、淡々と抑え、淡々と勝つ。

社会人として仕事をしていると、この「淡々と」がいかに難しいかがわかる。

気分に左右されることなく結果を出すには、どんなときでも一定以上のパフォーマンスが出せるだけの技術を磨くことが必要不可欠なのだ。

プロは気持ちで仕事をしない。

緊張しないためには練習でカバーするしかないという考え方は、あらゆる世界の「プロ」に共通する考え方なのではないだろうか。

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