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旅先で読む本は、その土地の風景を裏切るものであるべきだ

旅にあるならば、いま浸りこんでいる風景に読む本の質を合わせない。これが、私の長年の癖といえば癖である。

辺見庸「旅の読書──風景への裏切り」

この一節を読んで、そういえば私も無意識に旅先で読む本はその土地に関係ないものを選んできたかもしれない、と思い当たった。旅にでる際の荷物は半分と言わずとも1/3ほど本が占めているにも関わらず、たいていはそのとき読みさしの本をあまり何も考えずに放り込み、たまに積読の山脈のなかから適当なものを引っ張り出して持っていく。それだけの本を持ち歩いておきながら、その土地に関する本はおろか、ガイドブックの類すらも持って行った記憶がない。

ふと思い出したのは、4年ほど前にサンクトペテルブルクに行ったときに急に「風姿花伝」が読みたくなり、はじめて電子書籍で買って読んだこと。ロシアの古都でなぜ急にまったく関係のない日本の古典を読みたくなったのか、その理由はすっかり忘れてしまったけれど、私のなかでは思い出深い旅先の読書として胸に刻まれている。

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思索綴

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