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共感は「個人の物語」からはじまる

コンテンツには、「役に立つもの」と「役に立たないけれど愛されるもの」の2種類があると私は考えている。そして発信を苦手とする人の大半は、「役に立つもの」しか発信してはいけないと思い込んでいることによって自らハードルを上げすぎているように思う。

「役に立つもの」はたしかに根強い人気がある。誰でも簡単に成功する方法を知りたいのだし、情報が溢れている今、これを選ぶのが一番コスパがいいと教えてくれるコンテンツの人気はますます高まっている。

その一方で、Twitterを見てもnoteを見ても、すぐに人生に役立つわけではないエッセイや日常のつぶやきが人気を集めている様子をたびたび目にする。Instagramも一生訪れることのないような場所や素人には真似できない完成度の住まいや食卓の写真で溢れている。

必要な栄養素さえとっていれば生きていけるわけではないように、コンテンツにも「食べる楽しみ」がある。同じようなことを言っていても人気に差が出るのは、それぞれのコンテンツの味付けが異なるからである。

その味付けを支えているものこそが「共感できる物語」だと私は思う。

しかし企業やお店が発信する場合、理念やこだわりを共感ポイントにもってきてしまうがために読み手に共感されないという現象が起きてしまう。共感は作ろうと思って作れるものではなく、自己開示した結果として自然に生まれていくものである。

つまり共感を生むのは組織を代表して書かれたかしこまった文章ではなく、個人的な体験をもとにした物語なのではないかと思うのだ。

その最たる例が、先月8,000以上のスキを獲得し大ヒットしたぺんてるさんのnoteである。

さらにこのnoteは多くの人に読まれただけではなく、読み手のぺんてる愛を深める効果があったのではないかと思う。ぺんてるさんが募集している「#忘れられない一本 」のハッシュタグをつけて投稿されたnoteが集まっているのも、このnoteをきっかけにぺんてるのシャープペンについて語りたい欲を刺激したからである。普段は意識せずに使っていたアイテムに対してここまでの熱量をもっている人の存在が可視化されたことで、連鎖するようにそれぞれの「語りたい欲」が高まっていく。

SNSの台頭によってUGCが注目されているが、口コミが発生するのはユーザーの語りたい欲が顕在化したときであり、企業側がまず率先して語ることがそのひとつの手法となる。語ることによって、また別の物語へと連鎖していくのである。

以前配信イベントに出ていただいた山下さんも商品紹介を物語として伝えるのがうまいクリエイターだ。

商品紹介は通常、「あなたのために」の視点で書かれることが多い。もちろんECの商品詳細ページであれば。顧客にとって便利なポイントを要約する必要がある。

しかし人は常に何かを欲しいと思っているわけではない。時間があいたのでなんとなくSNSのタイムラインやニュースサイトを追っているとき、私たちが読みたいのは綺麗に飾られた言葉ではなく、共感できる誰かの「私の物語」なのである。

TENTの青木さんにファンが多いのも、常に「自分の物語」の視点で発信されているからなのではないかと思う。

ものづくりの原点は何かしらの課題を解決したいという思いにあるはずだ。その思いを素直に自分の視点から書くことが、共感を集めるコンテンツにつながっていく。

自分が感じた課題でもいいし、素材やものづくりの現場で感動したこと、作り手との会話で気づかされたこと。無理に客観性のある文章を書こうとせず、そのとき自分が感じたことや心動いたことを発信していくことが、結局は一番強いのだと思う。

木村石鹸の木村さんのこのnoteも、前半に自身が経験したエピソードが入っているからこそ同業者以外の人にも読まれやすかったのではないかと思う。過度に抽象化したり、無理に学びへと結論づけたりしていたら読みづらさを感じる人も多かったかもしれない。

企業やお店を代表して発信するとなると、批判を恐れるあまりどうしても表現が丸くなってしまい、結果的に誰にも刺さらないコンテンツになってしまうことがある。もしくは時流にのったコンテンツを作ることで話題になったものの、一過性のバズとして忘れられていってしまうケースもある。

上記であげた企業やブランドの発信がすごいのは、炎上することなくコンテンツを広げ、さらに強固なファンを作っている点だ。

そんな理想的なコンテンツを作っているのは、嘘偽りのない個人の物語であるように思う。

noteでの発信を手伝っているSOÉJUのアカウントでも意識しているのは個人が熱量を持って語れることを根幹に据えることだ。

もちろん書き方がカジュアルすぎるとブランドのイメージを壊すことがあるし、たとえ個人の視点であっても誰かを傷つける可能性のある表現には最新の注意を払わなければならない。

ただ、読み手を「お客様」として扱ってかしこまった表現をするよりは、読み手を「仲間」だと思い、社内で話しているようなテンションで伝えることが結果的に共感をうんでいくように思う。

今やWeb上のコンテンツもひとつの接客チャネルである。店頭で急に声をかけられて接客がはじまると顧客が身構えてしまうように、コンテンツも冒頭から接客全開ではじまると読み手の腰が引けてしまう。

たまたま知り合った人についでに自分の仕事を説明するように、社内の雑談で最近あったできごとを話すように、人間関係の延長線上で「伝える」ことこそが、共感をうむ物語につながっていくのではないかと思う。

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