見出し画像

思考のOS

沢木耕太郎が、影響を受けた人物として小林秀雄をあげていて驚いた。同じ物書きとはいえ、「深夜特急」のような紀行文やルポルタージュと小林秀雄の批評・評論のあいだには、ジャンルとして大きな隔たりがある。特に沢木耕太郎は旅人のイメージが強かったので、旅人ではなくあえて小林秀雄だったことに意外な思いがした。

もちろんその前段で、小田実の「何でもみてやろう」や壇一雄の「風浪の旅」といった紀行文に強く影響を受けたとも記している。では彼が小林秀雄から受けた影響とは何か。

それは文章の書き方や旅の仕方といったテクニックではなく、もっと根源的な「ものごとを捉える姿勢」だったと彼は説明している。

だが、私が以前に読んで傍線を引いたのは、つまり私が心を動かされたのは、その小林秀雄の、偏見に眼を曇らされることない、現実胃を大きく鷲掴みにして見据えるという態度そのものだったのだと思う。そして、その記憶が、キエフ駅の子供たちを見たとき、どこかで私の見方に影響を与えたのだと思うのだ。それは、眼の前のものを素直に見てごらん、という教示だったように思う。

沢木耕太郎「旅する力─深夜特急ノート

この箇所を読みながら、「たしかに私も小林秀雄を"インストール"しているな」と思った。しかもソフトウェアではなく、OSとして。

ここから先は

1,340字

思索綴

¥390 / 月 初月無料

消費と文化、哲学と営み、人の世の希望と悲しみについて考えを巡らせていくマガジンです。本を読んで考えたこと、まちを歩いて感じたこと、人との対…

サポートからコメントをいただくのがいちばんの励みです。いつもありがとうございます!