叶うばかりが夢じゃない、のだ。

『夢を見る』こと。
それ自体はいつもいいことだとされている。

でも年を重ねるにつれ、周囲の目はだんだんと厳しくなっていく。
昔は称賛された挑戦が、『失敗できない計画』になっていく。

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いっておいでよ、と書いてから1ヶ月半。

最終的に菊池が下した結論は、広島への残留だった。

彼の決断に対して、はじめからわかっていたことだと批難するのは簡単だ。
メジャーは日本の何倍も打力が求められる世界だ。

菊池はお世辞にも強打者とはいえない選手だし、たとえオファーが来てもマイナー契約など厳しい条件である可能性が高いことは本人が一番わかっていたことだったと思う。

実際彼にどんなオファーがきていたのか、もしくはまったくオファーがこなかったのか、本当のところはわからない。

ただ確かなのは、菊池はこれまでと同じように来年も広島でプレーするということだ。

それでも彼がメジャーに挑戦したいと表明したこと、そしてちゃんと市場に出て評価され、その上でやっぱり日本で戦うと決めた一連の流れには意味がある、と私は思っている。

夢は叶うときばかりではない。
しかし叶えたいと名乗り出ることでしか、自分と夢の正しい立ち位置は測れない。

その距離を自覚してはじめて自分に足りないものが見え、後に続く人たちの基準にもなるのだ。

今回、もし菊池がメジャー挑戦をしなければファンの間でずっと『もし菊池がメジャーに行っていたら』という夢が語り継がれていっただろう。
菊池の守備がメジャーでどれだけ通用したのか見てみたかった、という希望と共に。

しかし実際には、メジャーでプレーしようと思ったら守備と同じくらい打撃力が必要なのだと私たちは思い知らされた。

これは菊池自身の課題発見に止まらず、今後日本球界の二塁手がメジャー挑戦する際のひとつの基準になる例だと私は思う。

メジャーでは、内野手は花形ポジションだ。
しかも野手は全員打撃力があって当たり前とされている。
どうしてもパワーで劣る日本人にとって、野手としてメジャーで成功するハードルは高いとされてきた。

これまでの日本人メジャー選手をみても、投手に比べて野手の活躍事例は極端に少ない。

それでも私たちは菊池の挑戦に一縷の望みをかけていた。

日本人の堅実な守備理論とアメリカ的な身体能力を存分に生かす守備センスが合わさった菊池なら、もしかしたら守備面が評価されてどこかからオファーがくるのではないか。

しかし結果的にメジャーはやはり打撃力を重視するのだと私たちは学んだ。

『守備がうまい』だけならマイナーにだっていい選手がゴロゴロいるMLBの世界では、打撃力こそが最大のセールスポイントなのだと。

でもこの学びはきっと、次世代に受け継がれていく。

いつか日本人内野手としてイチローや松井くらい成功する選手が、きっと現れる。

菊池の夢は叶わなかったかもしれないけれど、その意志はバトンのように渡され続けていくはずだ。

だってほんの数年前であれば、菊池のような選手がメジャー挑戦を表明することすら難しかったのだから。

夢はいつも叶うばかりではない。
むしろ叶わないときの方が多いかもしれない。

でもたとえ叶わない夢だったとしても、語ることにだって意味がある。

叶ったかどうかよりも、夢を叶えようとする姿こそがかっこいいのだから。

菊池がまた次の夢を見つけて、その夢を追って、ますます輝く1年になりますように。
2020年の『広島・菊池涼介』をまた、私は新たな気持ちで応援したいと思っている。

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