スクリーンショット_2017-10-05_17.31.31

「いい人」と「悪い人」を分かつもの

アンパンマンの中に、ロールパンナちゃんというキャラクターがいます。

「お姉ちゃんがほしい!」
というメロンパンナちゃんのために、ジャムおじさんが新しく作ったキャラクターです。

しかし、本来ならアンパンマンやメロンパンナちゃんと一緒に正義のヒーローとして活躍するはずが、パン生地を寝かせている間にばいきんまんが「あくのこころ」を入れてしまったがために、正義の心と悪の心を半分ずつもって生まれてしまいました。

赤いハートが半分、青いハートが半分のロールパンナちゃんは、そのときどきによっていい面と悪い面が現れます。

子供の頃は不思議だなあと思いながら見ていたのですが、大人になってから思い返してみて、このキャラクター設定の巧妙さに驚きました。

善悪両面をもつロールパンナちゃんとは、まさに私たち人間のことだからです。

私たちは普段の生活の中で無意識に「いい人」と「悪い人」を分けて考えていますが、どんな人でも100%の善人もいないし、100%の悪人もいません。

イタリアの傑作メルヘンに「まっぷたつの子爵」という作品があるのですが、ストーリーの中で主人公の伯爵が善人と悪人にまっぷたつに別れてしまった結果、100%の善人の方も様々な迷惑を振りまいてしまうという描写があります。

常にいい人間であることは必要ですが、悪の心が「まったくない」ではなく「持っているけどコントロールできる」という状態こそが理想なのだと考えさせられるお話です。

さらに、アンパンマンの中の描写でうまいなと思ったのが、メロンパンナちゃんが「お姉ちゃん!」と呼ぶと赤のハート、つまりロールパンナちゃんの良心が反応するのです。

平野啓一郎が「私とは何か」の中で「分人主義」という考え方を提唱したように、私たちは常にいい面も悪い面もあわせて、様々なキャラクターを自分の中に内包しています。

つまり、私たちが接している「相手」とは自分が引き出したその人のキャラクターのひとつであり、それこそが「人は自分の鏡」と言われる所以なのだと思います。

また、前述の描写で印象的なのは、メロンパンナちゃんが「お姉ちゃん」と呼んで愛情をもって接したからこそ、ロールパンナちゃんの良心が反応したという点です。

相手が自分の思うがままにならないとき、私たちはつい相手を攻撃したり、責めたりしてしまいがちです。

しかし、相手のいい部分を引きだすということは、丁寧に愛情を注いであげることなのではないかと思うのです。

そしてメロンパンナちゃんとロールパンナちゃんが姉妹という設定になっている点にも、原作者であるやなせたかしの想いが込められているように感じます。

ロールパンナちゃんはばいきんまんに悪用されて暴れたりするのですが、何回そんな事件が起きても毎回「お姉ちゃん!」と懐いていくメロンパンナちゃんの姿は、血のつながりとは関係なく「家族」なのだなあ、と考えさせられるからです。

私がバースデードネーションを通じて応援しているsoarで先日公開された記事の中で、こんな描写がありました。

10代の男の子を預かったとき、深夜12時を過ぎてもその男の子が家に戻らなかったということがあったそうです。心配したよしおかさんのお父さんは、バットを持って門の外で男の子を待ち構えていました。しばらくして戻ってきた男の子に「何時だと思ってるんだ!!」と激怒。そのときは、「お前に言われる筋合いねえよ」と反抗的だった男の子が、「でも良かった。怪我もなかったし、命も無事で」というよしおかさんのお父さんの言葉を聞いて、わーっと泣き出したのだそう。
(中略)
地獄の果てまで堕ちたら、どうせ手を離す、そう思っている子が本当にたくさんいる、と。地獄まで墜ちたらまた一緒に這い上がればいいじゃん、そう言ってくれる大人を子どもは探しているのです。

「地域の多様なひとが「かぞく」や子どもの育ちに関わる社会に。SOS子どもの村JAPAN、よしおかゆうみさんと考えるかぞくのあり方」

どん底までいっても、離れずそばにいてくれる人がいる。
それだけで人は、強く優しくなれるものなのだと思います。

私たちは自分にとって「いい人」と「悪い人」を単純に評価してしまいがちだけど、本当は相手の「いい人」な部分を引き出せていないだけなのかもしれない。
そして愛情と信頼さえあれば、人は安心していい面を出すことができる。

私たちはお互いに誰かのメロンパンナちゃんであり、ロールパンナちゃんでもあるのです。

性善説すぎるかもしれないし、何を青いことをと言われるかもしれないけれど、そう考える方が世の中に希望を持てると思うから、私はそう信じてこれからも人と接していきたいなと思います。

***

(Photo by ikepon

ラブグラフの応援も込めて、表紙写真にラブグラファーさんの写真を使用させていただくことになりました!写真使ってもいいよーという方はご連絡ください:)
★noteの記事にする前のネタを、Twitterでつぶやいたりしています。


サポートからコメントをいただくのがいちばんの励みです。いつもありがとうございます!