安直
思いがけず11時まで寝てしまった。
朝ごはんに、友達からもらったラーメン1束を茹でて食べた。適当に作ったため味が薄くなったが、その子には美味しかったとだけ伝えた。
12時過ぎにようやく準備ができた。ずっと待っていてくれた学生寮の3人の友達と一緒に、淀の京都競馬場へ向かった。宝塚記念を観に行くのである。
私はまったくの素人で、今日が初競馬だった。私のほかには、競馬ガチ勢1人と、その子に勧められて競馬を始め、まあまあ詳しくなった子、そして私と同じ初心者の子がいる。3人は昨日の深夜2時まで集まって、どの馬に賭けるべきか予想をしていた。すごい熱意である。賭けるつもりがなかった私は、彼女たちがうんうん唸るのをBGMに勉強していた。
あいにくの天気だった。偏頭痛持ちの競馬ガチガールは、気圧が低い…と苦い顔で嘆いていた。
淀に着き、スタスタ歩く彼女を必死で追った。かなりの人混みではぐれそうだった。
それから、彼女に馬券の買い方を教えてもらい、私も複勝(3着以内に入りさえすれば的中とみなされる)形式で200円分だけ買うことにした。無知なので、どれを選ぶべきかと他の子たちに丸投げで訊いた。するとジャスティンパレスとドウデュースが堅い、とおすすめされ、私は二つ返事でこの2頭にきめた。実際この2頭を軸に予想する人が多かったようだ。
私以外の友達は1ケタ多く賭けていて、競馬ガチガールに至っては合計7,000円くらいになっていた。
目当てである11番目のレースが始まるまで1時間以上余裕があったので、観覧場所に立ちつつ、説明のうまいガチガールから競馬の知識を教えてもらった。競馬の予想にはあらゆる要素が考慮されるのだと知り、奥が深いなと感心した。
べつのレースの馬の名前がモニターに映し出されたとき、その安直なネーミングの多さにびっくりした。(ex. シンプリーオーサム←ひねりがまるで感じられないところが逆に愛らしい。単にすごいとしか言いようがないのだろう。)
レース直前、それまではなんとか耐えていた雨が強くなり、あわててカッパを着た。祝福の雨だね、などと私は軽口を叩いたが、結果は真逆となってしまった。
つまり、私たちが(そしておそらく競馬ファン全体が)賭けていた二頭が、3着はおろか5着以内にも入らなかったのである。この波乱の展開に、みんな目を丸くして叫んでいた。賭け金が少なかった私は、負けても痛手はなくお気楽だったけれど、他の子たちは驚きと後悔の言葉をとうとうと口にしていた。もっとお金を失ったらと思うとこわいので、競馬にハマりたくないなと感じた。
ただ、競馬場の熱狂ぶりを肌で感じるだけでも楽しくはあった。大きな拍手や悲痛な叫び声も含めて大勢の人びとの一体感があり、競馬はギャンブルであるだけでなくスポーツ観戦でもあるのだなと初めて気がついた。
揃って惨敗したために、帰り道はすこし陰鬱とした雰囲気だった。電車を降りてからびっくりドンキーにみんなで行った。ハンバーグを頬張り、イカの箱舟(初めてだったがとても美味しかった)を分け合って食べて、私たちは元気を回復させた。
3人は、まあ宝塚記念はまた一年後にあるから、と励まし合っていた。それまでに就活が終わっていれば、と1人が呟いたので、そのとき私は何をしているのだろう、就職先は決まっているのだろうか、と考えたけれど、まったく見当がつかなかった。
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