デーツ

なぜか朝4時に目を覚ました。スマホをひらくと、三島由紀夫とカネコアヤノを敬愛する友人から久しぶりにラインがきていた。20分前である。
依存していた相手と付き合った、という報告だった。寝ぼけ眼の私は、おーーーまじか、おめでとう!!と打っていたが、彼にとって本当にそれがおめでたいことなのかはわからなかった。

そのあとすぐ寝て、健全な時刻に起きた。
家を出る前に課題をするつもりだったけれど、丁寧にメイクをしたり洗濯をしたりたまごボールを6つ食べたりしているうちに、微妙に時間は無くなった。
最初に着ていた真っ青なTシャツがしっくりこなかったのでやめ、昨日ボタンを付け直した古着の赤いシャツに着替えた。

とんでもない猛暑だった。

バスに乗って美容院に向かった。途中で電話が鳴り、それは恋人からだった。降りるはずだったバス停よりも前で下車してかけ直し、歩きながら話した。
ここ最近彼は気力を失っていたが、今日の声は極めて元気だった。渡航先で現地の人たちとたくさん飲んだらしく、酔っ払っていた。以前のように軽口を叩き合ったりからかわれたりして、そういう余裕が彼に出てきたことが嬉しかった。だる絡みをされ、冷たく返すこともできたが、“本当は嫌じゃないけれど嫌って言っている”ふうを装ってしまった。たとえるならば、「ね〜やめてよ〜」みたいな感じである。相手が気分を害さないように自分の出方を決めてしまうのが、私のいいところであり悪いところでもあると思う。

美容院には予約時刻ちょうどに着いた。担当美容師さんにぼんやりと希望を伝えた。結果的に、髪色は前と同じようなブルーブラックで、サイドを刈り上げ、左は姫カット、右はマッシュカットにしてもらった。(右も姫カットが良かったけれど、長さが足りないらしい。おそらく私が以前自分で前髪を切って失敗したのが原因だが、それは黙っておいた。)セットしてもらうとかなりかっこよくなったので目が幸せだった。サカナクションにいそうだと美容師さんに言われた。これは彼が毎回使う文句である。

シャンプーがいい匂いすぎたので訊くと、シナモンとデーツの香りらしい。デーツ。デーツを私は知らない。

一旦家に帰って、今日締切のレポートを終わらせた。日が暮れてからまた外出し、このあいだ見つけた、すぎだまさけのみせ という酒屋さんを目指した。帰国する恋人に、誕生日のお祝いも兼ねて日本酒を贈ろうかと思っている。

レティシア書房を道中に発見し、その素敵な店構えに惹かれて思わず入店した。隅々までチェックしたかったが、酒屋さんの閉店時刻を気にして思うようにいい本が探せなかった。絶対にまた来店したい。

急ぎ足で件の酒屋さんへ行った。ここはお酒売り場が手前に、飲むスペースが奥にある。忙しくしている奥から1人出てきて、何をお求めですかときいてくださった。しかし、なんとその人は店員さんではなかった!普通にお客さんで、その人に招かれるまま私も奥に行った。

それから、私に比べて年齢層の高いお客さんたちと一緒に飲んだ。店員さんから試飲2杯をもらい、別のお客さんから奢られたりもした。お酒が提供される場にひとりで行くと、若いというだけで初対面の先輩方がご馳走してくださることが多い。ほんとうにありがたいのだけれど、この待遇はいずれなくなるのだろうな、と考えると哀しい。
商品入れ替えの時期で品揃えは少なく、求めていたタイプの日本酒は残念ながらなかった。それで結局何も買わずに、タダ飲みだけして帰ることになった。「いい子〜」というお客さんたちの言葉を背中で受けながら店を出た。敬語で受け答えし、微笑をたたえ、帰り際に挨拶をした、という形のみの私の外面は、大して褒められるものではなかったと思いますよ。

この日記を記している途中、冒頭に書いた友人からラインの返信がきて、割と長々とやりとりをした。彼は私の恋人のことも訊いてくれた。3ヶ月遠距離だけれど意外と耐えれた、と伝えると、さびしさに押し潰されんかったんか、と言われた。
のど飴はキスの味、じゃない、と返信した。

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