洋楽

インターンのオンライン面接のために、早起きをした。しばらく着ていなかったスーツを着た。普段開けっぱなしにしている窓を閉めて、ドアの鍵もかけた。

いざ始まってみると、スーツを着ているのは面接官と志願者含め私だけだった。

面接では大きな失敗こそしなかったけれど、終わってから重いもやもやが残った。面接官の方にもう少し具体的に教えてくださいと訊かれて、自分が抽象的に話していたことを再度自覚した。私はそれらしい言葉で取り繕う傾向がある。これは小学校の読書感想文のときから変わらない。
積極性を出そうと、最初の質問に一番に手を挙げて答えた。とはいえその内容は決してよくなかったと思う。最後に3名のグループワークがあり、書記を務めた。

面接の精神的疲労を消すため、天気の良い外に出ることに決めた。即座にスーツを脱いで、涼しげなクリーム色のシャツを着て、薄手で柔らかい素材のパンツを履いた。日の光に当たると下着のラインが透けて見えるのに気づき、軽く後悔した。

せっかく日光が強い日なので、それが明るく差し込む喫茶店に行きたいと思った。しかし、スマホに保存していた喫茶店リストを見てもピンとくるものがなかった。しばらく鴨川でぼーっとしたり、商店街を歩いたりした。

祇園まで歩いてふと角を曲がると、切通し進々堂が急に現れた。1回生の頃から行ってみたかった喫茶店である。入るしかない。
あいにくそこまで陽が差し込んではいなかったが、せめてもと思って、入り口すぐ近くの席に座った。

ウインナーとキュウリがさくさくのトーストに挟まれた「ウイキュウ」と、レモンスカッシュを注文した。レモンスカッシュはシロップが別添えで、そのまま飲むとすこし酸っぱかった。
実用書を読みたい気分ではなかったので、吉本ばななさんの『ミトンとふびん』という短編集を持ってきていた。最初の2作を読んでちょっと泣いた。

店主さんと常連さんらしき人が前の席で言葉を交わしていた。いわく、「この辺も変わった」「人間の情がなくなった」らしい。

ご飯の予定までまだ時間があり、暇を持て余した。高島屋のT8に寄って、蔦屋書店とまんだらけを見て回った。1時間弱過ごしてから電車に乗った。

ベトナム人の友達と、去年の10月振りに会った。居酒屋のようなお店で、チーズや海老入りなどいろいろな餃子を食べた。彼女はコーラを2杯飲み、私はビールとよくわからないサワーを飲んだ。最後に、チョコ入りの餃子にアイスがトッピングされたものを頼んだ。彼女はそれをわくわくしながら食べて、クレープだと形容した。これはデザートだね、とふたりで言い合った。

笑顔で映る恋人の写真を見せると、キュートだと言われた。ジャパニーズ・ボーイはクールに振る舞いすぎだ、という持論を持つ彼女には好印象だったようである。

彼女は2027年に日本で英語の教師になって、今のボーイフレンドと結婚するのだと教えてくれた。将来設計がしっかりしているなあと思った。

お店を出たあと、彼女に誘われてカラオケに行った。一緒に行くのは2回目である。
彼女はチャーリー・プースやアリアナ・グランデなどを一緒に歌いたがったが、私はそうした洋楽に疎いので困った。かろうじて耳にしたことのあるサビだけ声を合わせた。藤井風やimaseを期待されたが、それもそんなに覚えていないのでぐだぐだになった。
彼女は英語のラブソングを美声で歌った。歌詞が映る画面をぼんやり見て、意外と洋楽も感傷的だなと思った。

明るい彼女のテンションに合わせて喋っていると、面接のことを思い出して憂鬱になる気持ちはいつのまにか消えていた。英語を話すために頭をフル回転させたことで、要らない思考が飛んだのかもしれない。彼女の言ったことが理解できないまま、それとなく頷く回数も多かったけれど。

今日会って、彼女はいい人だなと初めて認識した。今までは話すことで精一杯で、ちゃんと向き合えていなかった気がする。彼女はリアクションが大きくてかわいいだけでなく、実はちゃんと話を聞いてくれ、押し付けがましくないアドバイスをくれる人である。近いうちにまた会いたい。いや、また半年後とかでもいいや。

カラオケを後にし、私たちは道の真ん中であっさりとお別れした。

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