日没
昼過ぎに起きた。
やけどの傷跡を隠すために古着の長袖シャツを着て、土曜に下北沢で買ったグレーのワイドデニムを履いた。今日はクズバンドマンを装う日だと決めたので、ヘッドフォンも。寝癖で髪がウルフめになったのも相まって、煙草を吸っていそうな退廃感が増した。うれしい。
皮膚科に行って、にきびのお薬処方とやけどの処置をしていただいた。
それから、ずっと気になっていたcafe moleへ初来店した。愛想を無駄に振りまかないと思われる店主さんに、カウンターどうぞ、と通された。
ホットチャイとベークドチーズを注文した。チャイはミルク味があっておいしく、チーズケーキは形容しがたいほどおいしかった。
三条の鴨川沿いに座ってのんびりしようとしたが、人が多くて落ち着かなかった。それで早々に立ち去り、四条のドラッグストアでシャンプーとトリートメントとフェイスパウダーを購入したあと、京阪で出町柳まで戻った。ホームできれいな青髪をしたサブカル系の海外の方に、伏見稲荷に行くにはこっちの電車でよいかと訊かれたのでノーと答えた。
時の流れがゆっくりな、鴨川デルタへ。
坂の上のベンチに座って、『タイムマシンでは、行けない明日』を開いた。
途中、坂下にござを敷いてチルアウトしていた1人の方が近くに来て、話しかけられた。何だろうと思ったら、一瞬トイレに行くので、ござを見ててもらえませんか?と笑顔でおっしゃった。もちろんです!と返した。
数分後に戻られたその方に、問題なかったです!と私が言うと、ありがとうございます!と笑われた。彼女は続けて、ござ気持ちいいですよ、友達が作ってくれたんです〜と気さくに話してくださった。仮に、私も寝転んでみたいです、などと踏み込んでいたとしても受け入れてくださったかもしれないが、へ〜すごいですね!楽しんでください〜と返して会話を終わらせてしまった。経験のない出会い方をした他者との距離感は、掴みどころが難しい。
今日は知らないふたりの方に話しかけられた。人との出会いにはいつもわくわくするし、いつも誰かに話しかけられたいと思っている、じつは。
小説の終盤、外の暗さのせいで文字が見えにくくなったために読むのをやめた。日没だ。
ふと、日が沈んでいく風景の中にリアルタイムで身を置いていることはあまり無かったなと気づいた。そんなことができるのは暇だからに他ならない。暇は日常に感傷をもたらす。
音楽を聴きながら寝転んで黒い空を眺め、昨年や一昨年の夜たちを思い返した。私のことを大事にしてはくれなかった人との逢瀬には、いつも切なさが伴った。ただその感情は独特の快感で、だから今日のような秋の日にフラッシュバックするのだろう。
寮に帰って、同級生10人弱でもんじゃ焼きパーティをした。
中国に留学している同級生にもビデオ通話をつないだ。最近何食べてるのー?と訊いた子がいたが、中華料理!と彼女が返したので笑った。そのまんまやん。向こうの画面は定期的にフリーズしており、中国政府に電波妨害されてるんじゃね?と言い合っていた。こういうブラックジョークはかなり好き。
お酒を何杯か飲んだけれど、まったく酔えなかった。揚げてもらったおいしいポテトやお菓子やおつまみを、手を伸ばしてたくさん食べた。
しばらくして旅行から帰宅した子を、みんなで迎えた。恋人ができたと告白した彼女へおめでとうを言うよりも前に、うわー先越されたーという空気感になっていたのがおもしろかった。恋人がほしいほしいと友達の間でぐちぐち話している時間が楽しかったりするよな。そのあとちゃんと、みんなででかい拍手をした。
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