両利き

久しぶりに恋人が夢に出てきた。内容は忘れた。朝ご飯に、昨日作った茄子とじゃがいものみそ炒めを食べた。

軽くメイクをして、約1年通っている皮膚科に向かった。着いたのは11時半だが、他にも多くの患者さんがいたため1時間半待つことになった。そのあいだに、スーパーでハムとからしを買った。明日は、母から送られたじゃがいもを消費すべく、ポテトサラダを作るのだ。

2分にも満たない、形式ばかりの診察を終えて、切らしていたニキビの塗り薬を処方していただいた。塗るという動作だけでは治療の実感がわきにくい。しかし1年前と比べると明らかに肌は綺麗になっているので、継続することがいちばん重要なのだろう。
医者からは、まるで子どもに言い聞かせるようにタメ口で話された。それが気に食わなかったけれど、若く、甘く扱われるという今だけの特権もあると思うので複雑な心境になった。

帰宅してすこしだけ大学の課題をした。そのあとバイトに行った。

社員さんから、来月のシフトについて個別で話があった。イベント日に出勤できるかと訊かれたので、できますと答えた。
実はその日には、板橋ハウスというお笑いトリオのライブがある。ものすごく好きなわけではないのだが、昨日、地元の友達が大量に余らせたそのチケットを買い取らないかと持ちかけてきたので私は了承していたのだ。ただ、善意で払うにしては5千円のチケット代は重い。そこにバイトのイベントが入ったことが、彼女には悪いけれど、断る絶好の機会となってしまった。マイナス5千よりもプラス1万弱を選びたい。(体験の価値を度外視した場合である。もちろん、板橋ハウスのライブにはお金で測れない価値があるという人もたくさんいるだろう)

住んでいる学生寮に帰って、食堂でご飯を食べた。授業動画を観ながら、左手に箸、右手にシャーペンを持ってノートを取った。両利きってかっこいいよなあ、と小学生みたいなことを思い続け、それをする自分もかっこいいと思われるかなあ、などと、居合わせた周りの子たちを意識していた。そんな阿呆は私である。ちなみに普通に右利きだ。

お風呂場から出て部屋に戻ると、スマホが鳴っていた。電話の約束をしていた恋人からだった。

彼は病み上がりで、熱を出していた期間は声をきくことや中身のあるラインができなかったので、ちゃんと言葉を交わすのが久しぶりだった。そのためか、私は自分のことばかり話したくなって、でもそれをセーブしようとしたので、不完全燃焼みたいな気分だった。
「8月にさ、」と口に出してしまってから、恥ずかしくなって続きを言えなかった。(古本まつり一緒に行こうよ、)と誘いたかっただけなのだが、それすらためらってしまうほど私は本調子ではなかった。彼が断ることは絶対にないと理解しているのに。彼を気にかけたり思いやったりするのではなく、構ってほしいとか自分のことをわかってほしいとかいう自分本位な心が抑えられなくて、つくづく私は子どもだと思った。最近は落ち着いていると思ったのだけれど、変わらない自分に嫌気がさす。
次はもっとうまく伝えられるようにするので、対戦よろしくお願いします、と彼に言い、電話を終えた。

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