2023年10月渡航報告
はじめに
早いもので、気付けばジョージアに渡航してから一ヵ月経ちそうです。
最近お会いした何人かの方から「ジョージアどうでしたか?」と聞かれて、自分でも「あれ、どうだったっけ」となんとも間の抜けた調子になってしまい、ここらで記録しておかないとどうだったか思い出せなくなるのでは?と心許無い気持ちになってきたので一旦まとめておこうと思い立ちました。
2013年という年
ここで唐突に十年前の2013年がどういう年だったか確認しておきたいのですが、2006年からロシアで始まったジョージア産ミネラルウォーターとワインの禁輸政策が2013年に終わりました。
この時期たまたま仕事でロシア南部のソチに出入りしていたので、そこで私はジョージアワインと再会することになります。
あれから10年経ちました。
2014年という年
そしてその翌年の2014年がどういう年だったかというと、ソチのパラリンピック閉幕直後にロシアがクリミア半島を一方的に併合しました。
この時もたまたま仕事でソチにいたので、ソチのアパートのTVでクリミアの戦況を見守りました。
来年の2月であれから10年になります。
その後、日本に帰国してなんとなく日本ソムリエ協会のワインエキスパート呼称資格という試験の勉強を4月から初めて10月に合格しました。
タマダの会
出張の話の前に長い前置きですみませんが、もう少し続けます。
2021年から、駐日ジョージア大使館の公認「タマダの会」というプログラムで事務局長を担当しています。
今年の5月に東京の上野公園で行われた「第一回ジョージア・フェスティバル」の実行委員としてもお手伝いをさせていただき、タマダの会ブースにてジョージア語ワークショップとジョージア関連書籍やグッズの販売などを実施しました。
フェスティバル成功に快くお力を貸してくださいました皆様に、あらためて御礼を申し上げます。
奈文研さん
タマダの会経由でコンタクトいただいた、奈良県の奈良文化財研究所という独立行政法人の研究機関があります。略称は奈文研(なぶんけん)。
ジョージアでは8,000年前からワイン醸造が行われていたという史実から興味を持たれた考古学者の方からお誘い頂いて、昨年2月には奈文研さんを訪問し、恐れ多いことに研究所にてセミナーを実施させていただきました。
そしてさらに恐縮なことに、今年の夏にはジョージアワインに関するコラムのご依頼があって弄した駄文を提出させていただいております。
ここでようやく本題ですが、その奈文研さんのお声がけで今回は現地の甕造りの現場の視察に便乗して同行することになりました。
ちなみに8,000年前の土器からワイン醸造の痕跡が発見されたとする論文は、米国ペンシルバニア大学の考古学者パトリック・マクガヴァン氏によるものです。
(ご興味のある方はこの辺の要約をどうぞ)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29133421/
MWとワイン庁
さてジョージア農業省の外局に国家ワイン庁という組織があります。
日本在住&日本人唯一のMW(マスター・オブ・ワイン)として知られる大橋健一氏は、ワイン庁からの正式な依頼でジョージアワインのアンバサダーを務めていらっしゃるようでジョージアへも何度も視察に行かれています。
今回は色々なご縁が重なって、大橋さんのご紹介でワイン庁諮問委員会の公認ガイドの方を奈文研さん御一行にご紹介いただけることになったと伺い、大橋さんのお友達のお友達枠でコバンザメ化して行って参りました。
ここまで前置きが長くなり本当にすみません…。
甕職人
やっとのことで今回の渡航のメインの目的の話です。
ジョージアの伝統的な素焼きの甕「クヴェヴリ」を作る職人さんを訪ねて、工房を見学させていただきました。
甕は大きなものになると2千リットルにもおよび、厚さ3センチでこのサイズの土器を造れる技術を持っているのは熟練した数名の職人さんだけだそうです。
亀仙人ならぬ甕職人の住む村は内陸のかなり辺鄙なところにあり、なかなか一人でひょいと行くようなわけにはいかないので、同行させていただき本当に有り難い機会でした。あらためて御礼を申し上げたいです。
動画などもたくさん撮ったのでそちらの公開はまたの機会に。
おまけの話
①ラドさん
2018年に東京農業大学の講演で来日されて以来、交流のあるジョージア人にラド・ウズナシュヴィリ氏という方がいらっしゃいます。通称ラドさん。
2017年まで大統領直下の醸造部隊に所属していた方で、現在ジョージアワインの普及のため世界を飛び回り醸造技術を伝えるフライングワインメーカーとしても活躍中。
今回はそのラドさんがコンサルタントを務めるヴァジスバニ・エステイト (Vazisubani Estate) も訪問させていただきました。
ラドさんとは国際的なワインの展示会などこれまでも度々お目にかかる機会があったのですが、今回の訪問に先立ち、ちょうど9月にFacebookで日本とジョージアのブリッジ・プロジェクトが決まったという投稿を拝見したところでしたので、祝福ムードの再会となりました。
プロジェクトの概要は、土壌のマイクロバイオームや病原性微生物叢など様々な共同研究に関する内容とのこと。
②農協さん
昨年6月に首都トビリシで開催された「WinExpo」という展示会でお知り合いになった、ジョージア農協(Agricultural Cooperative)の職員の方がホテルロビーまでわざわざ会いに来てくださいました。
9月に北海道へ視察に行かれたばかりだそうで、その際の記事や写真を見せていただきながら訪日の様子を伺いました。
二国間で農業の技術提携など今後さらに進められたら良いなと思いました。
③JICAさん
現地に事務所のあるJICAさんには、東京で行われるジョージア・フェスティバルにもご協力をいただいている関係で、今回も所長のご出張とイベントの合間を縫ってお時間をいただき色々とお話しすることができました。
④ICT分野交流可能性
これは今回の渡航の目的ではないのですが、渡航したことを知った知人から帰国直後に相談された話なので一応記しておきます。
ICTすなわち情報通信技術の分野における日本とジョージアの交流の可能性について、具体的にはブドウのトレーサビリティとか、醸造や品質管理等でリモート教育の需要があるかとか、そのような話です。
ワイナリーなど栽培・醸造現場の方でそういったニーズがあればぜひご連絡ください。
生産者さんの訪問
お取引させていただいている生産者さんには度々「最近どう?」とSNSを通じて様子を聞いたり、ジョージアに寄った際には必ず連絡を入れるようにしています。
今回とある醸造所が「新しい醸造施設を建てたから見においで」というので、行ってきました。それが以下の写真。
ところで最初の話に繋がるのですが、ジョージアは2006-2013年の間に最大の販路のロシアという市場を失った間、生き残るためにかなり苦しい模索をしたのではないかと思います。
訪問先のとあるワイナリーで、日本の某輸入社がワインを買ったきり買いっぱなしでその後なんの連絡もないという残念な話を聞きました。
どういう経緯かはわかりませんが、ワインを輸入することになった方は生産者さんとの関係性を大事にして、ジョージアにおける日本の評判を落とさないような振る舞いをしていただけるよう願ってやみません。
おわりに
WSET Level3
ワイン好きが高じてなんと輸入まですることになった、ジョージアというワイン発祥の地に住む国民の皆様と交流を続けるうちに、もっとワインについて深い話ができるようになりたいものだという思いが募って、昨年から取り組んでいた国際資格「WSET (Wine & Spirit Education Trust)」のレベル3試験に少し前に合格していました。
合格したら名刺に印刷して水戸黄門の印籠のようにシャキーン!と示すと世界が変わるものなのかなと子供じみた想像をしていたのですが、実際にはそのような「扉が開かれ」てある瞬間から何かが変わるものではなく、淡々と知識量が増えて現場の方とも自然に話が広がったりネットワークが広がるというようなものかも知れません。
この資格に挑戦したおかげで知り合えたワイン業界の皆様、勉強時間を割くために多大なるご迷惑をおかけした仕事関係の皆様、いつも刺激を与えて励ましてくれるお友達の皆様にあらためて感謝したいと思います。
いつもありがとうございます。
また美味しいワインを一緒に飲みましょう。
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