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日本語のニャ行音の翻字について

2月2日は№2の日です。
今回はカタカナが漢数字2》に由来する仮名文字NIに・ニ》に関連するニャ行音の翻字について取り上げます。

以前、スペイン語エニェ《Ñ》に対応する各文字体系の字母でスペイン語エニェÑ》に対応する字母を紹介しましたが、日本語のニャ行音表記ではほとんどの言語においてスペイン語と異なる表記―タイ語ではスペイン語《Ñ》の翻字がヨー・ジン》あるいはその連字〈-ญญ-〉だが、日本語〈ニャ〉行の翻字はノー・ヌー》と母音記号あるいは半母音字との組み合わせ―が見られます。

硬口蓋音のニ[ɲiまたはnʲi]

日本語NIの本来の発音で、国際音声記号未登録のカール付きNȵ》で示した[ȵi]で表記される場合があり、国際音声記号本来の表記は有声口蓋化歯茎音[ṉʲi]となります。
左フック付きNɲ》で表す[ɲi]で代用される傾向があります。
キリル文字では軟母音字で表記されます。

ナ行イ段が硬口蓋系の発音となる表記

NI・Ni・ni】ポーランド
НИ・Ни・ни】ほとんどのキリル文字使用言語
НІ・Ні・ні】ウクライナ、ベラルーシ - ウクライナ語では、新潟のニイは〈НІЇ・Нії・нії〉で表記。
ཉི་】チベット - 文末の場合は《ཉི།》で示す。数詞“2”は〈གཉིས་ / gNyis〉[ニ]と日本語の“”の発音に近い。

ニャ行音

原則的に各言語では日本語ローマ字表記〈NY-〉に合わせた綴りとなります。
ベンガル系文字以外のインド系文字では日本語のニャ行音に近いNYAञ / Ñ・ñ》ではなく、NAとYAの合字न्य / NY・Ny・ny》を用い、パーリ語ではNYAဉ / Ñ》とNAとYAの合字နျ / NY》は共に有声硬口蓋鼻音[ɲ]となりますが、英語などからの外来語表記ではNAとYAの連字で綴られるルールとなります。

【ニャ《NYA・Nya・nya》―ニュ《NYU・Nyu・nyu》―ニョ《NYO・Nyo・nyo》】ほとんどのラテン文字使用言語 - ヘボン式ローマ字の長音記号によるニャア《NYĀ・Nyā・nyā》/ニュウ《NYŪ・Nyū・nyū》/ニョウ《NYŌ・Nyō・nyō》が使用される場合がある。
【ニャ《NYA・Nya・nya》/ニャア《NYÁ・Nyá・nyá》―ニュ《NYU・Nyu・nyu》/ニュウ《NYÚ・Nyú・nyú》―ニョ《NYO・Nyo・nyo》/ニョウ《NYÓ・Nyó・nyó》】ハンガリー - ハンガリー語では《Y・y》は固有名詞・外来語以外では連字構成要素として用いられる。
【ニャ《NÝA・Nýa・nýa》―ニュ《NÝU・Nýu・nýu》―ニョ《NÝO・Nýo・nýo》】トルクメン - 1990年代のラテン文字正書法では日本円マーク¥》に由来する拡張ラテン文字イェーҰ・ÿ》が使用されていたが、大文字はユニコード未登録のため、キリル文字カザフ語ウーҰ・ұ》で代用される。
【ニャ《NJA・Nja・nja》―ニュ《NJU・Nju・nju》―ニョ《NJO・Njo・njo》】セルビア・クロアチア、スロベニア、エスペラント
【ニャ《NJA・Nja・nja》/ニャア《NJÁ・Njá・njá》―ニュ《NJU・Nju・nju》/ニュウ《NJÚ・Njú・njú》―ニョ《NJO・Njo・njo》/ニョウ《NJÓ・Njó・njó》】チェコ、スロバキア
【ニャ《ŅA・Ņa・ņa》/ニャア《ŅĀ・Ņā・ņā》―ニュ《ŅU・Ņu・ņu》/ニュウ《ŅŪ・Ņū・ņū》―ニョ《ŅO・Ņo・ņo》】ラトビア
【ニャ《ΝΙΑ・Νια・νια》―ニュ《ΝΙΟΥ・Νιου・νιου》―ニョ《ΝΙΟ・Νιο・νιο》】ギリシャ
【ニャ《НЯ・Ня・ня》―ニュ《НЮ・Ню・ню》―ニョ《НЬО・Ньо・ньо》】ブルガリア、ウクライナ、カザフ - 拗音を示す軟音符Ь・ь》は軟母音字のあるア段とウ段には用いられない。
【ニャ《НЯ・Ня・ня》―ニュ《НЮ・Ню・ню》―ニョ《НЁ・Нё・нё》】ロシア、ベラルーシ、タジク、タタール - ポリヴァノフ式に基づく日本語キリル文字表記。長音記号》が使用されるのは稀。
【ニャ《НЯ・Ня・ня》/ニャア《НЯА・Няа・няа》―ニュ《НЮ・Ню・ню》/ニュウ《НЮҮ・Нюү・нюү》―ニョ《НЁ・Нё・нё》/ニョウ《НЁО・Нёо・нёо》】モンゴル - 長音表記は他言語経由で借用された場合は省略される。
【ニャ《НИА・Ниа・ниа》―ニュ《НИУ・Ниу・ниу》―ニョ《НИО・Нио・нио》】アブハズ
【ニャ《НЙА・Нйа・нйа》―ニュ《НЙУ・Нйу・нйу》―ニョ《НЙО・Нйо・нйо》】クルド:キリル文字
【ニャ《НЈА・Нја・нја》―ニュ《НЈУ・Нју・нју》―ニョ《НЈО・Нјо・нјо》】セルビア、ボスニア、アゼルバイジャン - 旧ユーゴスラビア諸言語でニャ行音は本来ラテン字母ニュNJ・Nj・nj〉と対になるニュЊ・њ》で表記されるが、近年はセルビア語では羽生姓はラテン文字表記に合わせて〈Ханју〉という風に表記されるようになった。
【ニャ《ЊА・Ња・ња》―ニュ《ЊУ・Њу・њу》―ニョ《ЊО・Њо・њо》】マケドニア
【ニャ《ՆՅԱ・Նյա・նյա》―ニュ《ՆՅՈՒ・Նյու・նյու》―ニョ《ՆՅՈ・Նյո・նյո》】アルメニア
【ニャ《ᲜᲘᲐ・ნია》―ニュ《ᲜᲘᲣ・ნიუ》―ニョ《ᲜᲘᲝ・ნიო》】ジョージア - 大文字は見出しのみに用いられる。
【ニャ《ᲜᲲᲐ・ნჲა》―ニュ《ᲜᲲᲣ・ნჲუ》―ニョ《ᲜᲲᲝ・ნჲო》】ラズ - 大文字はジョージア語と同じく見出しのみに用いられる。
【ニャ《ႬႨႠ・Ⴌⴈⴀ・ⴌⴈⴀ》―ニュ《ႬႨႳ・Ⴌⴈⴓ・ⴌⴈⴓ》―ニョ《ႬႨႭ・Ⴌⴈⴍ・ⴌⴈⴍ》】ジョージア:フツリ体
【ニャ《ᏂᏯ・Ꮒꮿ・ꮒꮿ》―ニュ《ᏂᏳ・Ꮒᏻ・ꮒᏻ》―ニョ《ᏂᏲ・Ꮒᏺ・ꮒᏺ》】チェロキー - 現行正書法では原則的に大文字のみ用いる。
【ニャ《ניא־・־ניה》―ニュ《ניו》―ニョ《ניו》】ヘブライ
【ニャ《نيا》―ニュ《نيو》―ニョ《نيو》】アラビア、シンド
【ニャ《نیا》―ニュ《نیو》―ニョ《نیو》】ペルシア、ウルドゥー
【ニャ《نیا》―ニュ《نیو》/ニュウ《نیوو》―ニョ《نیۆ》】ソラニー
【ニャ《ڽا》―ニュ《ڽو》―ニョ《ڽو》】ジャウィ - かつては下3点付きヤーۑ》で表記され、ペゴン文字と呼ばれる一部言語のジャウィ表記に残っているが、マレー語ジャウィ文字現行正書法ではニャーڽ》を用いる。
【ニャ《ންޔަ》/ニャア《ންޔާ》―ニュ《ންޔު》/ニュウ《ންޔޫ》―ニョ《ންޔޮ》/ニョウ《ންޔޯ》】ディベヒ
【ニャ《ܢܝܐ》―ニュ《ܢܝܘ》―ニョ《ܢܝܘ》】アッシリア現代アラム
【ニャ《न्या》―ニュ《न्यु》/ニュウ《न्यू》―ニョ《न्यो》】ヒンディー、マラーティー
【ニャ《न्या》―ニュ《न्यु》/ニュウ《न्यु》―ニョ《न्यो》】ネパール - 長短は区別されないため、ウ段外来語表記に長母音符号は用いられない。
【ニャ《নিয়া》―ニュ《নিউ》―ニョ《নিও》】ベンガル
【ニャ《ਨ੍ਯਾまたはਞਾ》―ニュ《ਨ੍ਯੂまたはਞੂ》―ニョ《ਨ੍ਯੋまたはਞੋ》】パンジャブ - ニャンニャー》は稀に固有名詞に見られ、西パンジャブ語シャームキー文字《نیـ》に対応。
【ニャ《ཉ་》―ニュ《ཉུ་》―ニョ《ཉོ་》】チベット
【ニャ《ન્યા》―ニュ《ન્યુ》/ニュウ《ન્યૂ》―ニョ《ન્યો》】グジャラート
【ニャ《न्या》―ニュ《ନ୍ୟୁ》/ニュウ《ନ୍ୟୁ》―ニョ《न्यो》】オリヤー - 長短は区別されないため、ウ段外来語表記に長母音符号は用いられない。
【ニャ《ன்ய》/ニャア《ன்யா》―ニュ《ன்யு》/ニュウ《ன்யூ》―ニョ《ன்யொ》/ニョウ《ன்யோ》】タミル
【ニャ《న్య》/ニャア《న్యా》―ニュ《న్యు》/ニュウ《న్యూ》―ニョ《న్యొ》/ニョウ《న్యో》】テルグ
【ニャ《ನ್ಯ》/ニャア《ನ್ಯಾ》―ニュ《ನ್ಯು》/ニュウ《ನ್ಯೂ》―ニョ《ನ್ಯೊ》/ニョウ《ನ್ಯೋ》】カンナダ
【ニャ《ന്യ》/ニャア《ന്യാ》―ニュ《ന്യു》/ニュウ《ന്യൂ》―ニョ《ന്യൊ》/ニョウ《ന്യോ》】マラヤラム
【ニャ《න්‍යා》―ニュ《න්‍යු》/ニュウ《න්‍යූ》―ニョ《න්‍යො》/ニョウ《න්‍යෝ》】シンハラ - ニャ行音は他のインド系文字と異なり、Nන්》とYA》のZWJ合成を使用しなければ表示できない。
【ニャ《နျာ》―ニュ《နျု》/ニュウ《နျူ》―ニョ《နျော》】パーリ - 発音は本来のニャ行音を示すNYA 》と同じ。
【ニャ《𑄚𑄨𑄠》―ニュ《နျု》/ニュウ《နျူ》―ニョ《နျော》】チャクマ
【ニャ《ញ៉ា》―ニュ《ញុまたはញឹ》/ニュウ《ញូまたはញឺ》―ニョ《ញ៉ុ》/ニョウ《ញ៉ូ》】クメール
【ニャ《เนีย》―ニュ《นิว》―ニョ《เนียว》】タイ
【ニャ《ຍະ》/ニャア《ຍາ》―ニュ《ຍຸ》/ニュウ《ຍູ》―ニョ《ໂຍະ》/ニョウ《ໂຍ》】ラオ
【ニャ《》―ニュ《》―ニョ《》】韓国
【ニャ《ニヤ》―ニュ《ニウまたはニユ》―ニョ《ニヨ》】アイヌ
【ニャ《》―ニュ《》―ニョ《》】アムハラ、ティグリニャ
【ニャ《ᓂᐊ》/ニャア《ᓂᐋ》―ニュ《ᓂᐅ》/ニュウ《ᓂᐆ》―ニョ《ᓂᐅ》/ニョウ《ᓂᐆ》】イヌイット

日本語由来の外来語・固有名詞表記に用いられないニャ行音表記用字母

ラテン文字使用言語では、英語と同一の表記で日本語由来の固有名詞・外来語を表記する方針の言語が目立っています。
ゲーム及びアニメ『妖怪ウォッチ』シリーズの〈ジバニャン〉は多くのラテン文字使用言語でヘボン式ローマ字表記の〈Jibanyan〉と表記され、本来の発音が著しく異なる場合があります。
インド系文字ではニャ行音の字母NYA》があるのですが、インド諸言語では前述したようにNAとYAの合字を使用する方針となっていて、チャ行・ジャ行の後の“”を示す場合に限り合字構成要素として用いられます。
【ニャ《GNA・Gna・gna》―ニュ《GNOU・Gnou・gnou》―ニョ《GNO・Gno・gno》】フランス
【ニャ《GNA・Gna・gna》―ニュ《GNU・Gnu・gnu》―ニョ《GNO・Gno・gno》】イタリア
【ニャ《NHA・Nha・nha》―ニュ《NHU・Nhu・nhu》―ニョ《NHO・Nho・nho》】ポルトガル
【ニャ《NJA・Nja・nja》―ニュ《NJU・Nju・nju》―ニョ《NJO・Njo・njo》】ゲルマン諸語、ポーランド
【ニャ《ÑA・Ña・ña》―ニュ《ÑU・Ñu・ñu》―ニョ《ÑO・Ño・ño》】スペイン、バスク
【ニャ《ÑĀ・Ñā・ñā》―ニュ《ÑU・Ñu・ñu》/ニュウ《ÑŪ・Ñū・ñū》―ニョ《ÑO・Ño・ño》】パーリ:ラテン文字
【ニャ《НЬЯ・Нья・нья》―ニュ《НЬЮ・Нью・нью》―ニョ《НЬО・Ньо・ньо》】ロシア、ウクライナ、カザフ - 日本語由来の固有名詞の場合、ア段とウ段に軟音符《Ь・ь》が入らない。
【ニャ《НЬЯ・Нья・нья》―ニュ《НЬЮ・Нью・нью》―ニョ《НЬЁ・Ньё・ньё》】ベラルーシ
【ニャ《ޏަ》/ニャア《ޏާ》―ニュ《ޏު》/ニュウ《ޏޫ》―ニョ《ޏޮ》/ニョウ《ޏޯ》】ディベヒ
【ニャ《ڃا》―ニュ《ڃو》―ニョ《ڃو》】シンド - ニャ行本来の字母はNYEHڃ》。
【ニャ《ञा》―ニュ《ञु》/ニュウ《ञू》―ニョ《ञो》】ヒンディー、ネパール、マラーティー
【ニャ《ঞা》―ニュ《ঞু》―ニョ《ঞো》】ベンガル、アッサム
【ニャ《ઞા》―ニュ《ઞુ》/ニュウ《ञू》―ニョ《ञो》】グジャラート
【ニャ《ଞା》―ニュ《ଞୁ》/ニュウ《ञू》―ニョ《ञो》】オリヤー
【ニャ《》/ニャア《ஞா》―ニュ《ஞு》/ニュウ《ஞூ》―ニョ《ஞொ》/ニョウ《ஞோ》】タミル
【ニャ《》/ニャア《ఞా》―ニュ《ఞు》/ニュウ《ఞూ》―ニョ《ఞొ》/ニョウ《ఞో》】テルグ
【ニャ《》/ニャア《ಞಾ》―ニュ《ಞು》/ニュウ《ಞೂ》―ニョ《ஞொ》/ニョウ《ஞோ》】カンナダ
【ニャ《》/ニャア《ഞാ》―ニュ《ഞു》/ニュウ《ഞൂ》―ニョ《ஞொ》/ニョウ《ஞோ》】マラヤラム
【ニャ《》/ニャア《ඤා》―ニュ《ඤු》/ニュウ《ඤූ》―ニョ《ඤො》/ニョウ《ඤෝ》】シンハラ
【ニャ《ဉာ》―ニュ《ဉု》/ニュウ《ဉူ》―ニョ《ဉော》】パーリ - 本来のニャ[ɲ]は《》だが、パーリ語としては同じ[ɲ]音の《နျ》が外来語表記に用いられる。