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鼻濁点について

11月5日は日本語の日/にほんごの日で、ごまの日でもあります。

今回は日本語仮名文字の拡張ダイアクリティカルマークである鼻濁点について取り上げます。

本来の鼻濁音を示す鼻濁点

日本語のダイアクリティカルマークのひとつである鼻濁点は、濁点》の点が1つになった形状で、すなわち仮名文字の“右肩”に付加する黒ゴマ点》のことです。
Xim Sans Handwrittenフォントにおける名称は〈KANA NASAL VOICED MARK〉と呼称され、U+E506に配置されています。

主にカ行音の字母《カ, キ, ク, ケ, コ》に付加して、国際音声記号エングŋ》で示される音を表す鼻濁音表記が半濁点》による《か゚・カ゚, き゚・キ゚, く゚・ク゚, け゚・ケ゚, こ゚・コ゚》に統一されるまで、日本語学で使用されていました。

本来の鼻濁点を示す説明は明治39年の上水内郡・刊『上水内郡声音学講習筆記』の23㌻や同年の会津日報社・刊『東北発音矯正図説明』の13㌻(※リンク先は国会図書館デジタルライブラリー)で確認でき、主に東北地方における東北弁及び日本語標準語の発音表記に用いられていました。
琉球諸語の八重山語では昭和5年の東洋文庫『八重山語彙』(宮良当壮・著)の6㌻に記載されている八重山語仮名文字表に見られます。

平安時代の訓点資料『大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点』に見られる漢字音[ŋ]音を示す字母《⿵ウ丶》が見られ、鼻濁点のルーツのように推測できそうな字形となっています。

国字用法変声音符

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/862278/16

黄山音符講堂・刊『国字用法変声音符』(片岡哲・著)では、鼻濁点を“清音変声”を示すダイアクリティカルマークとして用いる用例が見られ、半濁音に変化した音などを示す白抜きのゴマ点である白ゴマ点》をカタカナ字母の右肩に付加する表記も見られます。
旧かなづかいの綴りに付加します。

外来音表記用としての鼻濁点

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/869912/30

明治21年の博聞社・刊『和英発音原理』(池田伴庚・著)では、“次清音”に分類される英語《F》[f フ]の発音を示すためにハ行音の字母《ハ, ヒ, フ, ヘ, ホ》に鼻濁点を付加して表記する方式が見られます。

カタカナの筆記体

20世紀中期にカナモジカイでは、カタカナ筆記体及びカナモジ速記の研究が行われ、濁点を点2つから“点1つ”に減らした鼻濁点と同形のダイアクリティカルマークに簡略化する方式が見られました。
それ以前の大正11年の速記術普及会『最新応用速記術』(桜井郷三・著)の片假名早書法で、91㌻に1点のみに簡略化した濁点によるカナ速記が見られます。