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沖縄語のローマ字―ɁUCINAAGUCI nu ROOMAZI―

9月18日は沖縄語の記念日であるしまくとぅばの日です。この記念日は平成18年に制定され、今年制定15周年を迎えました。
沖縄語では1960年代の国立国語研究所沖縄語辞典』(財務省印刷局)で音韻表記のために研究社『世界言語概説(下)』で服部四郎博士が音韻表記のために考案した沖縄語ローマ字が使用され、ラテン文字に《ʔ ç ɴ ꞯ ş z̧》を加えたものになっています。

沖縄語ローマ字

大文字は本来設定されていないため、推測表記になっています。
子音字の下部にセディラ¸》の付く字母は本来、沖縄語首里方言の士族男子音を示すものです。
ヤ行は日本語ローマ字本来のYではなく、国際音声記号に合わせて《J》になっています。
長母音は母音字の連字で示しますが、三省堂『言語学大辞典⑷』での長音表記は母音字の連字ではなく、“なが母音”と呼称される国際音声記号の長音記号《ː》が使用されます。

Ɂ・ʔハムザ[ʔ ッ] - 字母名は大学書林『琉球語辞典』より。ドグリブ語での小文字は《ɂ》。母音字の語頭では大半は声門閉鎖音が伴うため、表記される。
ɁJ・Ɂj・ʔj〗[ʔj ッヤ]
ɁN・Ɂɴ・ʔɴ〗[ʔn- ッン/ʔm- ッン/ʔŋ- ッン]
ɁW・Ɂw・ʔw〗[ʔw ッワ]
ʼアポストロフ[無音; j ィ; w ゥ] - 特定母音の発音を半母音を含む音節に変化させたり、声門閉鎖音を含まない母音に変化させる。
A・a】[a ア] - 語頭では〈ɁA・Ɂa・ʔa〉[ʔa ア]。
AA・aa〗[aː アー]
ʼA・ʼa〗[a ア]
B・b】[b ブ]
BJ・Bj・bj〗[bʲ ビ]
C・c】[ʧ チ] - アイヌ語ローマ字とほぼ共通の表記で、ヘボン式ローマ字の〈CH〉[ʨ チ]や訓令式ローマ字の〈TY, TI〉に当たる。
Ç・ç】[ʦ ツ] - ヘボン式ローマ字の〈TS〉や訓令式ローマ字の〈TW, TU〉に当たる。
D・d】[d ドゥ/ɾ ル] - 前者の[d]は首里方言、後者の[ɾ]は那覇方言の発音。
E・e】[e エ/je イェ] - 語頭では〈ɁE・Ɂe・ʔe〉[ʔʲe イェ/ʔe エ]。
EE・ee〗[eː エー]
ʼE・ʼe〗[je イェ]
G・g】[ɡ グ]
GW・Gw・gw〗[ɡʷ グヮ]
H・h】[h ハ~ヘ~ホ/ç ヒ/ɸ フ] - イ段の〈HI〉[çi ヒ]とウ段の〈HU〉[ɸu フ]は日本語標準語と同じく発音が変化。
HJ・Hj・hj〗[ç ヒ] - 日本語ローマ字の〈HY〉に当たる。
HW・Hw・hw〗[ɸ ファ] - ヘボン式ローマ字の《F・f》に当たる訓令式ローマ字表記。
I・i】[i イ] - 語頭では〈ɁI・Ɂi・ʔi〉[ʔi イ]。
II・ii〗[iː イー]
ʼI・ʼi〗[ji イィ]
J・j】[j ィ/ʲ ィ] - 日本語ローマ字の《Y・y》に当たる
ʼJ・ʼj〗[j ィ] - ヤ行音語頭では原則的にアポストロフが付加される。
K・k】[k ク]
KW・Kw・kw〗[kʷ クヮ]
M・m】[m ム]
N・n】[n ヌ/ɲ ニ]
NJ・Nj・nj〗[ɲ ニュ] - ユニコードではラテン文字連字〈NJ・Nj・nj〉が登録されている。日本語ローマ字の〈NY〉に当たる。
N・ɴはねる音[ɴ ン/-n- ン/-m- ン/-ŋ- ン] - 大文字は基本ラテン文字の《N》と同型。
ʼN・ʼɴはねる音[n- ン/m- ン/ŋ- ン]
O・o】[o オ] - 語頭では〈ɁO・Ɂo・ʔo〉[ʔo オ]。
OO・oo〗[oː オー]
ʼO・ʼo〗[o オ]
P・p】[p プ]
PJ・Pj・pj〗[pʲ ピ]
Q・ꞯつまる音[ⓚː ッ] - 小文字は《q》ではなくスモールキャピタル。《ⓚ》は任意の子音を示す。
R・r】[ɾ ル]
RJ・Rj・rj〗[ɾʲ リ]
S・s】[s ス/ʃ シ] - イ段の〈SI〉[ʃi シ]とエ段の〈SE〉[ʃe シェ]はシャ行音。他はサ行音[s]。
SJ・Sj・sj〗[ʃ シュ] - ヘボン式ローマ字の〈SH〉や訓令式ローマ字の〈SY〉に当たる。
Ş・ş】[s ス] - イ段の〈ŞI〉[si スィ]とエ段の〈ŞE〉[se セ]という風にセディラ記号が付加されると、沖縄語ローマ字本来のシャ行音[ʃ]がサ行音[s]に変化。
T・t】[t トゥ]
U・u】[u ウ] - 語頭では〈ɁU・Ɂu・ʔu〉[ʔu ウ]。日本語標準語の《ウ》は[ɯ]音。
ʼU・ʼu〗[wu ウゥ/u ウ] - 沖縄語カタカナでは〈ヲゥ〉と表記。
W・w】[w ゥ]
ʼW・ʼw〗[w ゥ] - ワ行音語頭では原則的にアポストロフが付加される。
Z・z】[ʤ ヂ/ʒ ジュ] - 語頭はヘボン式ローマ字の《J》[ʥ ヂ]、訓令式ローマ字の〈ZY, ZI〉、日本式ローマ字の〈DY, DI〉とほぼ共通の破擦音となる。
Z̧・z̧】[ʣ ヅ/z ズ] - セディラ記号で日本語ローマ字の《Z》と同じ発音に変化。但しセディラ付きズィーはユニコードに採用されなかったため、U+0327に配置されている合成可能セディラを付加して示す。

日本語仮名文字と沖縄語ローマ字

固有名詞における日本語仮名文字に対応する沖縄語ローマ字発音です。
原則的にエ段短音は《-I》[イ]段、オ段短音は《-U》[ウ]段となります。
沖縄語の外来語表記は日本語の仮名文字そのままの表記であっても沖縄語音で読まれる場合があります(例 : アメリカɁamirika[a.mi.ɾi.ka アミリカ])。
母音字の語頭はハムザɁ・ʔ》を付加します。
ダ行は那覇方言ではラ行R・r》[ɾ]となります。

あ・ア】A[ア]/【あい・アイ】EE[エー]/【あう・アウ】OO[オー]/
あえ・アエ】EE[エー]/【あお・アオ】OO[オー]/【あわ・アワ】AA[アー]/
い・イ】I[イ]/【いい・イイ】II[イー]/【いり・イリ】IRI[イリ]/
う・ウ】U[ウ]/【うう・ウウ】UU[ウー]/【え・エ】I[イ]/
えい・エイ】EE[エー]/【ええ・エエ】EE[エー]/【お・オ】U[ウ]/
おう・オウ】OO[オー].
か・カ】KA[カ]/【き・キ】CI[チ]/【きゃ・キャ】CA[チャ]/
きゅ・キュ】CU[チュ]/【きょ・キョ】CU[チュ]/
きょう・キョウ】COO[チョー]/【く・ク】KU[ク]/
くぁ・くあ・クァ・クア】KWA[クヮ]/【け・ケ】KI[キ]/
けい・ケイ】KEE[ケー]【こ・コ】KU[ク]/【こう・コウ】KOO[コー]/
さい・サイ】ŞEE[セー]・SEE[シェー]/【し・シ】SI[シ]/
しょ・ショ】SJU[シュ]/【しょう・ショウ】SJOO[ショー]/
す・ス】SI[シ]・ŞI[スィ]/【せ・セ】SI[シー]/【せい・セイ】SEE[シェー]/
そ・ソ】SU[ス]/【そう・ソウ】SOO[ソー]/【たい・タイ】TI[ティ]/
ち・チ】CI[チ]/【ちょ・チョ】CU[チュ]/【ちょう・チョウ】COO[チョー]/
つ・ツ】ÇI[ツィ]・ÇU[ツ]・CI[チ]・CU[チュ]/【て・テ】TI[ティ]/
と・ト】TU[トゥ]/【にょ・ニョ】NJU[ニュ]/【ね・ネ】NI[ニ]/
の・ノ】NU[ヌ]/【は・ハ】HA[ハ]・HWA[ファ]/
はい・はえ・ハイ・ハエ】HWEE[フェー]/
ひ・ヒ】HI[ヒ]・HWI[フィ]/【ひょ・ヒョ】HJU[ヒュ]/
ふぇ・フェ】HWI[フィ]/【ふぉー・フォー】HWOO[フォー]・HOO[ホー]/
へ・ヘ】HI[ヒ]・HWI[フィ]/【ほ・ホ】HU[フ]/
みょ・ミョ】MJU[ミュ]/【め・メ】MI[ミ]/【も・モ】MU[ム]/
や・ヤ】ʼJA[ヤ]/【ゆ・ユ】ʼJU[ユ]/【いぇ・イェ】ʼI[イィ]/
いぇー・イェー】ʼE[イェー]/【よ・ヨ】ʼJU[ユ]/【り・リ】ɁI[イ]・RI[リ]/
れ・レ】RI[リ]/【ろ・ロ】RU[ル]/【わ・ワ】ʼWA[ワ]/
うぃ・ウィ】ʼWI[ウィ]/【うぇ・ウェ】ʼWI[ウィ]/
うぉ・ウォ】ʼU[ウゥ]/【うぉー・ウォー】ʼOO[オー].

沖縄語ローマ字による日本語の50音

日本語の発音に合わせた沖縄語ローマ字による日本語表記です。
母音字の先頭にタイ語のオー・アーン》のようにハムザɁ・ʔ》を付加します。
長音[ー]は〈ŞEE〉[セー・セイ]や〈COO〉[チョー・チョウ]のように母音字を2つ並べて示します。
促音[ッ]は《Q・ꞯ》, 撥音[ン]は《ʼN・ʼɴ/-ɴ》と小文字がスモールキャピタルになるので注意。

ɁA・A, ɁI・I, ɁU・U, ɁE・E, ɁO・O】ア・イ・ウ・エ・オ
KA, KI, KU, KE, KO】カ・キ・ク・ケ・コ
SA, SI, SU, ŞE, SO】サ・シ・ス・セ・ソ - スィは〈ŞI〉。
TA, CI, ÇU, TE, TO】タ・チ・ツ・テ・ト - ティは〈TI〉, トゥは〈TU〉。
NA, NI, NU, NE, NO】ナ・ニ・ヌ・ネ・ノ
HA, HI, HU, HE, HO】ハ・ヒ・フ・ヘ・ホ
MA, MI, MU, ME, MO】マ・ミ・ム・メ・モ
ʼJA・JA, ʼI・I, ʼJU・JU, ʼE・JE, ʼJO・JO】ヤ・イィ・ユ・イェ・ヨ
RA, RI, RU, RE, RO】ラ・リ・ル・レ・ロ
ʼWA・WA, ʼWI・WI, ʼU・U, ʼWE・WE, ʼO・WO】ワ・ウィ・ウゥ・ウェ・ウォ - 助詞の“を”は〈-O〉。
ʼN・N】ン - ンアは〈-NɁA〉, ンヨウは〈-NʼJOO〉。
GA, GI, GU, GE, GO】ガ・ギ・グ・ゲ・ゴ
Z̧A, ZI, Z̧U, Z̧E, Z̧O】ザ・ジ・ズ・ゼ・ゾ - ズィは〈Z̧I〉。
DA, ZI, Z̧U, DE, DO】ダ・ヂ・ヅ・デ・ド - ディは〈DI〉, ドゥは〈DU〉。
BA, BI, BU, BE, BO】バ・ビ・ブ・ベ・ボ
PA, PI, PU, PE, PO】パ・ピ・プ・ペ・ポ
KJA, KJU, KJO】キャ・キュ・キョ
KWA, KWI, KWE, KWO】クァ・クィ・クェ・クォ
SJA, SJU, SE, SJO】シャ・シュ・シェ・ショ
ZA, ZU, ZE, ZO】ジャ・ジュ・ジェ・ジョ
CA, CU, CE, CO】チャ・チュ・チェ・チョ
ÇA, ÇI, ÇE, ÇO】ツァ・ツィ・ツェ・ツォ
NJA, NJU, NJO】ニャ・ニュ・ニョ
HJA, HJU, HJE, HJO】ヒャ・ヒュ・ヒェ・ヒョ
HWA, HWI, HWE, HWO】ファ・フィ・フェ・フォ
BJA, BJU, BJO】ビャ・ビュ・ビョ
PJA, PJU, PJO】ピャ・ピュ・ピョ
MJA, MJU, MJO】ミャ・ミュ・ミョ
RJA, RJU, RJO】リャ・リュ・リョ
BWA, BWI, BWU, BWE, BWO】ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォ - 推測表記。
TJU, DJU, HWJU】テュ・デュ・フュ

新沖縄文字とユニコードの字母名

新沖縄文字がユニコードコンソーシアムに追加申請される動きが出てきていて、その草案がツイッター上で公開されています。トップ画像は沖縄語ローマ字と新沖縄文字の字母の対照になっています (※にしき的フォントを使用)。
ユニコードで英語表記による字母名の名付けに使用できるのは英数字ハイフンマイナス-》のみで、アポストロフィ'》はフランス語による字母名には使用可能ですが、英語による字母名では対象外です。新沖縄語特有の声門閉鎖音[ʔ]を含む字母は恐らくクメール文字QA》やタイ・ナ文字QA》, タイ・ロ文字HIGH QA》, バムン文字KAQ𖡐》のように《Q》が声門閉鎖音を示す方法―声門閉鎖音を示す国際音声記号の子音字グロッタルストップʔ》が、疑問符《》の形状に似ていることから英語の〈question mark〉[クエッション・マーク]の綴りにちなみ《Q・q》に由来すると思われる―が目立つことから、この方式が取られる可能性が高そうです。