いろいろな言語でサライ
令和6年8月31日~9月1日放送の日本テレビの超大型特番『24時間テレビ47』で、女性芸人のやす子さんが豪雨の中でのチャリティーマラソンで無事完走しました。
例年8月最終週の土曜・日曜に放送される『24時間テレビ』のエンディングテーマ『サライ』は平成4年の第15回から使用され、同年11月16日に発売された谷村新司さん・加山雄三さんによる歌謡曲で、毎年のグランドフィナーレを飾る曲として出演者の方々が歌い継いでいます。
同曲の英語タイトルは日本語のヘボン式ローマ字表記に合わせた『Sarai』ですが、小学館の雑誌『サライ』の英語表記は、英語本来の綴りでオスマン語の発音に由来する『Serai』が用いられ、発音もサライ[sə.ˈɹaɪ]と共通です。
今回はいろいろな言語でサライを取り上げます。
いろいろな言語でサライ
『サライ』はペルシア語で“家”や“宿”を意味する〈سرا〉[サラー]に由来し、語末に“エザーフェ”という形容詞を表すペルシア語イェー《ی》[-je イェ]を付加したものです。
中世ペルシア語ではスラーイと呼ばれ、碑文パフラヴィー文字表記で〈𐭮𐭫𐭠𐭣〉, 詩編パフラヴィー文字表記で〈𐮍𐮊𐮀𐮃〉となります。
ソラニー語では〈سەرا〉[サラー], マーザンダラーン語では〈سره〉[セレ]が“家”または“宿”の意となっています。
オスマン語で〈سرای〉[サライ]は“宮殿”及び“宮廷”を意味し、“隊商宿”を意味するキャラバンサライもあります。
インド諸言語のほとんどで〈Sarāyⱥ / सराय / 𑀲𑀭𑀸𑀬〉[サラーエ]は“宿泊所”を意味し、インド英語では〈Sarai〉の綴りで示します。ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボは、トルコ語では〈Saraybosna〉[サライボスナ]すなわち“ボスニアの宮殿”を意味しています。
【Sarai】ほとんどのラテン文字使用言語
【Sarai , Serai / ·𐑕𐑼𐑲 , ·𐑕𐑩𐑮𐑲】イギリス英
【Sarai , Serai / 𐐝𐐲𐑉𐐴】アメリカ英
【Saraj】チェコ、セルビア・クロアチア、ボスニア、スロベニア
【Saraj / 𐔛𐔀𐔙𐔀𐔎 / 𐖌𐖗𐖱𐖗𐖧】アルバニア
【Saraja】ラトビア
【Sarajus】リトアニア
【Saray】スペイン、トルコ、アゼルバイジャン、クリミア・タタール
【Saraý】トルクメン
【Saroy】ウズベク
【Sazlaiz / Saƨlaiƨ / 萨来】チワン
【Sáraí / Ꞅɑ́ꞃɑí】アイルランド
【Serai】アフリカーンス、ルーマニア
【Seraiji】フィンランド
【Seraj】ポーランド
【Serajo】エスペラント
【Seray】フリジア、クルド
【Serayo】イード
【Seráj】チェコ、スロバキア
【Serei】ドイツ
【Serij , Serij】オランダ
【Sérail】フランス
【Szeráj】ハンガリー
【Çarai】ポルトガル
【Xa-rai】ベトナム - サラエボは〈Xa-rai-ê-vô〉。
【Σεράι / ΣΕΡΑΪ】ギリシャ
【Сараи】セルビア
【Сарай】ほとんどのキリル文字使用言語
【Сарай / ᠰᠠᠯᠠᠢ】モンゴル
【Сарай / 𐍡𐍐𐍛𐍐𐍙】コミ、コミ・ペルミャク
【Сарај】セルビア、ボスニア、マケドニア、アゼルバイジャン
【Сарой】タジク、ウズベク
【Серай】モルドバ
【Асараи】アブハズ
【Һарай】バシキール
【Սարայ , Սառայ】アルメニア - ラ行は前者のRA《Ր・ր / R・r》がはじき音[ɾ], 後者のRE《Ռ・ռ / Ṙ・ṙ》がふるえ音[r]。
【Սէրայ , Սերայ】西アルメニア
【სარაი / ᲡᲐᲠᲐᲘ / Ⴑⴀⴐⴀⴈ】ジョージア、メグレル
【ᏌᎳᏱ / Salayi】チェロキー
【סאַרײַ】イディッシュ
【סראי , סאראי】ヘブライ
【סריי】カライム
【ساراي】ウイグル、カザフ、ボスニア
【سارای】南アゼルバイジャン
【سراي】アラビア、ジャウィ
【سراى】エジプト・アラビア
【سرای】ペルシア、ダリー、パシュトー、オスマン、南アゼルバイジャン
【سرائي】シンド
【سرائی】サラーエキー
【سرائے】ウルドゥー
【سەرای】ソラニー
【سَرائے】西パンジャブ、カシミール
【ސަރާއި】ディベヒ
【ܣܪܐܝ】アッシリア現代アラム、シリア
【𐭮𐭫𐭠𐭣 \ 𐮍𐮊𐮀𐮃】中世ペルシア
【सराय】ヒンディー、ネパール、ボド
【सराय / 𑘭𑘨𑘰𑘧】マラーティー
【সরাই】ベンガル
【ਸਰਾਏ】パンジャブ
【𑐳𑐬𑐵𑐫 / सराय】ネワール
【સરાય】グジャラート
【𑂮𑂩𑂰𑂨 / सराय】ビハール/ボージュプリー、アンギカ
【ᱥᱟᱨᱟᱭ】サンタル
【宮殿〈சராய்〉―宿泊所〈செராய்〉】タミル
【ಸರಾಯಿ , ಸರಾಯ್】カンナダ
【സരായ്】マラヤラム
【සරායි】シンハラ
【သရာယီ / Sarāyī】パーリ
【𑄥𑄢𑄬】チャクマ
【สราย】タイ
【ສະຣາຍ】ラオ
【ᜐᜇᜌ᜔ / Saray】タガログ/フィリピノ
【ᜐᜍᜌ᜔】ビコル
【ᜐᜎᜌ᜔ / Saray】イロカノ
【ᜐᜟᜌ᜔ / Saray】サンバレス
【ᜰᜭᜬ᜴】ハヌノオ
【ᝐᝍᝁ】ブヒッド
【ᝰᝮᝡ】タグバヌワ
【薩來 , 薩萊 / 萨来 , 萨莱 / Sàlái】中国 - 繁体字・簡体字それぞれの表記の後者は地名に用いる。
【薩來 , 薩萊 / ㄙㄚˋㄌㄞˊ】台湾華
【薩來 , 薩萊 / Saat³-loi⁴】広東
【薩來 , 薩萊 / Sat-lâi】台湾
【薩來 , 薩萊 / Sat-lòi】客家
【萨来 , 萨莱 / Sâklae】上海
【사라이】チアチア
【서라이】韓国
【ᓴᕋᔨ / Sarayi】イヌイット - サラエボは〈ᓴᕋᔩᕗ / Sarayiivu〉。
セラーリョ系統
イタリア語で“王宮; 後宮”を意味する〈Serraglio〉[セッラーッリョ]はラテン語で“閉ざされた場所”の意の〈Serrāculum〉[セッラークルム]とオスマン語で“宮殿”の意の〈Saray〉[サライ]双方の意味が混ざった単語となっています。
『サライ』と同一の意味としてイタリア語経由で借用された言語は〈LY〉[lj リ/ʎ リュ]系統の発音が含まれる傾向が多いのですが、ドイツ語はフランス語〈Sérail〉[セライユまたはセラーユ]の綴りと発音に似せた〈Serail〉[ゼライ]となりますが綴字通りの[ゼライル]とも読まれる場合があります。
【Serraglio】イタリア
【Serrall】カタロニア
【Serrallo】スペイン、ガリシア
【Serralh】オック
【Serraljo】ポルトガル
【Serrāculum】ラテン
【Seraglio / 𐑕𐑼𐑨𐑤𐑘𐑴 , 𐑕𐑩𐑮𐑨𐑤𐑘𐑴】イギリス英
【Seragrio / 𐐝𐐮𐑉𐐱𐑊𐐬𐐷】アメリカ英
【Serail】ドイツ、デンマーク
【Serajlo】エスペラント
【Seralj】スウェーデン
【Seralji】フィンランド
【Сераль】ほとんどのキリル文字使用言語
【سەرال】カザフ
サラユ系統
チュルク諸語で“宮殿; 王宮”を意味する場合は、サライの綴りにペルシア語イェー《ی》/アリフ・マクスーラ《ى》, ラテン文字点無しアイ《I・ı》, キリル文字ウィー《Ы・ы》などといった各文字体系における後舌のウ[ɯ]を示す字母が付加されます。
【Sarayı】トルコ
【Sarayı / Сарајы】アゼルバイジャン
【Saraýy / Saraÿy , SARAҰY / Сарайы】トルクメン - ヤ行[j]は1993年式トルクメン・ラテン文字では日本円記号《¥》に由来するトルクメン語イェー《Ұ・ÿ》で表し、現行正書法ではアキュートアクセント付きY《Ý・ý》で表す。後舌のウ[ɯ]はキリル文字ウィー《Ы・ы》の伝統的な翻字であるラテン文字ワイ《Y・y》で示す。
【Saraji / 𐔛𐔀𐔙𐔀𐔎𐔍 / 𐖌𐖗𐖱𐖗𐖧𐖥】アルバニア
【Saroyi / Саройи】ウズベク - 後舌のウは通常のイ《I・i / И・и》で翻字。
【Сарайы】カザフ
【Сарайы / Sarayi】ウイグル - ラテン文字表記で現行正書法とピンイン式では共に後舌のウは通常のイ《I・i》で表記される。
【سرایی】オスマン、南アゼルバイジャン - YIはペルシア語イェー《ی》の二重字。
【سرايى】チャガタイ - YIはアラビア語ヤー《ي》とアリフ・マクスーラ《ى》の連字。
【سارايى】ウイグル、カザフ - ウイグル語アラビア文字では、後舌のウと通常のイは共にアリフ・マクスーラ《ئى》で表される。