中国語普通話に本来存在しない発音を含む漢字について
12月12日は漢字の日です。
今回はユニコード10.0に採用された中国語普通話に存在しない発音を表すためのスラブ諸語翻字用漢字を取り上げます。
これらの字は本来、スラブ諸語の人名・地名などの固有名詞を表す字母として採用されたものです。
北京語から派生した台湾華語では、台湾語・英語・日本語の影響を受けて発音の幅が広がっていて、欧米圏由来の固有名詞は香港の広東語のように英語ラテン文字そのままで表記される傾向があり、まれに注音符号表記も用いられます。
今回はユニコード10.0に採用された字の読み方について取り上げます。
推測の読みについて
インド・ヨーロッパ語族スラブ諸語由来の固有名詞を表す字は、ヘンが母音, ツクリが子音というタイ文字(例 : E《เ◌》, O《โ◌》)の影響を受けたと思われる表記となっています。
漢語学における“反切”という子音を表す漢字と母音を表す漢字を並べて漢字音を示す方式も取り入れられ、それを母音と子音の順番を入れ替えて造字されています。
キリル文字イェー《Е・е》及びイェスチ《Є・є》に対応するYĒ《耶》[イエ①]は、台湾華語では〈YÉ〉[イエ②]と北京語の第1声から第2声に変化していますが、第1声も許容されています。
無気音は濁点《゛》付き, 有気音[◌ʰ]は濁点無しで示し、実際の《ギ》の発音は《キ》[ki]
カ行音・K・ㄎ【⿰◌克】[kʰ ク]
本来の北京語漢字音に存在しないカ行音節はツクリにKÈ《克》[コヲ]を配置して示します。
普通話ではカ行有気音《K》[kʰ ク]からチャ行有気音《Q》[ʨʰ チ]に置き換えられますが、台湾華語ではカ行有気音《K》のままになる場合があります。
KĪ【鿙】キー - ヘンはYĪ《伊》[イー]。
KIĒ・KIÉ【鿤】キエ - ヘンはヘンはYĒ・YÉ《耶》[イエ]。
ガ行音・G・ㄍ【⿰◌格】[k グ]
本来の北京語漢字音に存在しないガ行音節はツクリにGÉ《格》[コヲ]を配置して示します。
普通話ではガ行音《G》[k グ]からジャ行音《J》[ʨ ジ]に置き換えられますが、台湾華語ではガ行音《G》のままになる場合があります。
GĪ【鿚】ギー - ヘンはYĪ《伊》[イー]。
GIĒ・GIÉ【鿤】ギエ - ヘンはYĒ・YÉ《耶》[イエ]。
ハ行音・H・ㄏ【⿰◌合】[x ホ]
本来の北京語漢字音に存在しないハ行音節はツクリにHÉ《合》[ホヲ]を配置して示します。
普通話ではハ行音《H》[x ホ]からシャ行音《X》[ɕ シ]に置き換えられますが、台湾華語ではハ行音《H》のままになる場合があります。
HĪ【鿘】ヒー - ヘンはYĪ《伊》[イー]。
HIĒ・HIÉ【鿢】ヒエ - ヘンはYĒ・YÉ《耶》[イエ]。
ラ行音・R・ㄦ【⿰◌爾・⿰◌尔】[ʐ ル/l る]
ラテン文字で《R・r》, キリル文字で《Р・р》と表記される[r]音系統の発音となるラ行音節はヘンに側面音[l]系統の発音を表す字、ツクリにĚR《爾・尔》[アル]を配置して示します。但し、簡体字が採用されている字母はわずか1種です。
注音符号ER《ㄦ》に含まれる接近音R[ɹ ル]は、普通話のアル《R・ㄖ》[ʐ ル](※台湾華語では[ʣ ヅ])あるいはエル《L・ㄌ》[l ル]のいずれかの発音に置き換えられます。
RĀ・LĀ【鿜・⿰拉尔】ラー - ヘンはLĀ《拉》[ラー]。
RÁNG・LÁNG【鿥・⿰郎尔】ラン - ヘンはLÁNG《郎》[ラン]。
RÉI・LÉI【鿨・⿰雷尔】レイ -ヘンはLÉI《雷》[レイ]。
RÉNG・LÉNG【鿝・⿰楞尔】ロン - ヘンはLÉNG《楞》[ロン]。
RÌ・LÌ【鿠・鿟】リー - ヘンはLÌ《利》[リー]。ユニコードにおけるスラブ諸語転写・翻字用漢字では唯一簡体字が採用されている。
RIÈ・LIÈ【鿞・⿰列尔】リエ - ヘンはLIÈ《列》[リエ]。
RÍNG・LÍNG【鿛・⿰凌尔】リン - ヘンはLÍNG《凌》[リン]。
RÓNG・LÓNG【鿧・⿰隆尔】ロン - ヘンはLÓNG《隆》[ロン]。
RǓ・LǓ【鿩・⿰鲁尔】ルー - ヘンはLǓ《魯・鲁》[ルー]。
RUÓ・LUÓ【鿡・⿰罗尔】ルオ - ヘンは《羅・罗》[ルオ]。
ヴァ行音・V・ㄪ【⿰◌微】[v ヴ/w ゥ]
本来の北京語漢字音に存在しないヴァ行音節はツクリにWĒI《微》[ウェイ]を配置して示します。
普通話・台湾華語共にヴァ行音《V》[v ヴ]からワ行音《W》[w ゥ]に置き換えられます。
WĪNG【鿦】ヴィン - ヘンはYĪNG《英》[イン]。