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行列の向こう側

「お父さん、蜂のお葬式かなあ、これ」
「お葬式?」
息子に言われて地面を見ると、アリが蜂の死骸を引っ張っている。
「すごいね、3匹くらいで引っ張っていくよ」

数日前から庭で鉢が飛び交うのを見るようになった。
アシナガバチは攻撃性が低く、何もしなければ大丈夫とあるが、わざわざ蜂にちょっかいを出すのは子供くらいで、刺されるのはたいてい不慮の事故である。
蜂と話ができればこちらに来るな、敵意はないと伝えることもできるが、あいにくと蜂の言葉は話せない。
言葉が通じない相手には力しかない。
蜂よけスプレーを買ってきて、巣を作りそうなあたりに撒いてみたら、途端に5匹ほど飛び出た。やはり営巣中だったらしい。
蜂はその時に墜落した個体だった。
薬剤の匂いが消えて、アリが巣に運ぶのを息子は葬儀と思ったのだろう。

人からすれば、「わざわざ生活範囲に巣を作らなくてもいいのに」
蜂にしてみれば、「どこに作ろうがオレたちの勝手」
その主張がぶつかれば力での解決となる。
そうなれば蜂など無力である。

蜂よけスプレーなるもの、初めて買った。
シュッとひと吹き。
蜂でなくても嫌な匂いがする。
飛んでいる蜂に命中すると、苦しみながら墜落する。
なんという毒性!
エアコンの下にシュッとすると、3匹ほど飛び出て地面に落ちる。
まさしく断末魔である。
3分も放っておけば動かなくなる。
哀れなものだ。
数日後アリがやってきて引っ張っていく。


そうか、アレは蜂の葬式だったんだ。
「お前たちは殺すだけで、知らん顔。命に対して尊厳を感じないのか」って言われてるかもしれない。
人よりアリの方が偉いのかもしれない。
ごめんな、蜂。

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