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Energize!

久しぶりの日曜休み。
フレックスが当たり前になって100年以上経つのに、恋人同士が日曜に会うことができないって、制度のどこかに落とし穴があるのだろうと、常々思っている編集者女子です。
そんな貴重な1日、大切な人とのランデブーなのです。
挨拶もそこそこに彼の自慢が始まりました。
「いまはやりのトランスポーター買ったよ。これでいつでもかなに会えるね」
「お風呂とか狙ってきそうだね」
「覚悟はしておけ」
「スタートレック好きのあんたなら何か仕込んでそうね」
「うん。転送開始の合図はもちろんEnergize」
「ホント、スタートレック好きやなぁ」
「気分はカーク船長やで」
「ちょっとみせて。最近ものすごく売れてるらしいけど、実物は見たことないんだ」
「ほいほい、これだよ」
トランスポーターはクレジットカードのサイズ。
高価なものは、1cm角のチップらしい。
もっとも今の時代においてクレジットカードなど存在しないけど。

「移動先はスマホで指定、座標でも音声でも文字入力でもなんでも 」
「わたしの家にEnergize!」
「おいおい、もう設定してあるからダメだよ。声紋、虹彩認識だからね」
「どうやったら使えるの?」
「内緒。それに安物だから、一人しか転送できないし」
「意外と使えねぇな」
「そういうなよ、ほとんど交通費かからないんだぞ」
実際トランスポーターが発明されてたった20年で、鉄道はほとんど廃止された。
数本の新幹線が、大量移動システムとして残っているだけだ。

「つまり専用ってことなのね」
「そうだね。だからこそ安く買えた」
「あやしい」
「え、何が?」
「自分だけのものを買うというのが怪しい。それに設定すればロックがかかってしまうこと。大昔、スマホがはやり出した頃、浮気確認で彼のスマホを見たんだってよ」
「そんなの邪推だよ」
「じゃあロック解除してよ。っていうかぁ、使える人を限定できないの?」
「できる...けど。やり方わかんね」
「いよいよ怪しいな。浮気してない?」
「してないしてない」
「じゃあほら、私にも使えるようにしてよ。いつも自分で持ってるんだから大丈夫でしょ」
「わかったよ。。。」

「これでわたしにもつかえる?」
「うん」
「くじら山こうじがいちばん好きな人の家にEnergize!」
ぽわ〜んしゅっ!
「あっ」
一瞬にして私の家だ…
すごいね、チャーリー!
近代文明に拍手!

「おかえり〜」
向こうから走ってくる彼に手を振って迎える。
なんでおかえりなんだろ、わたし(笑)
少し怒気を含んだ愛らしい顔。
いつものこうじだ。
あたりまえだけど、自分が亜空間移動したあとだと人の顔まで新鮮に見えてくるのが不思議。
「すごいね、ちゃんと家に着いたよ!」
その新鮮感ゆえか、いつもより彼と再会したのがうれしくて、首に手を巻きつけて飛びついてしまう。でもくちびるには届かなかった。
膝曲げろよ、気が利かないやつ^^

「あんたを信じないわけじゃないけど、トランスポーターにも私が恋人と見られたわけだな、うん」
「インデアン、嘘つかない」
「何百年前のギャグなんだよ。いくら20世紀の風俗研究出身だからってなぁ。私しかわかんないよ」

ねぇ、トランスポーターって便利よね。
こんな使い方もあるとはね。
私はあえて浮気検定機として使わせてもらいます。
彼は気づいてない。

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