日本のスタートアップがアメリカでホームランを打てない理由
こんにちは。Ubie共同代表の久保です。私は今年からアメリカのUbieの事業にコミットするために移住しています。その中で、日本のスタートアップがアメリカで勝つ難しさをひしひしと感じています。
この記事では、日本のスタートアップ特有のアメリカで勝てない理由や、そうさせてしまう背景を書きました。ぜひ日本からアメリカ進出を考えている方に一読いただき、私の二の轍を踏まないでいただきたいです。
アメリカでは日本発のスタートアップの存在感がほぼない
少し古い2022年のデータですが、Visual Capitalist社によるとアメリカの582社の10億ドル以上の時価総額のスタートアップのうち、54%に当たる319の企業が移民の創業者によって設立されました。トップのインドはなんと66人の在米ユニコーンファウンダーがいます。様々な国からの移民がユニコーンスタートアップを立ち上げる中、世界GDP4位である日本の国旗がここにはありません。
日本のスタートアップがアメリカでホームランを打てない理由
結論から言うと、単純に打席に立つ回数が少ないことが原因だと思っています。そもそも日本人移民の数が他国に比べて少ないです。以下のグラフは同じくVisual Capitalist 社による国ごとのアメリカ移民の数ですが、25位以内に日本はいません。上から見るとトップのメキシコに次いでアジア諸国であるインド、中国、フィリピンが続きます。また、日本よりも人口が圧倒的に多い国だけでなく、人口の少ないベトナムや韓国も上位にランクインしていることがわかります。韓国は人口は日本の半分ほどですが、日本の3倍ほどのアメリカ移民がいます。日本からアメリカに移住するということが諸外国に比べて一般的ではないということです。
日本のスタートアップがアメリカ進出に二の足を踏む理由
日本のスタートアップにとっても、世界1位の経済大国でありまだまだ成長し続けるアメリカの市場は魅力的なはずです。しかしなぜアメリカ進出する日本のスタートアップが増えていかないのか?スタートアップに特有のアメリカ事業をやらない理由があります。ここではいくつかその要因をあげます。
十分に大きい日本マーケット
国内マーケットの大きさはお隣の韓国やベトナムとは大きく違う点です。GDPも世界4位で十分大きなマーケットがあるとそもそも海外に出る必要はありません。一方で他の国は国内マーケットが小さいため創業者や株主としても海外に出ないと稼げないという構造があるため世界一位の経済大国のアメリカに人材流入します。
早期IPOのしがらみ
スタートアップがIPOを目指すと、よりアメリカ進出の難易度は高くなります。ボラティリティの高さはアーリーステージには好まれるケースはあっても、公開市場ではアメリカ進出は時価総額を下げる要因にしかなりません。また、M&Aではなく一から事業を立ち上げるには必ず初期投資がかかります。人材一つをとってもアメリカの都市圏だと同じ水準の人に3倍程度の金額がかかりますし、マーケティングの競争も熾烈でコストが大きくかかります。また、アメリカで大成功したスタートアップ事例がないということから、株式市場からは悪手と見られることが多くなっています。
日本事業で成功してから進出すれば良いという考え
レイトステージの資金は潤沢であり、事業の成功要因が既にわかっているため、成功確率も高そうに見えるので海外展開を事業計画のできるだけ後に持ってきがちです。
しかし、私はこの考え方に懐疑的です。企業が成長すればするほど、リターンが大きい事業へ資源配分するイノベーションのジレンマが起こり、リスクの高いアメリカ事業に十分に投資する難易度が上がります。また、日本で事業を伸ばしている間にアメリカの産業自体が更に進み、日本の事業で得たアドバンテージが過去のものになるというデメリットもあります。
日本のスタートアップのアメリカ進出の失敗要因
日本人が Day 1 からアメリカで事業を始めるケースも少しずつ増えてきていますが、まだ日本から始めるのが一般的です。そのようなアメリカ進出において日本のスタートアップが陥りがちな失敗要因をピックアップしました。
ファウンダーがコミットしない
私はアメリカ事業を始めるときに、現地の信頼できるパートナーが必要、とにかく最初に良いVPを採用しろと言われました。もちろんそれ自体は真です。しかし、それよりもファウンダー自身がディープダイブして事業をドライブすることが重要だと感じます。アメリカのスタートアップも優秀な人材を採用することを重視していますが、特に事業を立ち上げるときには他人に重要な意思決定を任せません。
しかし、多くの日本の企業ではまず現地で経験がある人を現地責任者として採用します。事業立ち上げという極めて不確実でリスクが高い状況での意思決定に正解はなく、個人としての意思なので移譲することはできません。現地の専門家は優秀であっても、スタートアップが抱えている課題が不確実で誰も正解を知らない限り、ファウンダーがベットするしかありません。
現場にディープダイブしない
特に日本で成功すればするほど、ファウンダーはマネージャーとしての役割が増えて人を介して事業を進めることがに慣れてきます。また日本人は英語に対しての心理的障壁があることが多いことも現場離れを加速させます。しかしアメリカに進出するということは事業を一からスタートするのと同じ意味合いであり、創業時と同じように現場にコミットしないといけません。
営業活動でお客さんと直接コミュニケーションを取ることは、新しい価値を創造するスタートアップにとっては非常に大切です。本当に課題に思っていることを聞く、仮説をぶつけるということを人に移譲すると全て2次情報になります。アメリカではテクニカルなファウンダーであっても自分自身で営業することを強く勧められています。そんな人達を相手にカントリーマネージャーやセールスに任せていて良いプロダクトは生み出せません。
英語に投資しない
日本人のアメリカ進出の大きな障壁が英語であることは疑いないと思っています。英語は単なるスキルでやればできると思われがちですが、その"やる"ということに多大な投資が必要となります。情報の収集、社内のコミュニケーション、お客さんとの会話、全てのベースが英語であり、英語ができないとすべての仕事の生産性が下がります。アメリカ人は表面的に優しいと思われがちですが、英語を話せない人を相手にしません。
特に日本語は言語の構造が英語と全く違います。文法的にわかっていてもアメリカ人にちゃんと聞き取ってもらうのは日本人の英語だとハードルがあります。英語圏での滞在経験がない日本人は圧倒的な投資が必要だと感じています。
自分自身の失敗
ちなみに私自身はこの失敗要因を踏み倒しています。コミットし始めたのはアメリカ事業立ち上げから少し時間が経ったあとですし、移住するまでは物理的距離があり、ディープダイブできているとは言い難い状況でした。日本にいたときには事業インパクトが大きい国内事業にどうしても目がいき、集中できず両方が中途半端という状況に陥りました。こちらに来てからは日本側のことは経営レイヤーしか見ないと決めほとんどの仕事を移譲して、一からスタートアップをやり直す気で取り組んでいます。1営業としてリード獲得、商談を繰り返してお客さんと話をすることでやっと良い意思決定ができていると感じます。
また、英語に関しても苦労しました。今回移住するまで海外在住経験はなく日本国内での英会話学習のみでしたが、やはり自分が言っていることが伝わらず多くの歯がゆい経験をしてきています。そのような経験から途中で英語学習を止めてしまう人もいます。しかし、英語ができないリーダーがアメリカで成功することはありえないと思います。
日本からアメリカで勝つスタートアップを生むために
大リーグでの日本人野球選手たちの成功のように、ひとつでも成功例が生まれると自分たちでもできると多くの成功例が生まれていきます。その正のループをつくるには日本の起業家のマインドが変わるしかないと思っています。起業家は常識の枠を超えて未来を切り拓く人たちであり、その人たちが二の足を踏むと後押ししてくれる人はいません。また、残念ながらアメリカで大成功したスタートアップをつくれてない以上、プレイブックはありません。そんな不確実な状態で大きなリターンを取りに行く根性が一番重要だと感じます。
メルカリの株価ストップ安
実はメルカリ社が今月 (2024年11月) に出したプレスリリースがこの記事を書こうと思ったきっかけです。創業者兼CEO の山田さんがUSのCEOにも就任するという内容だったのですが、現状まだ赤字であるにも関わらず多額の投資をしているアメリカ事業へのフォーカスを株式市場は悲観して株価はストップ安になりました。市場からの評価が下がることを承知の上で、上場企業ながらアメリカでの事業にファウンダーとしてコミットをされている山田さんの意思決定に感銘を受けつつ、我々やより新しいスタートアップも続いてアメリカ進出を成功させないと日本のスタートアップはどんどん世界から取り残されると思いこの記事を書いています。
アメリカで事業展開をする日本のスタートアップは増えている
ホームランを打った日本人のスタートアップはないと説明してきましたが、日本のスタートアップのアメリカ進出は着実に増えていると感じています。上記のメルカリやスマートニュース、ソラコムなどは有名ですし、アメリカで起業して大きくエグジットしている例としてトレジャーデータやFondなどもありますし、TechHouse などベイエリアの日本人の創業者コミュニティもあり現地で起業する人も増えていると感じます。また、日本のグロースフェーズにあるスタートアップとして Zeals やキャディ、コミューン、(親会社はすでに上場していますが) ジョーシスなどもファウンダーがアメリカに来て事業を引っ張っています。このような状況を見るとこの勢いを継続させることでアメリカで大成功するスタートアップを増やしていけると思っています。
Ubieのアメリカ進出
最後にUbieのアメリカ進出はどうだったのかという点に少しだけ触れます。私達の場合は進出自体が非常に遅く、前述の通り創業して私が移住するまでに7年も経っています。しかし仮にもう一度Ubieを一から始められるなら間違いなくアメリカで始めます。
これまでアメリカ進出の計画の話をすると、日本の投資家やアメリカのヘルステックのことを知っている人からは「アメリカには競合がいっぱいいるからなかなか勝てない。」、「必勝の戦略が必要」と言われ続けてきました。そして私自身もそれを真に受けて、「アメリカに行くには準備万端な状態でないと...」と言い訳にし続けてきました。しかし、実際にアメリカに来てみると予想以上に真正面から争う競合が少ないことがわかりました。自分たちがやってることのユニークさや課題も含めて更に解像度の高い情報が入ってきました。
調査でわかることもありますが、実際にお客さんが買うかどうかを見ないと真にニーズがあるかどうかはわかりません。今考えると当たり前なのですがUbieが取り組んでいる課題に私達以上に詳しい人自体そうそういないのに、日本にそれを知ってる人などいるわけはなかったのです。こういった意味でも一番事業に想いを持っているファウンダー自身が自分の目でアメリカで確かめるしかないと思っています。
そして今は医療アドバイス×製薬マーケティングの分野でアメリカNo.1、世界No.1になれると本気で考えています。
今回の記事とは別にUbieのアメリカ事業そのものについてもまた別の機会に詳しく書ければと思っています。
Ubieを世界的な企業にするためには仲間が必要です
さんざんアメリカのことを書いてきましたがもちろんUbieは日本の事業がコアであり現在も絶賛成長中です。直近では生活者向けプラットフォーム、ユビーの月間ユーザー数は1,200万を突破し、そのプラットフォームを元にした、製薬企業向けの疾患啓発・データ事業も圧倒的に成長しています。
直近で Google 社からの資金調達も完了し、日本のヘルスケアをマーケットごと変革していくフェーズに入っています。
そして、これからのグロースを牽引するリーダーたちがまだまだ足りていな
い状況です。特に今までスタートアップのグロースフェーズを経験している方々の参画を強く願っております。ぜひ応募してください。
ちょっと話を聞いてみたいという方は、カジュアル面談もやってますのでぜひ申し込んでください。